初陣のフロンティア6
「そう怖がらなくてもいいんだよ」
キネアの城の中の一室、会議室ような場所で俺たちは話し合っていた。
「は、はい」
そこには淡いピンク色のドレスに身を包んだ十歳の少女がいた。幼いながらも顔は整っており、くりっとした目に、すらっとした鼻立ち、綺麗な茶髪、将来が有望だな。
「俺たちは別に戦争を続けようと思っている訳じゃないんだ」
俺は怯える少女になるべく刺激を与えないようにやさしく話しかける。そんなに俺は怖いのだろうか? いや俺が怖いんじゃない、きっとおっさんが怖いんだ。そう思おう。
「あ、あのー、では我々は何をすればよろしいんですか?」
少女の後ろにいる補佐官が恐る恐るという感じに疑問を口にする。
「俺たちは何も要求はしない。今回の戦争ではこちらもかなりの損害を受けた。それはそちらも同じだと思う」
「は、はぁ」
「だから今回はこちらも何も要求をしない。いや、多少は要求するかもしれないが、そこまでの負担にはならないはずだ」
「では、私たちはどうすれば?」
怯えた小動物のように、俺を見上げる少女。
「同盟を組もう。前回のような不戦の条約ではなく、ちゃんとした同盟」
「は?」
「え?」
二人がなにをいってるんだこいつ? みたいな顔になる。
「私が小さいからってなめているんですか!? 私にだってあなたたちが、キネアと組んでもなんのメリットもないことぐらい分かっています。あなたたちは六大国です! こんな小さな国などそこら辺の石と同じでしょう!」
激昂する小さなお姫様。やはりこの世界では六大国以外は不憫な状況にあるらしい。
「別にメリットがないわけじゃないさ。現在俺たちの国は内戦の後で、混乱が続いている、そこで少しでも戦力を増強しておきたいんだよ」
「だったら同盟という形にしなくても、私たちの国を吸収すればいいでしょう。わざわざ残す必要なんてない!」
納得がいかないという少女。その姿は十歳という齢とは思えないほどの迫力だった。
「それだと他の国との軋轢が出ちゃうでしょ。だからあんまりそういう手をとりたくないんだよね」
「……」
納得はしたが、理解はしがたいと言った顔だ。
「納得してもらえたかな。俺たちは別に伊達や酔狂でこんな提案をしてるんじゃないんだよ」
「分かりました」
しぶしぶと言った表情で頷くお姫様。
「いいのですか姫様?」
「ええ、私たちにこれと言ったデメリットはないでしょう。それに六大国を仲間にできるのは、なに物にも代えられない」
「分かりました」
後ろの男も姫様が言うのであればといった感じだ。
「ふむ、意外にしたたかだね。えーと」
「レイシス。レイシス・キネアです」
「ふむ、レイシスね。君がステングレンにいいようにされたとは思えないんだよね。会話してみてわかった。君が今回の黒幕だね」
「……」
いきなり沈黙するレイシス。
「十歳だからって油断してたよ。俺も今回の戦いで学んだよ、油断は大敵だってね」
外見だけを見れば、本当に幼い少女だ。
「私にはわかりません。そんな難しい話しをされても」
とぼけ続けるレイシス。しかし俺には確信があった。
「もう演技はやめたほうがいいよ。多分、ステングレンには今回の作戦は立てられないよ。多分彼だけだったら、俺たちが国の外に出てたことも知らなかっただろう」
「ふーん。どうしてそう思ったの?」
さっきまでの怯えた表情はどこえやら、堂々とした口調で話し始める。
「彼は戦についてはど素人だ。いや、アイリに言わせれば武人でもない。多分攻め続けろと言った指令を受けていたんだろう。だから一日目は止まらずに攻め続けた結果、アウラによって痛い目を見た。だから二日目の撤退は思った以上に早かったんだ」
一日目の強引な感じとは打って変わって、二日目の撤退は早すぎた。まるで別人のような早さだった。
