英知のフロンティア3
「さぁ、僕が入ったからには完璧な遠足を約束しよう」
「なぁ、こいつは誰だ?」
「何!? この僕を知らないのか? この僕、キースを知らないとはとんだ田舎者だな」
「マジかよ。なぁ俺って田舎者なのか!?」
アホとバカ、これが出会ってしまった。この化学反応には流石の俺も対応が出来ない。
「でも、私たち王都の出だよね!?」
「ああ、フェリス。どうやら俺たちは田舎者だったようだ」
「この僕を知ってるか、知らないかが田舎者か、田舎者じゃないかの違いだからな」
アホ、ここに極めりだな。俺はこれ以上関わらないと決めたのだ。
「おいおい、どうやら俺らの班にはとんでもない人間が入っちまったようだぞ」
「ええ、ランス。やばいわね。彼に認められないと私たちは何時まで経っても田舎者から抜け出られないようよ」
「はっはっは、そういうことだ。君たちとは次元が違うというものさ」
「なんだかキースさんが輝いて見えるぜ」
「あの、ごめんなさい。さっさとお話を先に進めましょう」
そしてそんなアホだらけの世界の中で、唯一の良心とも思える彼女が声を上げた。
キシリス・オルトメア、どうやら今回は彼女が同じ班のようだ。なぜこの班に派遣させられたかは良くわからない。
そしてカルア・オルトメア、彼女も俺の班に派遣させられたようだ。
「ありがとう、このアホだらけの世界で君だけが救いだよ」
「まぁ、こんなことを続けていたら話が終わりそうにありませんから。それにカルア、貴方も先輩なんだからビシッと言いなさいよ!」
「あ、えっと、ごめんね? なんか楽しそうだったから」
「楽しいのはこの三人だけでしょう。それにそこのえっとユミさんも真面目にやってください」
「えっと、私も!? 私は真面目にやってるよ!」
真面目にやってる奴はヒロノキア観光案内なんて読まない。というか紙が貴重な筈なのに、どうしてこんなものが出ているんだろうか? しかも、なんか雑誌みたいになってるし。偶になんかこういう俗物的なところがあるんだよな、この世界。
「もう、この行事の趣旨を理解しているんですか?」
「え? 遠足でしょ? 楽しくみんなでお散歩しようって話じゃないの?」
「はぁ、どうしてそんな発想が生まれるんでしょうか? こうやってチームを組む時点で、戦場へ行く為の予行演習だということが分かるでしょう!」
「え? そうなの!? 楽しい遠足って言ってたから、どっか楽しい場所に行くのかと思ってた……」
「落ち着き給え、ユミ。僕がいる時点で君らの楽しさは確約されるだろう!」
「流石キースさんだぜ!」
「そうね、キースさんに任せておけば安全よ!」
「そうなの、じゃあキース君に全部任せようかな……」
「カルア! 流されちゃダメ!」
もう収集が付かない。チームの半分がバカやアホになると、こうまで崩壊する事になるとは思わなかった。これは国の教育制度にもっと力を入れなくてはいけない。極論を言えば、国民の半分がこいつらみたいなアホになれば崩壊するということだ。うん、嫌な世界だ。
「頭が痛いわ。私がこの班に入れられたのも納得だわ」
どうやら彼女がここに来たのは、アホを集めすぎた結果バランスが取れなくなったからだろう。それに彼女自身の能力を伸ばす意図もあるかも知れない。
「ああ、もう頼んだ。俺の力じゃあ、こいつらはどうしようもない」
「申し訳ありませんが、私にも難しいです。そこは王様のカリスマとかでどうにかできませんか?」
「俺にそんなものがあると思うか? 俺に出来るのはこうするぐらいだ」
俺は、ランスとキースの頭をぶん殴り、静かにさせる。
体が痙攣して、なんかビクビクしているがきっと大丈夫だろう。
「今はそれだけでもありがたいですよ。じゃあ、さっさと今回の企画を進めましょう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「わからねぇ! なんだこれは!」
