大戦のフロンティア5
壮大な光景が広がる。
見渡す限りの人、人、人。自国軍約五万、ガイロン軍が約二万、総勢約七万の軍。
平原を挟んで向こうには、アストガルドの軍勢。総勢十五万程度。農民等の義勇兵等も含めているが、その光景が圧巻だ。
「よく三万の戦力でガイロンは耐えきれていたようだな」
「連携、練度が桁違いですね。全てが王国軍ということもでかいですね。兵の士気はやはり王が死んで少し下がってしまったようですが。それでもこの大群相手に損害一万は流石としか言えませんね」
ヒロノキアも王国軍へとシフトしたが、やはりまだ未熟さが拭えない。そしてキネア等の属国等の軍も一緒だとどうしても動きのちぐはぐさというものが出てしまう。
やはり、軍拡という点でも色々問題点があるかもしれない。
「マスター、本当にこれで良いのですか?」
アイリがそう聞いてきた。
「カルアの言う策で行くしかないだろ。相手の《武神》がいつ出てくるか分からない以上、戦力は固めて置くしかないだろ」
アイリが疑問に思っていたのは、英雄達が各軍を指揮せず、英雄と俺の称号持ちだけの遊軍を作るというものだった。各軍の戦力や指揮力がかなり下がってしまうが、《武神》という爆弾がある時点で、それに対応が出来るような振り分けをするのは当然だろう。
「まぁそうですが」
俺、アイリ、シロナ、アウラ、バレルのおっさんをひとつにまとめた。ある意味ヒロノキアの全勢力が集まっている。
「カルアには俺たちがいない時の全指揮をお願いする。《武神》が出てきたら、俺たちとガイロンのエリスが対応する」
「マスターが良いなら」
「まぁまぁお姉ちゃん。どうやったって《武神》には全力で当たらないといけないんだから」
「マスターは安全な場所で見ていて欲しいんですが」
「それはなしでお願いしたいな。最悪の場合全力で逃げるが、《武神》相手なら少しでも戦力上げたい」
「確かにマスターは強くなりましたが」
「逃げれるなら逃げる。でも、そんな状況にはならないだろうな」
この間は《軍神》が居たから何とかなったが、タイマンなら逃げれない。英雄が集まったところで、全軍の撤退準備すら間に合わないだろう。
「まぁその時は俺が全力でこいつを逃がす。それで良いだろう」
「まぁ頼むぜおっさん。さぁ、行くぜ」
日も上り、準備も万端。眼下には無数の兵士たち。
目の前には倍にも近い軍勢。しかし練度や士気ではこちらが上。更に称号持ちの数もこちらが上。なのにこの不安はやはり《武神》の存在だろう。
「ふぅ、どうやったってここで止めなくちゃならないんだよなぁ」
どんなに無理だろうと、ここで奴らを止めるしかないのだ。
「主?」
「大丈夫だよシロナ、ふぅ覚悟は決めた」
どうせいつか戦うなら、ここで倒しても問題はないだろう。
「全軍進撃!!」
俺の言葉に呼応するように全軍が動き出す。まるで波のように人が動き出す。
ここにガイロン、ヒロノキア軍と、アストガルドの戦いが始まったのだった。
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戦況はこちら側が有利。十五万の軍勢とはいえ、その半数は農民等の義勇兵、正規軍とは比べ物にはならない。しかし、その数は圧倒的。指示等なくても数の暴力で押されてしまう。
兵力の消耗自体はあちらの方が上だが、こちらも少ない人数で多くの敵を対処しなければならないので、消耗はかなり激しい。
「こんな奴らを防戦とはいえ、膠着させていたのは流石だな」
本当に優秀な兵が揃っているのだろう。
本陣、右翼、左翼と大きく三つにわけ、主に右翼側をガイロン、左翼本陣側をヒロノキアでまかなっているが、現状はどの陣も拮抗している。
このまま英雄等を投入できれば、そのまま戦線が崩れていくだろう。しかし、それはできない。平野を挟んでいても分かるプレッシャー、隠そうともしないその威圧感が体中を襲っている。俺たちのひとりでも出ればあれがやってくる。
ずっと睨んでいる最終兵器がすぐさま飛んでくる。
広大な平野ガイロン国より北西にあるこの場所は、アストガルドやハルモニア等とガイロンの間に広がる大平原だ。
十五万の兵が陣を張っても、その平原に比べれば小さく見える。
平坦な場所が続くこの場所は大軍と戦うのは不向きと言えよう。しかし、この平原を越えてしまえば、ガイロン国が近すぎてしまう。平野の付近に関もあるが、《武神》相手にどれだけ持つかは疑問が残る。
ガイア平原、ガイロンはそう呼んでいるそうだ。
「戦術的にはまぁ良いんだろうな」
この人数で拮抗できているのは重畳、かなり良い結果と言っても過言ではないだろう。通常の戦争で倍の人数なんかと戦ったら一瞬で戦線を突破されて、壊滅されるだろう。この世界の兵の強さに感謝だな。
