英知のフロンティア4
「遠足ってこれマジかよ」
俺たちはなぜか深い森の中までやってきていた。肩にはほんの僅かの物資のみ、後は己の肉体しかなかった。
「遠足っていうか、サバイバルだよね?」
「ああ、流石にここまでぶっ飛んでいるとは」
「どうしたんだ? 良いじゃんか。俺、森とか好きだぜ? なぁ、フェリス」
「え? 何? 楽しすぎて聞こえない」
もう森に順応しているランスとフェリス。多分、この二人ならどんな場所だろうと生きていけるだろう。
「ふっふっふ、良いじゃないか!! こんな課題で僕の能力を図ろうだなんて、愚の骨頂! こんな課題余裕でこなしてみせる」
「はいはい、もう早く纏まって! あんまり散開しないで、ただでさえ森の中で視界が悪いんだから」
そう、俺たちは遠足とは名ばかりのサバイバル演習に連れてこられていた。この森はアウラを連れに来たときに入った森で、隣国ガイロンまで続いているという馬鹿でかい森だ。
人を拒むかのように木々が生い茂り、足元には様々な植物が生えているせいで歩くのすら困難、そして更には木々が日光を邪魔するせいで、辺は未だに薄暗い。
「じゃあ、基本事項を確認しましょう。この遠足の大目的は生き残ることです。なので、無茶は辞めましょう」
キシリスが場を纏める。
「「「「「「はーい」」」」」」
「そしてこの行事の目的のもう一つ、この遠足に参加している生徒が持っているこの木札を集めることです」
各班には木札が一つずつ配られている。お遊びの要素としてこの札を集めたほうが得点が高くなるらしい。しかし、この得点が高くなるとどうなのかはカルア先輩も知らないらしい。
「これを集めなければ不合格というわけではないらしいのですが、集めるに越したことはないでしょう」
「よし、片っ端からぶん殴ろう」
「それいいわね」
「やめなさい、初っ端からそんなことをして敵を作りすぎても良くないでしょ。それにユミさんとリューマさんは戦闘に参加できないんですし」
「ごめんねぇ」
流石に俺たちは戦闘に参加できない。称号持ちがこんな学生の行事に参加したら一大事だ。手加減しようたって、あまりに手加減しすぎて負けるのもこの行事的に良くないのだ。故に、このキシリスやキースが入ったのだろ。俺たち二人が居なくても不利にならないように。
「まぁ、それはしょうがなぇよな」
「まぁ、その分他の事はいくらでも手伝うから、許してくれや」
「なので、それを踏まえて色々これからのことを考えなくてはいけないんです。何か策はありますか?」
「僕の偉大さをみんなに説いて木札を貰う」
「殴る」
「蹴る」
「皆で平和に話し合いとかできないかなぁ?」
「えへへ、分かんない」
「分かりました。私が全て考えます」
前途多難だなぁ。
「まずは水場の確保ですかね。我々に与えられた水ではどうやったって足りないですからね」
確かに、俺たちが与えられた水は小さな水筒があるだけだ。これじゃあ今日一日でなくなってしまう。この遠足は三日間森で過ごさなくてはいけないのだ。
「その後は野営の準備をしましょう。夜は危険ですから、あまり動かないようにしたいですし」
「じゃあ、それまでに夕飯の準備もか」
「はい、お願いします。じゃあ、さっさと水場を探しましょうか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あなたが落としたのはこの銀のオカマ? それとも金のオカマ? それともわ・た・おぼへ!?」
湖から何か良くわからないものが出てきたような気がしたが気のせいだろう。そのオカマが俺の知り合いな気がしたが、それも気のせいだろう。
「いたーい! 何をすんのよぉ!? ここはオカマ保護区よ? そんな場所でオカマに危害を加えるとは良い度胸じゃない」
「うるせぇ!!! なんでお前がこんなところに居るんだよ! いや、百歩譲って森に居ることは許す。でも湖から出てくんな!」
俺たちはアウラが昔住んでいた場所までやって来ていた。ここには家や湖や温泉まで完備しているので、この課題は余裕でクリアできると思っていたのだが。
「あらリューマちゃんじゃない。ご機嫌いかが?」
「最悪だよ」
「あら、もっと旅は楽しくしなくちゃいけないわ」
「お前のせいで最悪だよ」
「あれ? ゲイルさんじゃんどうしたの?」
「あらーユミちゃんも一緒なのね。ごっほん、ここの湖は使用禁止ですぅ。ここを使ったら簡単に今回の遠足、成功しちゃうでしょ?」
「分かった。分かったからもう、どっか行くから」
「なぁ、これはなんだ?」
後ろには怯えた姿の俺の班員。何か見てはいけない物を見たかのようなそんな感じ。
「ああ、こいつは気にするな。さぁ、さっさとここから離れよう。どうやらここは使用禁止らしい」
「まぁ、確かにあんなのが居る場所には居たくねぇな」
「なぁ、ゲイルよ。なんでここに居るんだ?」
「まぁ、学校に頼まれちゃったのよ。私も今やこの国の下僕だからねぇ」
最悪な人物に頼んだものだ。しかし、なんでこんな人物に頼んだのだろう?
