聖母のフロンティア4
中立をやめる? それはどういう事だ?
「歴史を動かす気か? 女よ」
物凄い形相で大声をあげるガウス。
「はい、これより世界は動き始めます」
「操り人形が何を言うかと思ったら、これはこれは、まっこと愉快な世代よ。がはははははは」
「笑いごとではないぞ、ガウス殿。これは大問題だ」
ヒノモトの皇が、大声をあげた。
「これを笑わずにいつ笑う?」
状況があまりつかめない。どう不味いというのだろう? そりゃあ夕実が戦いに出るのは何としても阻止したいが。
「本気か?」
《征服王》アカツキが、ドスのきいた声をだす。
「ええ正気ですよ」
宰相トーチがこの空気の中発言する。
「お前には聞いてない。俺はその女の本当の意思を聞いているのだ」
「はい、本気です」
夕実は静かに答える。やはりその声に、なんの生気も感じない。
「茶番だな。帰るぞ」
「おいおい、こんな状況で、余裕だな」
俺は呼び止める。せっかくこんな世界で日本人に会ったのに、何か勿体ないような気がしたからだ。
「ふっ、お前は莫迦でよかったな。それにどうしようが関係ない。俺が征服する国がひとつ増えただけだ。敵は多いに限る」
そう一言言うと、アカツキは部屋から出て行ってしまった。
「がははは、将来有望じゃな」
「オヤジぃ、笑ってる場合じゃないよ。多分アストガルドはこれに賛成するよぉ」
この会議は、多数決なんだっけか。六大国の多数決、昔は同数になった場合は反対国と戦争だったとか。今ではそんなことはなく、提案者が居る方が有利になるそうだ。
「我も賛成するぞ? こんな面白そうな事に首を突っ込まんでどうする?」
「オヤジもバカだった!?」
もうこの時点で、多数決は負けたも同然という事か。
「面白さで、歴史を動かす気か? 《王道》よ」
「面白くない世の中など、統治する価値もないわ! 王とは、皆を振り回すから王であり、それについてくるから国ができるのだ。違うか? ヒノモトの皇《剣豪》よ」
「暴論だな」
「王の論だ」
「折れる気はないようだ。まぁ私にはこれ以上何も言えん、流れに身を任せるだけだ」
諦めたようにため息を吐くヒノモトの皇、あの人もどちらかというと振り回される方の人間なのかもしれない。
「さて、我も一旦戻るか。これ以上ここに居ても仕方がない。英雄王よ、そなたも帰るがいい」
「あ、ああ」
この状況についていけていないのは俺だけのようだ。こういうところで経験の差が出てしまう。
「そうですね、マスター一度帰りましょう。これほどの大きな議題です。少し考える時間が欲しいです」
「そこの剣士の言うとおりだ。これ程の出来事に出合えるなど、一生に一度あるかないかだぞ。良く考え自分の道を決めるといい。お前は王であり、道を作る者なのだから」
そういって、ガウスは部屋から去って行った。二人の王が去った途端静かになる部屋。その状況が彼らの大きさを物語っていた。
「さて、ヒロノキアの王はどうするのだ?」
ヒノモトの皇がゆっくりと近づいてきていた。一つ一つの動作が優雅だ。これが付け焼刃ではない王の風格というものなのだろうか。
「俺は、まだ決めかねてます。個人的な事もあるので」
夕実についても色々と考えなくてはいけない。というか俺には国の事より今は夕実の事しか考えられなかった。
「まぁ、深くは聞かんよ。私は一応反対に入れるつもりだが、無駄だろうな。あの二人がおれるとは思えん」
あの二人は完全に今の状況を楽しんでいる。その二人がこの状況に水を差すようなまねをするとは思えない。
「そうですね、これは俺一人では決められない。良く周りと相談してみるよ」
「それがいい。だが、時には王の決断は必要だぞ」
「はい、心得ときます」
「どうも、君は他人とは思えん、容姿が我が国の民と似ているからかな」
たしかにヒノモトの皇は黒髪、黒目、日本人によく似た特徴を持っていた。やはりヒノモトの名前を聞いた時から思っていたが、日本に似た文化でも持っているのかもしれない。でもどうしてこんな異世界に日本と似たような国ができたのだろう? 偶然だろうか?
