31.さっきも同じようなことを聞かれたな
男の絶叫に他の二つのテントからそれぞれ人が飛び出てくる。
一人はエイティ達と同じくらいか、少し年下かの若い男だ。鎧も着ずに短槍を持って、こちらに向かってくる。
もう一人はエルイと同じかそれ以上の年の女である。こんな場所には似合わないドレスらしきものを纏っている。肩まで伸ばした茶色い髪をした、なかなかの見目の女だ。こちらを見た瞬間、逆の方向に逃げ出そうとしていた。
ユーリはドーリの影からスッと前に出ると、絶叫している男の持っていた槍を拾い上げた。そして女の方に向けて投げる。
投げ槍というのは斜め上方に投げて山なりの軌道を描く。そうやって距離を稼ぐのだ。そして現代の競技用の槍でも八百グラムある。この世界の戦闘に使うための槍の重さはその比ではない。
だがユーリの投げた槍は、ほぼ一直線に飛んで女の右太腿に突き刺さった。相当の力だったのだろう。太腿を突き抜けて刺さっていた。
女の「ヒイイッ」という甲高い悲鳴が響いている。もうまともに動くことは出来ないだろう。
「や、止め、降、降伏、する」
「降伏すると言いながら殴りかかってきた相手を今更信用できるとでも?」
絶叫していた男が降伏を喚くが、ドーリは構わずにハンマーを振り下ろす。
左肩が砕ける音と再び男の絶叫が響く。
続けて左膝にもハンマーを叩きつける。男の絶叫は続いたままだ。
両腕を壊して武具を持てなくする。両脚を壊して逃走も出来なくする。
エルイの護衛達は、先程嘘を吐いた男も同じようにされていたな、とその様子に眉を顰めていた。
短槍を持った若い盗賊の男は、倒れている男を見る。
敬意は持てないが、その腕だけは認めていた筈の男が絶叫し続ける様を。
そして女の方に視線を移す。
足元まである長さのドレスを着ているのに、布越しに太腿の部分に槍が生えて悲鳴を上げているのが見える。
最後に襲ってきた者たちの方を見る。
一台の馬車を牽いた九人の男達で、一人は金属鎧を六人は革鎧を着ている。
自分一人ではどう考えても敵いそうな相手ではなかった。
「お宝はどこだい」
ドーリは絶叫している男を無視して、右手に持った短槍を構えもせずに立ち竦んでいる若い盗賊の男に声をかけた。
問われた男は震えながら言った。
「フィ、フィルヴィは……」
「質問に答えて欲しいんだがな。馬車の横に吊るされているのは何だと思う」
若い盗賊の男はそれを見てようやく気付いた。
襲撃に失敗して逆にアジトに攻め込まれたのだと。
フィルヴィですらあの状態なら他の皆も逃げられた筈が無いことを。
「は、話せば助けてくれるのか」
「さっきも同じようなことを聞かれたな。お前も盗賊団の一員なんだろ。選択肢は二つだ。素直に話して楽に逝くか、嘘を吐いてコイツのように苦しみ抜いて死んでいくか」
ドーリはハンマーの石突で倒れた男を小突きながら答える。
突かれる度に男は悲鳴を上げる。
若い盗賊の男は諦めたように手にした短槍を落とした。
「あのテントに纏めている」
「ポジティブ」
「ネガティブ」
訊かれた男は女が飛び出てきたテントを指差しながら答えた。
それに対してゴローとエイティが別々の反応を返す。
ドーリは「ん?」と呟いて、再び略奪品のありかを問い質した。
「あのテントの中だ。あ、あの女が持っている分も含めて。でも俺は下っ端なので宝箱の開け方は知らない」
「ポジティブ」
「ポジティブ」
「なるほど、そういうことか。まあ本当の事を言ったと考えてやるよ」
エイティが進み出て若い盗賊の男が落とした短槍を拾った。
そして先刻同様に眠らせ麻痺させて、拾った短槍を肩から心臓に突き立てる。
睡眠や麻痺と言ったデバフ、相手の弱体化は魔術師であるエイティの方が専門であり得意分野なのだ。
倒れて悲鳴を上げ続ける男は、その様子を見てなぜか羨ましいと感じていた。
ドーリはエルイに財貨が溜め込まれているテント以外の、他のテントの捜索に護衛を廻すように頼んだ。
エルイも護衛達も彼等の実力が桁外れであることを理解しているため、おとなしくその要求に従っている。
若い盗賊の男が財宝があると言ったテントには、察知が出来るゴローと探知魔術のあるエイティが潜り込む。罠があることに備えてだ。
ドーリとユーリはそのテントの前に控えていた。
近くで槍に足を貫かれた盗賊団の首領の情婦だった女が、ヒィヒィと悲鳴を上げながら何かを言っているようだ。
二人共それを無視してテントの前に立っている。
エルイは両手足を砕かれて呻き続ける男の傍で槍を携えて立っていた。その槍は木立ちにいた盗賊の持っていた物の一つだ。
この男がろくに動けないのは分かっている。だが目を離す訳にもいかないと思っているのだろう。
呻いていた男がエルイに声をかける。
「な、なあ、あんた。俺、俺は、どうなる、んだ」
エルイはそれを無視したまま何も言わない。
「フィ、フィルヴィの奴は、く、くたばったんだろ。ほ、他の奴等も」
エルイはその男に目を落とし、少し考えてから言った。
「お前を下したハンマー使いが、赤子の手を捻るようにフィルヴィを倒したよ。奴は生きたまま首を斬られた。ハンマー使いの仲間の弓使いは、お前等のナンバーツーだった魔法使いの頭を爆散させた。見ただろう、そこの若いのが眠るように死ぬ様を。ローブの男は魔法使いだ。逃げ出そうとした奴は両手足を焼かれていたな。このアジトを聞き出すときに嘘を吐いた奴はお前と同じ目にあったよ。たぶん短槍を持った男も魔法使いだ。素直に喋った奴をローブの男と同じ方法で殺していたからな」
「そ、その嘘を、つ、吐いた、奴は、ころ、殺したのか」
「ハンマー使いが言ってたな。運が良ければ今日中に生きたまま獣に喰い殺される。数日中には苦しみ抜いた末の餓死か、痛みによる狂死だろうと」
エルイは自分達が処分したことは言わずにいた。言えばそれはこの男の希望になるかもしれない。
倒れたままの男は懇願をこめるように続ける。
「な、なあ。あ、あんたが、雇い主、なんだろ。俺を、こ、殺してくれ」
「まさか。あんな腕の立つ連中を雇ったら一人一日百ルプはかかる。行商の利益が吹っ飛ぶよ。たまたま一緒に居るだけさ。……どちらかと言うと我々の方が運搬人として雇われてるのかも知れんな」
エルイは少し自虐気味に告げた。彼はお宝の半分が報酬の運び屋に違いない。
その言葉に男は絶望的な顔をした。だがすぐにエルイに向かって叫ぶ。
「あ、あの、女狐は、ぜ、絶対、ホントの事は、言わ、言わねえ。フィ、フィルヴィが、助け、助けに来る、と、信じて、やがるから。俺、俺が、盗品の、ことを、しゃ、喋る。だから、こ、殺してくれ」
エルイはまた少し考えた後、男の襟首を掴んだ。