「まぁ、分かったよ。俺たちは他を探すよ」
「そうしてねぇ。あと、この課題、甘く見ちゃダメよ」
「あん?」
甘く見るなどういう意味だ? こいつが態々そんなことを言うということは普通に生き残るだけじゃダメってことだろうか?
「貴方は何もできないんだから、何もできないなりに頑張りなさい」
「まぁ、その助言は素直に受け取っておくよ」
「そうそう、オカマの助言は素直に受け取るべきよ。それじゃあがんばってねー」
ジャバーンという音と共に湖の中に帰っていくゲイル。それどういう仕組みになってるの? というかゲイルはそんなことをしていて大丈夫なの? どうやらこの世界のオカマは人間じゃないようだ。
「とりあえず、ここはオカマの先客が居たようだから出ていくぞ」
「ああ、ここは流石に居ずらいぜ」
「そうですね、ここは色々揃ってて良い場所なんですが、ダメなら他を探しましょう」
「よし他に行こうか」
俺たちはオカマに追い出される形によって森へと戻っていくのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「気配が五つ、他の班だな」
森の中、お粗末な気配の隠し方をした人間の集団を感じる。
「あ? またか。俺らの班だけなんかおかしくないか? 流石に他の班もこんなに戦っている訳ないよな?」
さっきからひっきりなしに他の班と接敵する。おかしい、クラスで見たときは班は十班ぐらいだった。なのに、さっきから五班ぐらいに接敵している。明らかにおかしい。
「場所がバレてる? いや、移動し続ける私たちを?」
たしかにこんな森の中、どうやったって場所がばれるわけがない。それにこんな世界に探知機や発信器などあるわけないし。
「まぁ、追い返せばよいんじゃねぇか?」
「そりゃあそうだが、流石にこんな頻度でこの森で襲撃されたらなぁ」
ここは広大な森だ。どうやったって気配を探るのは無理だ。幾ら俺が気配を殺してないからって、どう頑張ったって無理だろう。
「おい、湖の女神が言った通りここに居たぞ!」
それはその化け物じみた人間の手助けがあったら可能だってことだ。
「ゲイルの仕業かよ!?」
あのオカマ、そんな力まであるのかよ。というか良く、俺たちの居場所を見つけられるな。
「百点札だ! 逃すな!」
そしてこの言葉だ。なんだ? 百点札ってなんだ?