「あと、もう一つ。アーカディアには気を付けろ。何か企んでいる」
「分かりました」
やはりアーカディアは《聖母》狙いなのだろうか? 国を敵に回してまで、することか?
「では、私も行く。気を付けろよ」
「はい、ありがとうございました」
ゆっくりと長い着物を引きずり部屋から出ていくヒノモトの皇《剣豪》。さてこれからどうするか。目の前にいる夕実と話したいが、そんなの二人が許してくれるはずないしな。
「一旦戻るか」
「ええ、このことを国に報告しなくてはいけません」
「んじゃあ、僕ちょっとひとっ走りしてくるよ」
「ああ、任せた」
一応ここから、ヒロノキアまでは馬で半月以上あるのだが、アウラなら三日ぐらいかな。もしかしたらもうちょっとかかるかもしれないが。
「まぁ、今はこのことについて話そう。でも後でしっかり俺はやることをやるからな」
「はい、分かっています。とりあえず部屋に戻り今後のことを考えましょう」
俺たちも部屋から出ることにする。部屋を出るとき見えたのは不敵に笑うハルモニアの宰相と、狂気的な笑いを浮かべるアーカディアの大主教だった。
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「さて、何が問題なんだ?」
俺とアイリは、王宮で用意された部屋の中、今後のことについて話していた。
「問題だらけです。仮にも六大国のひとつですよ? 敵にしたらこちらもかなりの被害を受けます」
「そんなに恐れることか? 相手は今まで戦争をしたこともないやつらだぞ?」
「その点についてはそうですが、逆に言えば無傷のままという事です。この戦乱の中、何の疲弊もしていないというのは、大きな利点です」
それもそうか、俺たちもこの間は戦争に次ぐ戦争で、かなりの苦戦を強いられていたからな。でも実践経験のない軍などなんの役にもたたないと思うのだが。
「次に資金面です。ここは物流の拠点、この世界随一の市場と言えるでしょう。その分、税や物資はこの世界でもっとも潤沢です」
戦争をしてない上に、この物流か、それは確かに恐ろしい事だな。
「そして、次に軍備。別に中立だから弱いというわけではありません」
「そうなのか?」
闘わないのであれば、そんなに強いわけがないと思うのだが。
「この世は戦乱の世ですよ? そんな世で中立を守るというのは、かなりの苦労です。それにこの中立というのは六大国間だけであって、他の国は何時でも責めることができるんです」
そういえば、全世界と条約を結んだわけでもないし、こんな世だ、そんな条約が役に立つとも思えない。
「しかし、この国は五百年以上戦争をしていません。それがどれほどの事だと分かりますか」
こんな場所だ、攻めて落とせれば、かなりの利益になる。しかし、それができないと周りも分かっているという事か。
「最後に、この国の称号持ちの存在です」
「ここの王は《聖母》の夕実、《共鳴》のトーチだか何だかだっけか」
「はい、そのほかに《調和》のアダムス・フォーク将軍、《指揮者》のクラマ・アドウス将軍がいます」
「ほう、この国には四人も称号持ちが居るってことか」
それが多いのかどうかは分からないが、うちと同じくらいという事か?
