街のフロンティア
「は? グイン家に入れない?」
「そうなんだ。なぜか僕の事を門番が入れてくれないんだ」
戦争も終わり、町の復興も大体が終わって、やっと平穏に暮らし始めれるといったときのことだ。家に帰ったはずのキースが、なぜか城にやってきて、そんなことを言ったのだ。
「あー、お前久しぶりだから、門番に顔を忘れられたんじゃないか?」
「そんなわけあるか! でも門番も新しい人間に変わっていたな」
納得いかないという顔のキースだ。まぁ次期当主の顔も知らない門番というのもおかしな話しだがな。
「門番がダメなら、直接話させてもらえるようにしろよ。おじいさんとかおばあさんと居るんだろ?」
「どうやらお二人は出かけていて、明日まで帰ってこないようなんだ」
「で? 俺にどうしろと?」
「明日まででいいから泊めてくれ。いや泊めろ」
「はぁ、まぁ止まる部屋はいくらでもあるから別にいいんだが。俺は今日オフだから適当に外に出てっちまうぞ? 街を見に行きたいからな」
色々とひと段落がついたので、休みがもらえることになったのだ。これを機に一応街のことも知っておきたいので、街へと誰かを誘っていこうと思っていたのだ。
「ああ、別にかまわない。今日は一応子供たちのところに遊びに行こうと思っていたのでな」
「ふーん。まぁいいけど」
「なんだよその顔は?」
「いや、意外にお前って面倒見がいいのな」
「な、別に僕はあそこまで仲良くなったのに、このまま疎遠になるのも申し訳ないと思っただけだ」
「あー、まぁそういう事にしておくよ。じゃあお前は今日一緒に行けないか」
「そうだな。それに僕はあまりこの街に詳しくないんだ」
「ん? どうしてだ? この街に住んでいるんだよな?」
「ああ、住んでいるが、僕は家から全くでない生活をしていたしな。というより、家から出る必要がなかったと言うべきかな」
「要するに引きこもりか」
「あまりいい意味ではない気がするな、その言葉」
「まぁ、あまり深く考えるな。子どもたちは、三階の居住フロアに居るよ。一応仮住まいだから、引っ越したらまたお前に連絡するよ」
いつまでも城に居ていいと言ったのだが、どうやらおっさんは城というのがあまり好きではないらしい。なので、今は街の中に、孤児院を作るという名目で、彼達の家を作っている。
「ああ、感謝するよ。じゃあな」
「おう、お前も三階の部屋を使いたかったら使っていいぞ」
「了解した。まぁ僕はお前に言われなくても勝手に使うけどな」
そういって部屋を出ていくキース。しかし、門番が知らないというのもおかしな話しだ。原初の三貴族と呼ばれるほどの人間だぞ? そんな家の人間がキースのことを知らないなんてことがあるのか?
「まぁいいか。明日になれば分かることだしな」
今悩んだって答えが出るわけないか。明日キースのおばあさんかなんかに聞けばいい話だ。
さてじゃあ誰か誘っていかないと。おっさんは街に詳しくないし、あとはあの三人か。二人は詳しいとして、アウラは詳しいのだろうか? 昔は住んでいたらしいし、多分大丈夫か。
「今日はみんなオフだし、探せば見つかるかな。あ、キースにでもみんなを見たか聞けばよかったな」
失念していた。ここまで来る間に誰かを見たかもしれなかったのに。まぁいいか今日は一日暇なんだし、ゆっくり探すか。
「「ぎゃあああああああああああああああああああ」」
その時、俺の耳に二つの悲鳴が届いた。
「この声は、アウラとシロナか?」
二人の断末魔ということは、何かあったのか? あの二人が叫ぶほどの危機という事か? 英雄の二人が叫ぶほどの危機? それはどんなレベルの危機なんだ!? 世界が壊れるぐらいの危険か? だったら俺が何かできることなんてないんだが。
「かわいいわ! 二人ともかわいいわよ!」
「あーこれは無理だわ」
俺が見た光景は、ゲイルに抱かれる二人の姿だった。
「離せ! 離して!」
「うぐぐぐぐ」
「離さないわよ! 今日はあなたたちを可愛がるんだからねー!」
小さな英雄二人を両脇に抱え、両方に交互に頬ずりする姿は、この世の地獄と言っても過言ではない。世界が滅びるなんてちゃちなもんじゃねー。これは生きながらにして、何回も殺されているようなものだ。
「すまんな二人とも!」
俺はその場から逃げるようにして去る。誰だって自分の身は大切なんだ。それがこの世の地獄を味わうことになるというなら尚更だ。ごめんな、俺は二人を見捨ててでも生き残りたいんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて、いきなり仲間が二人居なくなってしまったわけだが。あと頼りになるのはアイリだけか」
頼りの二人は、この世のものとは思えない化け物に捕食されてしまったので、救出は不可能だ。
「さて、アイリは何処に居るのかな?」
多分この城の近くにいるとは思うのだが。
でも城の中には見当たらなかったし、アイリも休みだ、どっか出かけているのかな。そうだとするなら、諦めるしかないのだが。
「ん?」
俺が城の中庭を通ろうとしたとき、庭の奥の方から、何か声が聞こえた。
「ふっ、えいっ。ああああああああああああ」
そこには剣を一心に振り続けるアイリの姿があった。
その姿は流麗、というか一つ一つの動作のレベルが高すぎる。剣を振るという一つの動作にしても、速く、正確、そして残酷だった。人を殺すための動きだというのに、俺はその姿にただ、ただ見惚れているだけだった。
「あれ? マスターではありませんか。どうしたんですか?」
「ん? ああ」
どれくらい見続けていたのだろう、そんな風に思ってしまうほど、俺は見続けていた。しかし声をかけられるまで気づかないとは、どんだけ俺はぼーっとしていたのだろうか。
「? なにか御用でしたか?」
持っていた。練習用の剣を置き、汗をぬぐいながら、こちらへとやってくるアイリ。
「ああ、ちょっと街を案内してもらおうかと思ってな。今日暇か?」
「はい! 暇です! 早く行きましょう!」
凄い勢いで食いついてきたアイリ。こんなにうれしそうなアイリは初めて見た。何かそんなに欲しいものでもあったのだろうか?
