表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/199

102.人間だよ

 急に真面目な顔になり、クーディが訊いてきた。

 これがまともに話が出来る最後の機会だと思っているのだろう。

 明日の朝食も一緒にする予定だが、ゆっくり会話する時間は取れない筈だ。

 すぐに組合の駐車場に向かって馬車を受け取る。そして平民街の領兵詰め所、貴族街の領兵詰め所と経由しながら護衛達や指揮官と合流する。

 領主の館に着いたら、そこが別れの場になるだろう。以降はお役御免となる。もう案内も護衛も「監視」の必要も無くなるのだから。


 ユーリは少し考える。だが本当の事を言う訳にもいかない。

 クーディ達は信用できる相手だ。だが現状では単なる冒険者に過ぎないのだ。

 少し言葉を選びながら、問いに答える。


「異国の者で間違いないさ。只の、と言うのは少し語弊があるがな」

「人間……なんだよな」

「あはは。神の御使いか、蘇った神話の英雄だとでも思ってたのか。そんな訳無いさ。こうして飯も食うし排泄だってする。人間だよ。少々変わった能力を持っているがな」

「その変な力で、ラゴギョノテや盗賊達を瞬殺したのか」

「少し人より速く動けて、力も強く、大きな魔法も使える。だが人間だよ」


 人間だと繰り返すユーリは、まるで自分に言い聞かせているようでもあった。

 スキルなどと言う特異能力が有り、多少の傷を受けようと問題ない身体で、この世界に有り得ない知識も持っている。姿を変えられ、時空間を無視して移動させられてもいる。

 けれど二十数年間、日本人として生きてきた記憶や経験は残っている。

 彼等は「人間」なのだ。


 クーディもその様子に言葉を控える。

 彼等は間違いなく人間だ。少なくとも「人間」であろうとしているのだ。

 それが分かれば十分だ。彼等のような力を持つ事は不可能かもしれない。だが、その考え方や行動を目指す事は出来るだろう。


 その後はクーディ達もいつもの調子に戻り、陽気に話し掛けてくる。

 ラゴギョノテ退治の事や、街に入ってから色々な場所を案内した時の事などを、思い出しながら語り合っていた。

 夕四刻の半ば過ぎだろうか。そろそろ閉店に近いのでラストオーダーになると、店員が告げに来た。

 話も一段落付いた。最後に全員分のエールを頼む。

 エイティはクラッシュアイスを少量作り、各々のカップに注いで混ぜていく。

 ユーリはまたカップを掲げながら、最後の挨拶をする。


「たぶん二度と会う事は無いだろう。だが俺達はお前等の事を忘れはしない。今までの事を感謝する」


 ドーリ、エイティ、ゴローの三人もカップを掲げる。

 クーディ達も何か感極まったような顔をして、彼等と同じくカップを掲げた。

 そして全員が一気に飲み干した。

 飲み終えると店を出て行く。払いは全てユーリが持つ。クーディたちも分かっている。遠慮などはしない。

 そしてホテルに戻って行った。


 昨晩に続き遅い時間だが、ホテルの従業員は何も言わず部屋まで案内する。

 軽く就寝の挨拶をして、各々の部屋に入っていった。


「気の良い奴等だったな」

「エルイにクーディ達、最初に出会うのが良い人なのって恵まれてると思うよ」

「これも誰かさんの差し金なのかねえ」

「そりゃねえだろ。五分遅れていたらクーディ達はヤバかったぜ」

「そうだな。そこまで調整出来るような奴なら、俺達を『使う』必要なんて無いだろうしな」

「使う……ねえ。やっぱり駒に過ぎないんだろうねえ、僕等ってさあ」

「神様が双六やってるってか。ルーレット回して十マス三十年進むとかかよ」

「そこに書かれた内容を僕達にさせてるのかな」

「そこまで馬鹿とは思いたくないがな。駒が異世界人である必要も無かろう」

「そうだよねえ。能力を与えるのも自由自在なら、別の世界から人を連れ込む理由が無いよねえ」


 クーディ達の事から神のような何者かの事まで、ずいぶん話が飛躍している事は分かっている。

 だが神の如き者の思惑など推測出来よう筈が無い。

 彼等は流されるままに、だが自分達の意志で立って進むしかないのだ。

 前回のメギョアの件も、令嬢の護衛もお膳立てされていたのかもしれない。だがそれを行うと決断したのは彼等なのだ。駒なんかでは無いと思いたいのだ。

 四人は揃って就寝する。見張りは立てない。もうその必要は無いだろう。


 翌朝、日が昇ると同時に目が覚める。そして装備と荷物を改めて部屋を出た。

 クーディ達も起きている。二日酔いの心配は無さそうだ。

 彼等四人は異常な身体のお陰だろう。酒の影響は全く残っていないようだ。

 クーディ達を誘ってホテルを出立する。

 もう二度とこのホテルに来る事は無いのだろう。


 通い慣れてきた食堂に向かうと、彼等用の席がちゃんと用意されている。

 女将に挨拶してその席に座ると、いつものようにおまかせを注文した。

 そして本日の品が目の前に並べられる。ステーキとスープだ。

 ステーキは今までとは、また異なる獣の肉なのだろう。焼き方も肉汁を逃さないようにしっかりしている。付け合せの野菜もソテーされているようだ。

 スープも今までと別種の出汁なのだろう。深い味わいが出ていた。

 天然ソーダを使った柔らかい黒パンも相変わらずだ。


 彼等七人は、ゆっくり味わうように食していく。

 特にユーリ達は、これが王都までの最後のまともな食事だと思っている。

 彼等は単なる同行者として、令嬢と護衛に付いて行くのだ。

 村での宿泊なら食堂など無いであろう。街などでも、令嬢と共に領主や代官との会食も有り得ない筈だ。

 初めて訪れた街で、美味い飯を食わせる店を探すのも難しいだろう。

 場合によっては護衛達と同じ飯屋で食べる事にもなりそうだ。そうなると当然安い店になる。味は推して知るべきレベルの。


 食事が終わると、お茶を頼んで少しくつろいでいる。

 この後組合の倉庫に向かい、馬車を受け取る予定だが急ぐ必要も無い。荷の積み込みは任せている。着けばすぐ出れる状態にしてくれているだろう。


「この店での食事も最後か。ここの飯だけは心残りだな」

「そう言ってくれるのは嬉しいな。案内した甲斐があったよ」


 ユーリが軽く言うと、クーディも軽く返してくる。もうお互いに呼吸が通じ合っているようだ。

 四半刻ほどお茶を飲みながら過ごして席を立つ。

 ユーリは最後に女将に感謝の言葉を述べた。


「ご馳走様でした。我々四人は今日街を出ます。席の用意はもう不要です。ほんの数日でしたが、この店の食事には大変満足しました」

「ありがとね。あんた達は本当に美味しそうに食べてくれるからさ。こっちも見ていて気持ちよかったよ」


 女将も当然、彼等がこの街この国のものでない事は分かっていた筈だ。

 だが何も詮索せずに、ぼったくるような真似もせず、普通に接客してくれた。

 それだけでも十分感謝に値する事なのだ。

 礼を述べ終えると彼等は店を出る。行き先は組合の倉庫となる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