「そうです、しかも《聖母》以外は人を使う事に長けてるような人たちのようです。私たちが個の強さを象徴する称号としたら彼らは群を象徴する称号という事でしょう」
指揮することに長けているという事か、こっちにもそういう人物が居ればいいんだがな。どちらにしても人心を掌握することにたけているという事か。
「故に、この国が中立をやめた場合、われらの大きな障害になる事は間違いないでしょう。それにここの王のこともあります」
「俺が夕実相手だと、本気が出せないと?」
「ええ、マスターは優しいですから」
はぁ、言うとおりなのだが。さすがに俺も夕実相手に戦争を仕掛けるのは無理だ。
「おっしゃる通りだよ」
「素直はいいことです」
にっこりと笑うアイリ、その笑顔は綺麗で見てるこっちが照れそうになるのだが、こっちは笑いごとではないんだよなぁ。
「本当にどうするかなぁ」
「今のままでは、確実に中立は破られるでしょうね。アストガルド、ガイウス両国は、この案件に賛成なようですし」
そこが問題だ。どうやってもあの二人じゃあ、こちらの意見を聞いてくれそうにないしな。
「色々と問題だらけですよ。ヒロノキアの戦力が充実してきているとは言え、ここで敵が増えるのはあまり得策ではありませんし」
やっと、軍の再編成も終わり、貴族軍を含めた新王国軍で調練を始めたばかりだ、あまり無茶はしたくない。
「今だ指揮系統は、曖昧なままだしなぁ。やはりここらで、ちゃんとした軍師が必要だよなぁ」
「ええ、早く《英知》を見つけなければいけません」
《英知》か、名前から察するに確実に軍師みたいな能力だよな。本当に今はそいつが必要だな。クラウザー一人に任せるには色々と負担が大きすぎる。
「今考えなければいけないのは、今後どうするかという事でしょうね」
「今のところ、中立を維持するという選択肢はなさそうか?」
「ないでしょうね、何か問題が起こらなければ、確実に中立は破棄されるでしょう」
「あー! 考えるのもめんどくさい! とりあえず動くぞ!」
悩んでても、何も始まらん。とりあえず俺は夕実に会いに行くぞ。
「はぁ、本当に単純というか、なんというか」
「どうせ答えなんかでないんだ。だったら何か行動を起こさなくちゃ」
「ハァ、分かりました。一応あちら国に連絡を入れますので、少し待っててください」
「ああ、だがなるべく早くな」
「分かりました」
そういって、部屋から出ていくアイリ、さてどう動くべきなのかねぇ。まぁ何事にも夕実に会わなくちゃ始まらねぇか。
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「なぜゲイル、お前まで来ている?」
ハルモニア指定の部屋の前には俺とアイリ、そして何かひらひらとした服を着ている筋骨隆々の男? が立っていた。というか、ゲイルもこちらに来ていたのか、作法の練習をしている時点で、少し嫌な予感はしていたのだが。
「私の存在が忘れられてそうでぇ、ちょっと存在感を出しといた方がいいかなぁっと」
「お前の存在感がない? 冗談は存在だけにしてくれよ」
「あら失礼ね、私はいつも本気よ」
だから厄介なのだが。
「ほら遊んでないで、入りますよ」
「「はーい」」
俺たちはゆっくりと部屋の中に入るのだった。
中は、これと言って目につくものはなかった。そりゃあ王様の居る部屋ではあるので、豪華と言えば豪華だが。しかし、なんだこの甘ったるい匂いは、香でも焚いているのだろうか? クソっ、夕実め見ないうちに、おしゃれを気にするようになりやがって。
「わざわざご足労痛み入ります」
そこに居たのは、あまり見たくない顔、トーチ・クラフトの姿があった。
「俺の知り合いに会いに来るんだ、別に苦労でも何でもないよ。夕実は何処だ?」
「奥の部屋に居ますよ。でも、あっても無駄だと思いますよ? こちらに来たときには記憶がなくなっていたようですし」
「記憶がなくなったぐらいで、夕実があんな風になるか」
こう、明らかに分かる嘘をつかれると、流石に呆れてくるな。
「そうですか、ではどうぞ、行っても無駄だと思いますけど」
「無駄かどうかは俺が決める」
俺は、急ぎ足で奥の部屋へと急ぐ。
動機が激しくなる。自然と足が速くなる。この奥には夕実が、あの慣れ親しんだ夕実が居るのだ。
白く、少し大きなドアを開け、中へと入る。
「夕実……」
バルコニー奥に黒い髪の少女の姿が見える。椅子に腰かけるその姿は、俺が見慣れた姿であり、懐かしく、そしていつも俺のすぐそばにあった景色だった。
「誰?」
ゆっくりとこちらを向く夕実、ああやっぱり夕実だ。黒く長い髪、日本人形のような和風の顔、黙っていれば、普通にかわいいのだ。黙っていればだが。変わっていない、やはり何も変わっていない。
「夕実、俺だよ」
「貴方は誰?」
