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初陣のフロンティア5

「ふぅ、お前ら。俺たちをバカにする大国が憎くないか? 俺たちはいつも大国の陰に隠れ、蹂躙され。蔑まれてきた。しかしそれも今日でおしまいだ! 私たちキネアの民は、ここからのし上がる! もう中堅の国などとは言わせない! われらが日の目を見る日も近い! 今日、ヒロノキアの屑どもに、我々の力を思い知らせてやれ!」


 キネア国、将軍の地位に就いたゲイリアー・ステングレンは大きな声をあげ、兵士たちを鼓舞する。


「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」


 地を轟かすような野太い声が、草原へと響きわたる。草原には一面の兵士たち。その兵士たちはそれぞれ決意を持ち、この戦いへと赴いていた。


「では! 行くぞ! 出陣だ!」


 こうしてキネアの軍勢は前進を開始する。その先に待っているのが、地獄だったとしても。



          ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「じゃあ、行くぞ。この俺たちは来たからには負けるわけがねぇ!」


 俺は、兵の前へと立ち、大きな声を張り上げる。さすがに二回目となると、躊躇せずにすらすらと言葉が出てくる。


「俺たちは誰だ?」


「「「「「ヒロノキアの兵士です!!」」」」」


「そうだお前たちはヒロノキアの兵だ! お前たちは英雄の居る国の兵だ! ならば負けることは許されない! なぜならばお前ら一人一人もまた、国を守る英雄なのだから!」


 俺は遠く、陣を構えているキネアの国を指さし、最後の言葉を発する。


「あいつらに我ら英雄の鉄槌を下してやれ! いざ、出陣だあああああああああ」


 前進を始めるヒロノキアの兵たち。


「じゃあ行ってくるよ、お兄ちゃん!」


「おう、行って来い!」


 部隊を率い、前進するアウラへと返事する。


「では行ってくる。またな小僧」


「おう頼んだぜ」


 先陣を切って進んでいく二人。その姿を俺は後ろからただ見送る。


「見送るだけってのもつらいものがあるな」


「それも戦い方です。あなたが今するべきは兵を、英雄たちを、信じることです」


 俺の傍ら、遠くを見つめながらそう言うクラウザー。


「まぁ、そういうのもいいかな。でもなんかあったらすぐ出るからな」


「はい、そのときは止めませんよ」


 微笑みを浮かべるクラウザー。


「おう、まぁ今回はみんなを信じてみるかな」


 俺は眼下で戦う英雄たちを見つめ続けるのだった。



          ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「うおおおおおおおおおおおおおおおお」


 金髪の閃光は戦場を駆け抜けていく。閃光が通り抜けた後には、何も残らない。


「うわああああああああああ」


 キネアの軍は何にやられたかも分からずに、その命の灯を消していく。


「点で捉えようとするな! 閃光には面で当たれ!」


 戦場に怒号が響く。


「無駄だよ。そんな時間を私が与えると思うか?」


 相手の弓隊を力でねじ伏せる大力。ひとたび腕を振りぬけば、兵士たちが空を舞う。


「甘いな。我々を甘く見過ぎだ」


「そうだね。君たちは英雄をなめすぎだよ」


 圧倒的な力を見せつける英雄たち。


「相手は虫の息だ! さぁ! 進め! 勝利をその手で掴め!」


 兵士たちへと叫ぶシャイナ。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお」」」


 ヒロノキアの兵たちは英雄たちの姿を見て、その闘志を滾らせる。


「引くな! 当たれ! 数で圧倒するんだ! たかが相手は二千ぐらいの兵だ! 我々は五千居るんだぞ? 負けるわけがない。負けるわけがないんだよ!」


 圧倒され続けるキネア軍をみて戸惑い続けるステングレン。


「クソっ、前へ出ろ! 引くな! 引いたら負けるぞ! 数はこっちの方が多いんだ! 進み続けろ!」


 自らも部隊とともに前進するステングレン。


「たかが五千で勝とうと思うのがいけないんです」


「私たちが居る時点で、人数なんて無駄」


 戦場のど真ん中に二人の英雄が降り立つ。金と銀の髪を揺らし、相手の命を刈り取るために。


「こんなの認めない! こんな理不尽を!」


「いいですよ、認めなくても。でもこんな世界で理不尽を嘆いたってしょうがないでしょう。世界はとっくの昔に理不尽ですよ」


「あ、あ、あああああああああああ。認めない! 俺たちが勝つはずだった!」


 剣を抜き、二人へと飛びかかる。


「甘いですね。まだマスターの方が強いですよ。あ、でも一応マスターも称号を持ってるんでしたっけ」


 ステングレンの剣をいなしながら会話し続ける。


「アイリは主をなめすぎ。主、結構強いよ」


「でもマスターが来て、ひと月ほどしか経ってないんですよね。考えてみると短いですね」


「お前ら! ふざけるなよぉおおおおおお。てめぇら全員でかかれ!」


 その余裕な表情に激昂する敵将。


「はぁ、どうします?」


 襲い掛かる兵士の波、自分たちの部隊の数倍はある敵兵。しかし二人は何も臆していない。いや、むしろまとめてやれて好都合だといった風貌だ。


「アイリに任せた。アイリの方が適任」


