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27.決裂だ

 ドーリはのろのろと背にした大盾とハンマーを手にしながら先頭に立つ。

 手にした装備をろくに構えもせずに言った。


「あー、無駄だと思うが一応言っておく。おとなしく降伏してアジトの場所を吐きな。そしたら苦しまずに逝かせてやるから」


 フィルヴィはドーリの言葉にキョトンとした後、爆笑しながら答える。


「ゲハハハハ。ひでえ訛りだな。こんな田舎じゃ仕方ねえか。降伏するのも死ぬのもお前等だろうが」


 ドーリは溜息を吐いて、エイティが分かる言葉で言った。


「決裂だ」


 その瞬間木立ちの上方から「ギャアアア」という声が二つ響いた。

 そしてドサッドサッと二つの物体が樹上から落ちてくる音が聞こえる。まるで稲妻に貫かれたような黒焦げの何かが転がった。ブスブスと表面が焦げたような音も聞こえている。

 盗賊達はその悲鳴と音に全員が背後を振り返った。

 次の瞬間にはバンッと何かが破裂したような音が聞こえた。

 また盗賊達が全員音のした方に向き直る。

 そこには頭部が破裂したかのように無くなり、首から上が存在しないローブを着た男が崩れ落ちていく姿が見えた。

 盗賊達には分からなかったのだろう。五百メートルもの先から矢が飛んできたことに。しかもそんな距離なのに人の頭部を粉砕する威力があることに。命中、遠射、剛力、爆砕。ゴローはどれほどのスキルを注ぎ込んだのだろうか。

 エルイと護衛達も呆然としてそれを見ている。

 そこにドーリが声を掛けた。


「護衛の方々いきます」


 言うやいなやドーリは、フィルヴィに向かって突っ込んでいった。

 護衛達は事前に弓持ちと魔法士の三人を無力化することを聞いていたため、その声で即座に己を取り戻した。そして残りの盗賊達に向かっていく。

 盗賊達のほうは未だ何が起こったのか分からないようで呆然とした状態だ。

 そんな中盗賊の首領フィルヴィだけは気を取り直したのか、両手持ちの大鉈をドーリに振り下ろした。


「テメエら何しやがった」

「邪魔な弓持ちと魔術師らしいのを先に片付けただけだ。それがどうかしたか」


 振り下ろされた大鉈を、ドーリは大盾で軌道を逸らせながら答える。

 護衛達はフィルヴィ以外の盗賊に向かって行った。

 弓で肩を射る。槍を太腿に突き刺す。二刀の護衛は腕を切りつける。既に四人の盗賊の戦闘力は激減しているだろう。

 残り四人の盗賊はハッと気付いて武器を取り向かって来た。

 護衛達と拮抗状態になっている。

 フィルヴィは大鉈を振り回しながら歯をむいてドーリに向かって来た。


「俺様は誰もが恐れるフィルヴィだ。軍の討伐ですら俺様を倒せなかったんだ。テメエのような雑魚にやられる訳がねえ」


 そんな台詞を聞いてないかのように、振り回される大鉈を軽く捌きながらドーリは「この程度なのか?」と呟いた。

 確かに相当な質量がある大鉈を振り回せるのだ。筋力は高いのだろう。

 パワーアップ系のスキル、剛力ほどではなくとも強力程度は乗っていそうだ。

 しかしそれだけなのだ。技術は全くたいしたことが無い。いくらでも受け流し、捌き続けることが可能だ。


 そしてレベル一程度の強力を乗せたハンマーを振るった。

 狙い違わずフィルヴィの左肘に打ち込まれる。ゴガッと音がした。左肘が完全に粉砕されたらしい。


 フィルヴィの左手が大鉈から滑り落ちていく。

 信じられないような目でそれを見ながらも、フィルヴィは右手だけで大鉈を振るい続けようとする。確かにエルイの言うようにとんでもない怪力なのだろう。

 だが再び振るわれたドーリのハンマーが右肘をも砕く。

 握力が無くなったフィルヴィの右手から大鉈が離れて落ちていく。

 その瞬間、張っていた気力が切れたのかフィルヴィは「ギャアアア」と喚き出した。砕かれた骨が神経を刺激しているのかもしれない。


「イテエ、イテエ、イテエ、タ、タス、助けてくれえ」

「五月蝿い。喚くな。黙れ」


 言いながらドーリはフィルヴィの左肩にハンマーを打ち下ろした。

 形容しがたい音がしてフィルヴィの左腕が下の方にずれる。脱臼したか、もしくは鎖骨が折れて左腕を保持できなくなったのだ。

 更に大きな悲鳴がフィルヴィの口から放たれる。


「黙れと言っただろ」


 ドーリは右肩にハンマーを振り下ろした。

 右腕もずり落ちる。今度は大きな悲鳴が出なかった。ガハッガハッという声が漏れるだけだ。

 ドーリは気にせずにフィルヴィを蹴り倒す。

 両腕が動かないフィルヴィは受身も取れず頭から倒れていった。腰まである草により怪我は無くて済んだようだ。だがこの時点で頭を打って死ぬか気絶していた方が幸せだったのかもしれない。


 エルイの護衛の一人、弓使いの男は後方から矢を放っていたため、視界の片隅にドーリの行動の一部始終を捕らえていた。

 フィルヴィがその怪力で無茶苦茶に振り回す大鉈を、シールドで軽く捌いていく様をだ。

 ドーリはフィルヴィの大鉈を直に受けるのではなく逸らすように流している。

 どれほどの技量があれば、そんなことが可能なのだろう。


 木製の盾なら一発で粉砕されるだろう。といってドーリの持つ盾は総金属製ということもあるまい。

 鉄の比重は八に近い。仮にドーリの盾を幅がニ十ロー高さ三十ロー厚さ一ローだとする。カイトシールドなので地面に着く部分が先細りになっているとしても二千アイルを越えるだろう。

 いくら膂力が強くても左腕だけでその重さの盾を振り回すことなど出来る筈も無い。

 特殊な魔物の骨や鱗を加工した特別製なのかもしれない。だが水に近い比重になったとしても三百アイルくらいはあるのだ。

 それを器用に動かし攻撃を捌いている。


 そしてハンマーだ。戦闘中は二回しか振るっていない。

 その二撃だけで、あのフィルヴィが戦闘不能になったのだ。

 的確に肘を狙って壊している。打撲を与えるのではない。破壊しているのだ。

 両肘から先はありえない方向に曲がっていた。

 戦意を無くし大声で喚くフィルヴィの両肩にハンマーを喰らわした後は両腕自体が垂れ下がっている。


 フィルヴィの叫びに残りの盗賊は闘いを止めて、その様子を見た。

 絶対強者と思っていたフィルヴィが赤子の手を捻るように打ち倒されたのだ。

 仮に治癒魔法使いがいたとしてもフィルヴィの両腕を治すのは不可能だろう。

 国の最高位治癒魔法士なら可能かもしれないが、そんな立場の者がフィルヴィなんかに治癒を行う筈が無い。

 大鉈を振るい力を示すことが出来なくなったフィルヴィは、もう盗賊の首領としては終わったのだ。

 あのハンマー使いの男が向かって来たら、盗賊達は全員同じ目にあうだろう。

 ただでさえ現状あのハンマー使いを除いた四人と拮抗しているのだ。

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