やはり義勇兵と兵士ではスキル等の差が出るから、俺たちの世界よりも一人一人の力の差が出やすく
なっているようだ。ガイロンが持ちこたえたのもそこに理由があるだろうな。
「静かですね」
カルアがそう呟いた。
「そうか?」
地面を轟くような音や叫びが耳に届く。これが静かなら大体の場所が静かになるだろう。
「いえ、音ではなく相手の情勢がです」
確かに相手は未だ正面からぶつかってきている。しかし、この人数差を考えれば当然だと思うが。
「確かに人数が多ければそのままぶつかるのが正攻法ですが、ガイロンに耐えられ、この人数差で拮抗しているのに、何もしないのは流石にありえません」
「対策が思いつかないとか?」
「まぁ一番簡単な方法は明確ですけど、他にも色々あるはずです。本軍さえ前線に出れば簡単に変えられるのに。どうして?」
そのまま考え込んでしまうカルア。
うまくいってるのであれば良いとは思うのだが、やはり引っかかる事があると不安なのだろう。
「ほらほら、お兄ちゃんのお仕事はみんなを見守ることだよー。考えるのはカルア姉に任せてさ」
「はいはい、というか革鎧で抱きつくな重いだろ」
アウラはその速度を殺さないように、軽い革鎧を装備していたが、鉄の鎧よりマシというだけで、普通の服に比べればそこそこの重さがあった。
「えー、いいじゃん!」
「アウラ! 戦争中ですよ!」
そんなアウラを嗜めるアイリ。やっぱりこういう姿を見ると姉弟というのもしっくりくる。
「もうお姉ちゃんはめんどくさいなぁ」
「喧嘩はダメ」
そんな二人を低いテンションで止めるシロナ。いつも通りごつい鎧を着ているので、小さい体が三割増しぐらいの大きさになっていた。
「ほら、アウラ、マスターから離れなさい」
「ちぇ、お姉ちゃんだってやりたいくせに」
「な!? 何を言ってるんです! そんなことはありません」
「アイリ必死」
「シロナ、これ以上口を開くことを禁じます」
「はぁ、本当にめんどくさい性格」
女三人寄れば姦しいと言うが、ここまでとは。まぁ一人は男なんだけども。
「はぁ、本当にこいつらは、英雄というのはこんな人間ばかりだから疲れる」
「まぁまぁ、おっさん。ほら最後かもしれないし」
《武神》と戦えば誰かが死ぬかも知れない。いや、誰かが死ぬ可能性の方が高いかも知れない。でもここで止めなくては、確実に国の驚異となる。
「死なないさ。お前らはまだ若い」
そうおっさんは洗浄を見つめながら呟いた。黒い髪を短く刈り、浅黒い顔が少し歪む。
「おっさんだってまで若いだろ。うちの爺なんて六十過ぎてんのにかなりぼこぼこにされたからなぁ」
外見ではまだ四十にもなっていないように見える。鍛えているから若く見えるし、元の世界であれば三十ぐらいでも通用しそうだ。
「ほう、お前をボコボコに出来るのは凄いな。よっぽどの強者ってことか」
「ああ、多分おっさんより強ぇよ。俺が一回も勝てたことがないからなぁ。しかも全然全力じゃねぇし」
あの爺は絶対に人間を超えてやがる。今でも全然勝てる気がしない。どんな攻撃をしても当たらないし、どんな攻撃でも俺は当たっちまう。正直《武神》とも良い勝負をするかもしれない。いや、怖さだけなら《武神》だが、強さは爺かも知れない。
「俺よりも強いのか? それは会ってみたいな」
「ああ、全員に会わせたいよ。いつか俺の世界にお前らと一緒に行けたら良いなぁ」
こっちの世界にはないものばかりだからきっとみんなも驚きばかりだろう。でもこっちの人間って全体的に俺らの世界基準だと美男や美女ばかりだから、かなりあっちの世界だと大変かも知れない。
「そういえば異世界人だったか。こっちの世界とは全然違うのか?」
「基本的には変わんないよ。人間が居て、国があって。でも俺の国は表面的にはもっと平和だったな。戦争とかも表立ってはなかったし」
まぁ俺が知らないだけだろうし、世界中では平和な場所の方が少ないだろう。でも、少なくとも自分の周りは誰もが安心して暮らせるような平和な世界だった。
「戦争がない世界か、それは良いな、子供達が安心して暮らせるのは良い」
「本当に子ども思いだな、最近はどうだ?」
「キースが手伝ってくれるからな。最近は安心してるよ。勉強とかも教えて貰ってるからな」
「意外だ。あい嫌々やってそうなのに」
キースは本人の要望もあり、おっさんと住んでいるので、必然的にキースが子供達のお兄さん役になっているようだ。
「文句を言いながらも嬉しそうにやってるよ、最近は稽古も頑張ってるから、お前とも良い勝負するかもな」
「マジかよ。ちょっと楽しみだな」
確かに最近稽古をしてみてもヒヤッとする場面も増えてきた。本気で一回戦ってみるのもありかも知れない。
