全てを失った男
夢を見ていた。
それはぼんやりとしていて、目覚める頃には忘れてしまう儚い夢。
手で触れると消えてしまいそうで……
いつからだろうか?
とても曖昧で、宙に浮いているような浮遊感。
それでも意識ははっきりしていて、なんとも不思議な夢だ。
でもそれはすごい幸せで。
僕はずっとその夢を見ていたかった。
だって、目が覚めたら――全て失われてしまうから。
現実がまた僕に襲い掛かってくる。
嫌だ、目覚めたくない。
”目覚めなさい”
ずっと夢を見ていたい。
”前に進みなさい”
でもこれは、やっぱり夢で――
現実は、あの日僕は――
”ごめんなさい”
誰かの謝る声が聞こえた気がした。
―――
――
―
「んっ……?」
冷たい雫が頬を滴り落ちる。
「ここは?」
太陽が雨雲で隠れたおかげで、なんとか瞼を開く事ができた。
周りを見渡すと、半壊した校舎の瓦礫が散らばっていた。
体は鉛のように重い。
おそらく魔源の使いすぎによる症状だろう。
「レイ?」
そうだ、レイはどこに?
確か最後の魔法を放った時に――
”ごめんなさい”
あの誰かの声が思い出される。
コツン、っと左手に何かがぶつかった。
ひんやりとした感触
「――レイ」
そこにはレイが横たわっていた。
その体は温かみを感じられない。
そして何故か、血まみれの健司の生徒手帳を握っていた。
「――」
ポツポツと、雫が瓦礫へと滴る。
あぁ、僕は――
全てを洗い流すかのように、雨が降り注ぎ始めた。
「――帰ろう。」
そうだ、帰ろう。
みんなで……
”この日僕は、全てを失った。”
―――
――
―
目が覚めたら葉助は眠っていた。
その鼓動は、今にも止まってしまいそうなくらい弱々しい。
おそらく、魔源を使いすぎたせいだ。
このままではおそらく死ぬだろう。
選択肢なんてなかった。
だって、彼に生きていて欲しかったから。
「よぉ……」
「健司!」
そこに現れたのは血まみれの健司だった。
傷を見る限り、彼はもう――
「葉助のやつ、やばいんだろ?」
その言葉に黙って頷く。
「俺の魔源、使えよ――コイツならいけるだろ?」
その瞳に強い意志を感じた。
二人で葉助に手を掲げる。
”ごめんなさい”
一人にしてしまう事への謝罪。
でも、貴方に生きていて欲しいから。
だから――
”ありがとう”
―――
――
―
「オォォォ……」
この匂い、この空気、間違いない!
私は帰ってきたのだ、セレ二ティアに!
しかし、体中の傷は癒える気配がなかった。
黒き鎧は砕け、本来の体がむき出しになっていた。
だが、まだチャンスはある。
時間をかけて、また力を蓄えればいいのだ。
私には、かの世界で得た知識がある。
この知識を行使すれば、セレ二ティアを掌握するのも容易い。
そしていずれはロキアも我が手に――
「誰だ……?」
足音が聞こえる。
「……」
「お、お前は!」
なんということだ!
何故ここに!
「この裏切り者が!」
「これが運命だ。」
認めない、私は認めないぞ!
こんな最後はぁぁ!
「ユニ――」
男の剣先は、無慈悲に黒島に振り下ろされた。
この世の物とは思えない、憎悪の表情を浮かべながら……
「ここから始まる、レイ。」
男は二ヤリと、唇を吊り上げた。