「はぁ、めんどくさいだけでしょう。まぁ、いいです。私がやりますよ――『カマイタチ』」


 轟音とともに振りぬかれる剣。その剣は風を、空気を、すべてを切り裂き、風の刃となり、辺りを切り裂く。

 その風が収まるころには、辺りにいた兵士は二度と立ち上がることができなくなっていた。


「化け物か……?」


 その光景を見て、驚きというよりも恐怖を感じたステングレン。


「いいえ、英雄です。まぁ、ヒロノキアにとっての、ですけど」


「しかし、私自身は逃げるわけにはいかない。私だって将だ。この戦いからは逃げられない」


 剣を構え震える足を押さえつけながら対峙する。


「ええ、いい心構えです。まぁ、あなたを逃がすわけにはいきませんですけど」


「おい、伝令! 撤退の合図をだせ。こいつらは、いや、これらは決して喧嘩を売ってはいけない相手だった。全力で撤退だ。いいな」


「は、はい!」


 そういって角笛を吹き出した伝令。その笛の音は、混乱した戦場でも綺麗に響いていた。


「た、退却だああああああああああ」


 戦が始まったころの威勢などどこへやら、逃げるようにして、撤退を始めるキネア軍。


「私も兵たちは守らなければいけない。というより、お前たちからはどうやったって逃げられないだろう」


 ステングレンの部隊はその場へと残り、英雄とその部隊へと向き合う。


「故に殿として残ると? 撤退する兵を守るため。まぁ、私たちは追撃する気はありません。これから同盟を結ぼうという国に、遺恨を残したくありませんから……しかしあなたの命はもらいますけど」


「あ、あ、あ、うわあああああ」


 我武者羅に剣を振るステングレン。その姿は武人というには程遠い姿だった。


「大丈夫ですよ、あなたの国を悪いようにはしませんから」


 一閃、アイリの剣が降りぬかれる。その剣は相手の剣も、鎧も、肉も、骨も、断絶する。


「あ、あ、あ」


 一つのだったものは、胸から綺麗に上と下に別れ、上半身が下半身から滑り落ちる。ぐちゃ、という音とともに、人間の中身を零しながら、その命はどんどんと淡くなり、そして消えて行った。


「私たちも撤退します。兵を集め、再集合し、敵の国へと行きます。決して追撃はしません」


 逃げるキネアの軍に見向きもせず、撤退を始めるヒロノキア軍。


「これで終わりだね」


「ええ、終わりです。でも始まりでもあります」


「これで主の強さは、この世界を駆け抜ける」


「そうですね。マスターの名前が有名になれば、その分マスターは強くなれますから」


「でも、これからはつらくなる」


「ええ、でも最初から決まっています。我々の進む道は修羅の道です」


「平和を目指すために、平和を壊す」


「矛盾しているのは分かっています。でもこの世界で生まれた私たちには、これしか方法が分からないのです。でもマスターなら、違う世界のマスターなら、何かを変えてくれるかもしれませんね」



          ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふえっくしょん」


「どうしました? 王よ。風邪でもひきましたか?」


「いや、誰かが俺の噂でもしてるんじゃないか? しかし圧倒的だな」


 自軍の倍以上いたはずの軍勢がなすすべもなく、撤退していく姿が見える。


「でもいいのか? 想像以上相手の撤退が早かったから、相手の兵はそんなに減ってねーぞ?」


 作戦では撤退するのはもう少し後のはずだった。しかし、思った以上に撤退が早かったため、相手の兵は三分の一も減らせていない。


「強すぎるのも問題ということですね。しかし大丈夫でしょう。私たちは戦争をしに行くのではなく、同盟を結びに行くのですから。それに相手をあまり傷つけない方がいい、と言ったのは王でしょう」


「そりゃあ、仲間になってほしいのに、痛めつけたらなんか嫌だろう」


「まぁ、そうですけど、今さら無意味だと思いますよ。もう敵兵たちに英雄というものは、恐怖の対象でしかないですし」


「だからだよ。敵では恐怖でしかないが、味方だったら頼もしいだろう」


「そういうものでしょうか?」


「そういうもんだよ。まぁ、同盟を結ぶまでは、恐怖の対象でいてもらわないといけないけどな」


「そうですね。そうすれば楽ですもんね。あ、みなさんが帰ってきましたよ」


「ただいまー、お兄ちゃん!」


「ちょ、抱き着いてくんなよ」


 ものすごい勢いで飛び込んできて俺に抱き着くアウラ。


「えー、いいじゃん。帰ってきた兵を労うのも王の役目だよー」


「嫌だよ! というか鎧で重いんだよ!」


「こら、アウラ、マスターが困っているでしょう」


「でも、ちょっとうらやましい?」


 二人が戻ってくる姿も見える。その後ろにおっさんの姿も見える。


「ふー、久しぶりの戦は疲れるな」


「おう、お疲れ。すまんな、すぐに戦いに巻き込んでしまって」


「まぁ、いいさ。私が役立つのなんてこんな場所しか思いつかんからな」


 いつもと表情を変えず、悲しいことを言うおっさん。


「そんなことねーよ。色々役立つぜ。おっさんは」


「ふっ、そういってもらえれば本望だよ」


「おいアウラ、そろそろ離れろ」


「えー……分かったよぉ」


 渋々といった表情で離れるアウラ。


「みんな揃ったな。じゃあそろそろ行くか、キネアの本国に」

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