「ああ、今回は《聖母》と留守番だが、次からは戦に連れて行っても良いかもしれないな」
「へぇ」
「以外に結構良い動きをするかもしれないぞ?」
「色々文句を言いそうだ」
「それはそうだな」
眼下では未だ戦いが続いている。戦況は有利に動いているようだ。
「カルア、戦況は?」
「こちらに有利に動いています。このままなら数日以内に勝利できるでしょう」
「このままねぇ」
確かに見た感じこちらが押しているように見える。このままなら軍の維持もできなくなってくるだろう。でもこのままで終わるとも思えない。
「罠なら罠で良いんですが、その罠がなんなのか分からないのが問題なんです。今この状況では私たちに良いことしかないんです。このまま進んで取り返しがつかないことになるのが一番問題なんですが」
「まぁそうだよな。でも今のところ相手はまずい行動しかしてない。もしかして戦争が目的じゃないとか?」
「戦争が目的じゃない?」
「いや、思いつきだから気にしないで良い」
「こんな大掛かりな陽動? 政治的や戦略的なものではなく、例えば個人? うーんでもこれだけ大掛かりなことをする意味はないでしょうし、その線はなさそうですね」
「いや、俺も言ってみただけだから」
「でももしかしたらそんな訳の分からない理由の可能性もあるかもしれませんね」
「分からない理由ねぇ」
確かに俺にはあの《征服王》の考えは分からなそうだ。というか確実に友達にはなれそうにない気がする。あの神経質な目、まるで世界の全てが敵だと言っているようだった。
「今日はこのまま終わりそうですね」
「そうなりゃ良いけどな」
そんな俺の不安も裏切り、その日は何事もなくこちらの圧倒的勝利で終わるのだった。
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翌日も立ち上がりは同じような動きだった。こちらの損害は死傷者を合わせて二千程度、相手側は二万以上の損害を与えていた。
最初は十五万を軽く超える兵がいたのに、今や十万を超える程度、既に損害は三分の一にも及びそうになっていた。
「普通の戦争なら、よっぽどの愚王ですね。三分の一の損害等、既に敗北とも言えます。まだ数は多いとしても、士気等の問題もあるでしょう。本当に何を考えているのか分かりません」
朝、カルアがそう呟いていた。俺も戦争に関してはまだ勉強をし始めたばかりだが、戦争で三分の一も失えばそれは大敗と言っても過言ではないだろう。そして敵はその水域にも近づいてきていた。
未だ眼下では昨日と同じ光景が広がっている。これでは昨日と同じことが繰り返されるだけだ。
「本当に何がしたいんだか」
このままでは負けに来たようなものだ。もしかしたら《王道》を倒した時点で目的は達成していたということか? いやだったら撤退をすれば良いだけだ。
正午も過ぎ、日が高く昇ってきたときに戦況は変わった。いや、正確には変わってはいないが、彼の一つの動作が戦場の全てを変えた。
ただ、椅子から立ち上がっただけだった。
《武神》がただその行動をしただけで、戦場は一瞬で静寂に変わった。地を轟かすような怒号も、鉄と鉄がぶつかり合うような音もしなくなった。
誰もがそちらを見上げていた。二十万にも近い兵士たち全員がそちらを見ていた。別にスキルを使った訳でもない。
なのに、誰もがそこから目を離せないでいた。敵も味方も関係ない。生物としての恐怖が、本能がそこから目を離せなくさせていた。
「来るか!」
椅子から《武神》が立ったかと思ったら、次の瞬間にはその場から消えていた。
そしてその直後、先程までの怒号等とは比べ物にならない轟音が響いた。
数キロも離れたはずの場所だったはずなのに、一瞬で男は戦場のど真ん中着地していた。
《武神》の着地の衝撃で周囲が吹っ飛ぶ。まるで隕石が落ちたかのように、クレーターが出来る。その周りの兵士が数百人単位で消える。
まるで災害。その言葉が一番男に相応しかった。
「英雄ども、来い」
《武神》は一言そう言った。かなり距離があり、聞こえるはずもないのに、なぜかその言葉は耳に鮮明に届いた。
「ふぅ、いきなりだけど、お呼びのようだ」
来ないで欲しかった最悪の状況だが、この時を待っていたといても過言でもないのかもしれない。
「マスター、大丈夫ですか?」
「主、行くよ」
「お兄ちゃん、レッツゴーだよ」
「気合を入れろ」
「ご主人様、お気をつけて」
全員の覚悟が決まる。目の前には最強の敵、戦えば戻って来れるかは分からない。でも行くしかない。
「覚悟は決まったか? 行くぞ!!」
英雄たちは一気に駆け出した。最強の敵へと、そう死地になる場所へと。