「札? ああ、そういう事ですか」
「何か分かったのか?」
「この札ですよ。見てみたら裏に小さく百点って書いてありました。そして、これを必死に狙うという事は」
「俺たちの百点は高得点という事か」
「そのようですね」
この点数が何を意味するかは分からないが、周りのこの必死様、かなりの高得点と思っていいだろう。
「なんかそれって狡くない!?」
「まぁ、俺たちが居るハンデって事だろうよ」
俺と夕実、二人の称号持ちに対する枷みたいなものだろう。
「まぁまぁ、それぐらいが一番おもしれぇじゃねぇか」
「ランスは単純だから良いよね。私は楽に終わるならそれに越したことはないんだけど」
確かにフェリスの言うとおりだ。あのオカマのせいで俺たちは大分苦労することになった。
「あのオカマが俺らの居場所を教えてると考えると……」
「このまま逃げるのは下策という事ですか」
「だろうなぁ」
「あん? 全部ぶっ飛ばせばよくないか?」
「足を止めて迎撃すれば、他の班まで呼び止めてしまいます。ただでさえ人数的にはこちらの方が不利なんですから」
「じゃあどうすんだ?」
「とりあえず逃げましょう。幾ら相手が私たちの場所を補足しているとは言え、いつまでもそれが続くわけはないですから」
たしかにこっちには戦闘員が三人、単純に半分程しかいない。故に絶対的に不利だ。まぁ、ランスやキースなら何とかなるかもしれないが、流石に二つや三つの班がきたらどうしようもない。俺らは手出しだできないんだからな。
「まぁ、逃げてるだけじゃダメです。そこは後で何とかしましょう」
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「こっちだ。こっちに百点の王様が居るはずだ。別に手加減する必要はないようだし、一気にやるぞ!」
「「「「おう」」」」
「こんばんわ、そしてバイバイ」
「なっ!?」
「はっはっは、こんな森の中でそんな大きな声で喋っていたら僕にバレないわけがないだろう」
ランスとキースが潜んでいた他の班へと急襲を仕掛ける。
慌てふためく班員を次々に殴って行く二人。
「なんでキースが偉そうなんだ? 俺が場所を教えたというのに」
「まぁまぁ良いんじゃない? 流ちゃは手を出せないわけだし」
俺たちは、なんとか班員たちの攻撃をやり過ごし、攻撃に転じていた。
正確に居場所を把握してくるゲイルの助言には困ったが、流石のキシリスだ。人の意そらす方法もお手の物のようだ。足跡を偽装し、木や蔦を使い気配を偽装し、他の班を欺いていった。
「よし、これで三班目か」
俺が気配を探り、二人が実行する。その繰り返しでなんとかここまでやってこれた。
「今日はここまでにしましょうか」
日はすっかりと落ちてしまい、ここから先に移動は危険が伴う。
「賛成、すっかり疲れちまったよ」
「ああん? 軟弱者め、僕はまだ全然余裕なのだが?」
足ガクガクじゃねーか、何が余裕なのだが? だよ。
「とりあえず彼らを縛ってここに野営をしましょうか」
俺たちはその場で野営の準備を進める。こういう時は学校で授業を受けていた事に感謝するな。
「火は、まぁおこしましょうか」
「良いのか?」
「ええ、場所がバレてるんですし、変わらないでしょう。それに明かりは安心しますからね。この暗闇の中にいるよりマシでしょう。それにこの食材だって調理しなくちゃいけませんし」
俺たちの手にはこの森で採れた動物が握られていた。
「んじゃあ、さっさと夕食の準備を進めよう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おーい、そろそろ交代だ」
深夜、俺たちは交代で見張りをしながら野営を続けていた。幸いな事に襲撃はなく、どうやら周りの班も眠っているようだ。因みに捕まえた連中は湖の精に供えておいた。きっと楽しいことになってるだろうが、俺の知ったこっちゃないので心は痛まなかった。
「ありがとうございます。じゃあお願いしますね」
「寝る前に一つ聞いていいか?」
みんなが寝静まった中、俺は彼女キシリスに疑問を投げかけていた。
「カルア、彼女が天才というのはどういうことなんだ?」
彼女がこの間投げかけた視線。あの謎がずっと気になっていた。
彼女はどう考えても凡以下だ。今日だって何もせず、周りについていくのが必死という感じだった。そしてそれを装っている雰囲気ではなかった。
「……言葉のまんま。カルアは天才、それだけの話ですよ」
「そんな風には見えないんだが」
「彼女は力を抑えているだけですよ。それも無意識にね」
無意識に? どういうことだ?
「本気の彼女はもっと凄いんですよ。本当に」
俄かには彼女の言葉を信じられなかった。あのボーッとした少女が?
「信じてないですね? すごいんですよ。喋るのだって早かったし、近所では神童とまで呼ばれたほどです。知識の量は凄いし、一番凄いのは同時に、そして並列的に思考を分けることが出来るんです」
分割思考という奴だろうか? あらゆる考えを並列的に処理出来るというやつか?
「なのにカルアは……」
彼女の表情は悔しいという言葉がピッタリとくる顔だった。
「まぁ君が言うならそうなのかもな」
家族目で見ての贔屓という感じでもなさそうだ。だったらもっと謎だ。意識的に隠すなら分かる。でもそんな風には見えない。彼女が言ったとおり無意識に隠しているのだろう。
「そうなんです。私よりも全然凄いんです」
そういう彼女の瞳はキラキラと輝いていた。




