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29.ネガティブ

「な……何……を……」

「聞こえてただろ。お前の首は金になるそうだ」

「や……止め……助……け……」


 フィルヴィの首に刃が触れた瞬間ジュッと音が響く。皮膚が焼かれたのだ。

 ドーリはそのままゆっくりと右脚に力を込め続けていく。

 フィルヴィは悲鳴を上げ続けたが、ある瞬間から口をパクパクするだけになった。気管が切断されたのだろう。

 そして頸椎が断ち切られた音が辺りに響く。


 ドーリはフィルヴィの髪を掴んで、拾い上げた首を生き残りの盗賊達に向けて掲げる。

 フィルヴィの顔は血塗れだった。目鼻口耳と顔面の全ての穴から血が滴り落ちている。表情は生きたまま首を切られる恐怖に引き攣ったままだ。

 盗賊の数人が耐え切れずに目を逸らした。

 その後ろでユーリは黙って剣を拾い上げフィルヴィの服で血を拭っている。

 ドーリは先に話し掛けた男に再び尋ねた。


「喋る気になってくれたか?」

「アジトはあっちだ。けどニ十セタロー以上離れている」


 その男は震えながらも、ある方向を指差して答えた。

 途端にエイティとゴローが揃って言った。


「ネガティブ」

「ネガティブ」


 エイティは立ったまま、その男を見下ろしている。

 ゴローはヤンキー座りもしくは便所座りやカエル座りといわれる姿勢で、両肘を太腿に付いて両手を顎に当てその男の顔を見ていた。

 気配察知で表情と発汗や心拍数の変化など嘘発見器の役割を果たしていた。

 エイティも魔術により同様のことを行っているのだろう。

 二人の言葉を聞いたドーリが躊躇いもせずにハンマーを振り下ろす。

 何かが砕け散る音が三度響いた。

 そこには両肩と腰を砕かれて悲鳴を上げ続ける男が倒れているだけであった。


「嘘しか吐けねえ口は不要だろ」


 ドーリはハンマーの石突の部分を、悲鳴を上げ続ける男の顔の下半分に向けて鋭く突き下ろす。

 鈍い音が響く。下顎が砕けたのだろう。その男は痛みに叫ぼうとするがアウアウとしか言えなくなっていた。

 ドーリは残った盗賊の中から適当に一人を選び出した。


「喋ってくれるよな」

「ソ、ソイツはどうなるんだ……」


 話しかけられた盗賊の男は、嘘を吐いたため腕と腰と下顎を破壊されて呻っている男を指差しながら言った。

 全身ガタガタ震えている。


「質問してるのは俺なんだがな。まあいい。別にどうもしねえよ。あのまま放置だ。下顎がぐちゃぐちゃだから舌を噛んでの自殺も出来ねえ。数日中に飢え死にか渇き死に、痛みで狂死するかもしれねえな。運が悪けりゃ……良ければかな。今日中に獣に生きたまま喰われて逝けるだろ」


 その言葉を聞いた盗賊の男は一層全身を震わせる。

 そしてドーリの自分を見る冷たい目に気付いた。

 彼等は自分達盗賊を人として見ていない。獣、いや物以下と思ってるのだ。だから慈悲の欠片も無い。

 見回すと戦闘中に相対していた護衛の三人は、腕と脚を潰された男を気の毒そうに見ている。しかし止める様子は無い。連れて行けない以上殺すしかないのだから。商人らしい男も同じような顔をしていた。

 だが自分を見下ろしている魔法使いと、しゃがんでこちらの顔を見つめている男、その傍で拾い上げた剣を持って所在無げに立っている男はハンマー使いと同じ目をしている。

 その四人は盗賊達を意思ある生き物として扱う気が全く無いのだろう。

 諦めきった盗賊の男は話し出した。


「なんでも答える。だから楽に死なせてくれ」

「ああ。俺等は約束は守るよ」

「アジトはあっちだ、六セタローほど先の岩山だ。残っているのは三人。そこそこの腕の奴と下っ端、そして首領の情婦だ」

「ポジティブ」

「ポジティブ」


 ゴローとエイティが揃って言う。

 ドーリはエルイの方を向いた。エルイは首を縦に振る。

 盗賊の男が指差した方向のその辺りに岩山があるのは確かなのだろう。

 フィルヴィが頑なに話そうとしなかったのは、自分の情婦がアジトに居たためかもしれない。


「お宝はあるのかい」

「討伐された時に慌てて持ち出した分だけだ。高価な物はあるが量は少ない」

「ポジティブ」

「ポジティブ」


 ゴローとエイティが肯く。

 ドーリは再びエルイの方を向き「他に聞く事はありますか」と問いかける。

 エルイは少し考えてから「協力者の有無と分派でしょうか」と答えた。

 それを聞いた盗賊の男はすぐに答える


「もともと討伐隊が組まれたのは都市の協力者が一斉に摘発されてアジトがばれたせいだ。ここには流れてきたばかりだ。協力者は居ない。他に逃げた奴等が居るのかもしれないが分からない。居ても首領のような力がある奴はいないだろう」

「ポジティブ」

「ポジティブ」


 完全に心が折れているのだろう。盗賊の男は素直に答え続けた。身体の震えも治まっているようだ。

 エイティには言葉が分からないが聞くべき事は聞き終えたと思ったのだろう。ユーリが持つ自分の剣を受け取ろうとした。

 しかしユーリは右手に剣をぶら提げ、素直に喋った盗賊の元に近付いていく。

 エイティは弓使い二人、ゴローは魔術師一人、ドーリは首領のフィルヴィを殺している。次は自分の番だと考えたのだろう。

 人を殺す経験などしたくはない。だがこの世界にいる以上、そんなことを言ってられないのは分かっている。


 喋り終えて放心して座っている盗賊の男の額に左手を当てる。

 するとその男はすうっと眠るように目を閉じた。


「睡眠と麻痺をかけたんだ。治癒の応用だよ」


 ドーリはそれを聞いて、残った盗賊の男達にどういう状況かを教えた。治癒魔術であることは隠しているが。

 ユーリは座ったまま眠っている盗賊の男の背後に回った。右手に持った剣先を首元、鎖骨の後ろあたりに当てる。少し躊躇った後、一気に剣を突き刺した。

 剣を刺された盗賊の男の身体が一瞬ビクッと痙攣する。しかしそれだけで終わったようだ。

 ユーリは少し待ってから剣を引き抜いた。血が噴き出すが勢いはない。心臓が完全に壊されて血流が止まっているためだろう。

 ドーリは盗賊達に向かって告げる。


「見ての通りだ。素直に喋った奴は眠ったまま痛みも感じずに逝ける。嘘吐きはそいつのようになるがな」


 残った五人の盗賊達は眠ったように座ったまま死んだ男と、両肩と腰そして下顎を潰されて呻き続ける男を見比べた。

 ここで死ぬのは確定している。どちらの死に方が良いのだろうか。

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