「はぁ、結構自身があったんだけどね。結構前から計画していた作戦だったし。ふぅ、彼には絶対に自分は戦うな、って言ったんだけどな。やっぱもとごろつきじゃあ荷が重かったか。でもまぁ、死に際はかっこよかったみたいだしいいか」
「やっと本性を現したね」
もう少女といった感じではなく、対等な王として話している少女。
「ふぅ、白を切るのは無理か。そうだよ、全部私の思惑通り。あいつに任せれば、私に責任が及ぶこともないと思ってな。まぁ、あんたが戦争の首謀者だけではなく、ここの王族まで皆殺しだ! なんて非道な人間だったら詰んでいたけどな」
「それを補って余りあるメリットがあったと」
「まぁな。あいつが死んでも、このように、私は無垢な少女を演じていれば、あまり強い要求をしてこないと思ってな。強い要求をされたら、あいつが勝手にやったことですって言えばいいんだし。お前たちは今あまり敵を作りたくない状況だろうしね」
適格に俺たちの状況を言い当てるレイシス。
「ふむ、それもそうだな。キネアを滅ぼすとしても、こちらもかなり消耗する。その消耗したところを第三国が狙わないとも限らないしな」
俺たちが一番恐れるは、この状況で六大国が攻めてくることだ。小国なら、英雄の力でどうとでもなる。しかし、大国と戦うには力が足りなさすぎる。
「そう、だから最悪でも停戦だろうと私は踏んだんだよ。勝てば幸運、負けても今とそんなに変わらない」
「いい読みだと思うよ。国を責めるには俺たちの戦力は少なすぎる」
「いいのかよそんなことを言って、ここから反撃する案があるかもしれないぜ?」
不敵な笑みを浮かべるレイシス。その顔にはもう少女の幼さはなかった。
「ねぇよ。そんな案があるなら、最後まであんたは白を切ってるはずだ。こんなペラペラと喋るわけねぇよ」
「ふん、それもそうかね。で、どうするよ? このことを聞いてまだ同盟を結ぶかい?」
俺の顔をまっすぐと見据え、そう言った。
「ああ、上等だよ。それでも俺たちは無償であんたたちと同盟を結ぶ」
「本当にむかつく野郎だ。でもいいぜ、さっき言ったように私たちにデメリットは何もないしな。これからよろしく頼むぜ」
「ああ、よろしくな。ここにヒロノキア、キネアの両国は同盟を結んだ」
俺とレイシスは固く握手をし、その場は終わることにした。詳しい書面などは後日、ということだ。
こうして、俺の初陣は幕を閉じた。これからはこういうのが日常となっていくのだろう。しかし俺は多分逃げることはないだろう。みんなを、いやみんなと、この世界で幸せに過ごすためにいくつもの屍を築くことになろうともだ。俺は心にそう固く誓ったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いいのですか姫様」
会議室、その部屋には二人の人間だけが残っていた。
「何がだ?」
「今回の同盟です」
「いいだろう。私たちにとってはこれ以上の停戦内容はないだろう」
「いえ、内容に文句はありませんよ。私が言いたいのは姫がいいのかという事です」
「あー私のプライドってことか、それはいいよ。多分あいつは最初から気づいてたよ。わたしを初めて見た瞬間からな」
手のひらをひらひらと振りながら、何も痛くないといった表情を浮かべるレイシス。
「そうなのですか? 姫様の面の厚さは相当だと思ってたんですが」
「私もそう思ってたんだけどな。ホンモノにはすぐわかっちまうのかもしれないな」
窓の外を見つめながら、遠い目をする少女。
「敵にしたくはないですね」
恐ろしい、そういった表情を浮かべる補佐官。
「ああ、だから味方になったんだけどな。今回の結果は、勝つよりもいい結果だ」
「ええ、全部姫様の思い通りという事ですね」
「そうだといいんだけどな。多分この考えも読まれてるんだろうな」
「本当に恐ろしい男ですね。英雄王は」
「ああ、リュウマ・トウドウ。六大国の王は化けものだらけだよ」