「お、おう。ま準備もあるだろうし、三十分後に門の前に集合な」
「はい、分かりました!」
そういって、走り去っていくアイリ。
「あ、そういえばマスター!」
「ん? なんだ?」
走りさったと思ったら、すぐに戻ってきたアイリ。
「二人きりでですか?」
「ああ、二人だ」
他の二人はこれる状況ではないしな。というより連れてきたくないな。
「そうですか! じゃあ準備してきますね」
今にもスキップしだしそうな雰囲気で駆け出すアイリ。あ、今スキップしだした。
「何か買わされそうだな。銀貨はいっぱい持って行った方がいいかもな」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺は、ただひたすらに門の前で待っていた。
約束の時間は過ぎている。まぁ女性というのは準備に時間がかかるものらしいからな、俺は何も言わずに待つとしよう。前に夕実を置いて行ったらマジ切れされたからな。遅れたのに切れるってどういうことだよ。
「すいません、遅れました!」
「ああいいよ……」
急いでやってきたのか、息切れ起こしながらやってきたアイリ。いやそんなのはどうでもいい。というかもう遅れてきたこともどうでもいいと思えている。
アイリは真っ白なワンピースを着ていて、その金髪の髪をポニーテルにしていた。いつもは鎧などで露出度が低いため分からなかったが。真っ白な肌、細い腕、すらっと伸びた足、そして、程よい大きさの胸。そのどれもが素晴らしいバランスを誇っていた。そしてその清楚な感じに、真っ白なワンピースがすごくマッチしていて、彼女の美しさを引き立てていた。しかし、アイリは着やせするタイプのようだ。けしからんな。
「怒ってますか?」
上目使いで、聞いてくるアイリ。そんな感じで見られると何とも言えない気持ちが沸きあがって来るというか、なんというか。
「いいや、全然怒ってないよ」
許すしかなくなってしまう。
「よかった。じゃあ行きましょう」
「お、おう」
なぜか緊張してしまう。いつもは英雄としてのアイリと喋っていたからな。女性としてアイリを意識するのは、これが初めてかもしれない。
「マスターは街を案内してほしいんですよね?」
「ああ、俺もこの街のことを知っておかないとな」
俺たちは、門の前から延びる、大通りを二人で並びながら歩き続ける。
「うん、いいことだと思いますよ。マスターには今、学ぶことが一番大事なのかもしれません」
「そうだな、何をするにしてもまずは知らなくちゃ話にならないもんな」
「ええ、今日はいっぱい教えてあげますよ。ではまぁ、この道は説明しなくても大丈夫ですよね」
「ああ、たしか色々な店が出てる大通りだろ? 街の入口から、城門までまっすぐ伸びていてるんだっけか?」
「ええ、そうです。正確にはここは街に住んでいる商人が、店を出している場所です。ここに店を出せるのは街に住んでいる商人だけです。行商人や、他の商人は週に一回、土の曜日に、城門の前で市が開かれますので、そちらの方に店を出してもらいます。まぁ最近は色々なごたごたで、開けていませんでしたけど」
「ふーんそんなのがあるんだ。色々な商人が、このヒロノキアにやって来るってことか?」
いろいろな地方のものとかもその市で買えるということか。さすがは七大国、いろいろとスケールがでかいな。
「ええ、北から南、いろんな方面の商人がやってきます。商いは国を発展させるために必要な要素ですから」
そうだな、国を発展させるためには、色々なことが必要という事か。俺も少し勉強をしなくちゃだめかもしれないな。俺が元の世界に居た時は、たいてい夕実に頼るか、腕力に物を言わせていれば何とかなったからな。
「そうだ。では商人の説明をしたついでに、ギルドの方にも寄っておきましょうか」
「ギルド? なんだそれは」
「えーっと、組合みたいなものです。同じような人々が寄り添って、組織を作っているんです」
あー、なんか世界史の授業でやったような気がしないでもない。まぁ、俺は爆睡していたが。
「色々なギルドがあるんですが、とりあえずは街商人のギルドへ行きましょう。そのあとに行くのは職人ギルドです。多分その二つへ行っとけば、当分は困らないと思います」
「うい、んじゃあさっさと行こうか」
俺とアイリは、ゆっくりと二人で歩いていくのだった。