この本を書いたた奴は全く文才がない。というより、小学生の作文みたいな内容だ。というよりこれだったら小学生の絵日記の方がまだ分かりやすい。
「なんだよ、これ。『最強な俺様は今日は楽しかた』。これ本に書く必要あったか!? というよりこれは歴史書なのか!? あと楽しかたってなんだ!?」
「流ちゃんうるさい。図書館だよ? 静かにしないと。ほらカルアさんもうるさいよね?」
「あ、ええと、まぁ本を楽しんでもらえているなら私は別に大丈夫ですよ」
夕暮れの図書室。俺はこの間借りた本が難解過ぎたので、ここ図書室に来ていた。この本を推薦した彼女なら、この本を理解しているのではないだろうかと。
「楽しんでねぇ! なんだこれ? 『この俺様が最高で最強な理由その一、かっこいい』ってアホか!? 歴史じゃねぇ、というか文章ですらない!」
「えっと、すいません。でもそれがこの国で唯一、ヒロノキア二代目王、《英雄王》が書いた本なんですよ」
二代目が直接書いた本か。でもこれは酷すぎる。
「本来二代目王が在位していた期間は短すぎるんですよ。精々一、二年ぐらいらしいですよ。なので彼に関する記述はほぼ残っていないんです」
「じゃあ、この本以外の手がかりはないってことか」
この本が手がかりになるとは思えない。しかし、何もない状況よりかはマシか。いや、こんな本なら別になくても同じような気がするけど。
「でも、この本は色々参考になりますよ。当時の王の心境とかが詳細に記述されているので、歴史的には凄く重要なんですよ」
いや、心境って。こいつ自分のことしか考えてないだけではないだろうか。
「まぁ、頑張って読んでみるよ」
「はい、何事も継続です」
俺はその訳のわからない本を読み続けるのであった。
少し読みふけった時だろうか、図書室のドアが開き、昼に聞いた声が聞こえてくる。
「カルア、そろそろ帰るよ」
「あ、キシリスか。んじゃあ俺たちももう帰るか、おい夕実帰るぞ」
「ふぇ? ああもう終わった?」
こっくりこっくりと船を漕いでいた夕実を無理やり起こす。
「ああ、今日は終わりだ。明日は遠足だしな。早く帰ろう」
「そうですね。今日はおとなしく帰りましょう。明日は楽しみですね」
この間は凄く名残惜しそうに帰っていたカルアも今日はおとなしく帰るようだ。
「そういえば遠足、去年はどういう風な感じでした?」
行事ということは毎年やっているのだろう。だったら少しぐらいは去年のが参考になるかもしれない。
「それは内緒なんですよ。言っちゃいけない決まりになっています」
「まぁ、そりゃそうか」
授業的な意味も兼ねているのに、予習が出来たら意味がないもんな。
「しかし、明日は不安だ。あいつらが本当に不安だ」
「何が不安なの?」
「大丈夫、お前も不安の一端だから」
何が大丈夫なのか分からない、けど今の俺にはそう言うしか出来なかった。
「ち、ちょっと不安ですけど……でも大丈夫だと思いますよキシリスも居ますし」
「そういえば、キシリスちゃんは天才って呼ばれてるんだもんね。任せちゃおうかな」
「はは、そう呼ばれているようですね。でも私にはあまりピンと来ないんですよね」
まぁ、彼女は一見普通に見える。異質でも、異常でもなく普通だ。
「それに本物の天才を見ちゃえば、自分が如何に劣っているかは分かりますよ」
本物の天才? それは誰のことだ? 天才と呼ばれる彼女が天才と認める?
「カルアか?」
その彼女の目線の先には彼女の姉、カルアの存在があった。
「? なんでしょうか?」
「……、何でもないですよ。何でもないです」
劣等感。その言葉が彼女の今の現状を的確に表していた。
学校歴代一と呼ばれるほどの天才が劣等感を抱くとは、彼女、カルア・オルトメアはどれほどなのだろうか?
「痛ッ」
何もない廊下で転んでいる彼女が? ないな、それだけは絶対ない。
「もう、大丈夫?」
「ごめんねぇ、いつもドジばっかで」
「ほら早く帰るよ」
俺が見た彼女たち姉妹の姿はとても綺麗で、なぜか少しだけ歪だった。