きょとんとしている夕実、やはりあいつの言った通り記憶がないのか? しかし、これは忘れているという感じではないような。
「俺を覚えてない?」
「ごめんなさい、ちょっと分からないわ」
言葉使いまで、なんか丁寧になってしまっている。
なんかむかつくな、あの夕実がこんなお上品になっているとは、なんか許せないのだが。
「えい」
俺は少しむかついたので、夕実の頭を小突く、あくまでかるーく、だが。
「あがー」
そういって椅子から転げ落ちてしまった。
「やはりこの弱さは変わらないか」
いっつも夕実はワンパンで沈んでしまうからな。こちらに来て少しは強くなったかと思ったが、そうでもないようだ。
「納得するなっ!!」
転げ落ちた夕実の拳が下から抉るように飛んでくる。その拳は、この世界で会ったどの敵よりも鋭く、俺が反応できないほどのものだった。
「ナイスパンチだ」
鳩尾に決まり、ゆっくりと膝から崩れ落ちる俺。
「あ、ごめんなさい!」
「べ、別に……大丈夫だ……」
呼吸ができない、流石夕実だ。何度も俺の意識を刈り取った右ストレートは健在のようだ。
それにこの反応、完全に記憶を失ったわけではなさそうだ。しかし一瞬素の反応に戻ったが、今ではまた無表情な感じになってしまっているが。
「まぁ、いい今はそこまで急いで思い出さなくても」
今はいい、夕実が無事ならば。こんな世界に夕実を巻き込んでしまったのは、もう神を怨むしかないが、今はまだ無事だ。
「でも、いつかは必ず思い出させる」
「何を言っているのかはわかりませんが、何か貴方にとっては大事なことのようですね。それに貴方と話していると、私も失ったものがとても大切なような気がしてくるのです」
無表情ながら、懐かしい雰囲気だ。少し変わってしまったが、根本は変わっていないのだろう。
「お前を危険には会わせない。俺が絶対に守る」
今は無理だ。でも絶対に夕実の安全は守る。
「また来るよ」
「ええ、待っています。あなたと話すのは、なんでかとっても楽しいの」
「ああ、また楽しませに来るよ」
ゆっくりと部屋から出ていく。話すことはたくさんあったけど、今は喉から出てこない。この話は夕実の記憶、いや本当の夕実に戻った時に話すとしよう。
俺はゆっくりと部屋から出ていく。
「無理でしたでしょう」
「黙れ」
そのにやついた貌がまた俺のいら立ちを助長させる。
「今はお前を殺さない、だけど必ずお前は殺す」
今は少しでも時間が惜しい、次の会議は多分一週間ほど先になるだろう。それまでに俺は出来ることをしなくては、夕実を守るためにあらゆることを。
俺は内から溢れそうになる怒りを抑えつけ、夕実から去ることにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「怖い、怖い」
ゆっくりと肩をすくめるハルモニア宰相、トーチ・クラフト、それは何か余裕を感じさせる仕草だった。
「あなた、少しまずいかもよぉ」
体をくねらせ、気味の悪い仕草で話すゲイル。
「何がですか?」
「あの子があんなに怒ってるのを初めて見たもの」
「ええ、少しまずいと思いますよ」
「ふむ、気を付けますよ」
しかし、そのにやけた表情を崩すことはなかった。
「しかし、いきなりですね」
ゆっくりとアイリはその言葉を口からこぼす。
「あなたたちの来訪がですか?」
「いきなりすぎましたか?」
「いえいえ、全然ですよ。私たちは何時でも熱烈歓迎ですよ」
「あら、それはよかった。いつでも遊びに来れるわねぇ」
嫌味の応酬をする三人。っその三人の間には嫌な空気が流れていた。
「多分、又来ることになりそうよねぇ」
「ええ、その時はまたお世話になると思います」
「ええ、お待ちしてますよ」
ゆっくりと己が主を追い、部屋から出ていく二人。
「これは少し計画をはやめないといけないかもしれないですね」
一人残された宰相は、そう呟くのだった。
「少し残念そうね」
二人で廊下を歩く女? 二人。
「そう見えますか?」
「あら、恋する乙女ね」
「別にそんなんじゃないです!」
静か故に、その声は廊下に大きく響いた。
「ほら、そんなにむきになって、分かりやすいわね」
「別にそんなんじゃないんです」
「素直にならないと、あなただけのマスターにはなってもらえないわよ」
「本当に何でもないんです」
「まぁ、まだ若いわねぇ。でも忘れちゃだめよ。大切なものなものなら、なお自分に嘘ついちゃだめよ」
「……」
「恋する乙女は強くなくちゃだめよー」
ゆっくりと、薄暗い廊下の中に消えていく二人だった。
とりあえず大まかな流れが決まっているこちらから先に投稿していきます。忙しすぎてちょっと厳しいですが頑張ります。決してエタってるわけではないです、本当です、本当ですよ? 大体の流れはほとんどできてますので、完結を目指して頑張ります。




