初陣のフロンティア2
「右翼、もう少し耐えてください。中央隊、右翼のフォローに!」
戦場の真っただ中、クラウザーの声が響き渡る。
戦場ではキネア軍と、ヒロノキアの軍が衝突していた。戦況はヒロノキアの圧倒的不利。装備の優位があったとしても、人数の差は明白だ。ヒロノキアの軍勢は、国中の兵を集めた二千、対するキネアの軍勢は五千。何とか騙し騙しやってはいるが、地力の差で、じわじわと押され始めている。
「これはつらいですね。ここからどうする気ですか? 天才さん」
台詞とは裏腹に険しい表情の政務庁副庁のセレス。
「やはり厳しいですね。しかしやられるわけにはいきません」
「それは当たり前です。しかし、このままでは」
「ええ、このままでは負けてしまいます」
「私も考えては居ますが、専門ではないので全くいい案が思いつきません。というより、なんで文官の私が戦場なんかに……」
「何事も経験という事ではないですかね」
「だから私はあの人が嫌いなんです。あの人の言動は常人には理解できません」
「でも正しいんですよね」
「そう! だから手に負えないんです」
つくづくだといった感じでしゃべり続けるセレス。その風貌からは、いつも彼女がその人物に振り回されているのだと察することができる。
「ははは、この経験もいつか役に立つ日が来るかもしれませんよ」
「そうなるといいですね。しかしこのまま負けてしまったらそんな日も来ないかもしれません」
「ええ、そうならないように頑張りましょう」
そういって一人黙り込んでしまうクラウザー。
「クラウザー様! 左翼が突破されそうです。ご指示を!」
一人の伝令役が息を切らせながら本陣のテントへとやってきた。
「クラウザー?」
「そうですね。こうしましょう。現在我々はヒロノキア西方の草原で敵軍と衝突しています。ここでは数の差は覆せない。だからこちが有利になる場所へ誘導しましょう」
「しかしそんな場所が何処に? ここら辺は平野が続いています」
ここらいったいは起伏の少ない形状になっていて、どこにいっても数の振りを覆せるような場所は思いつかない。
「ないのであれば作ればいいのです」
「作る? どうやって?」
「とりあえず山でも崩しますか」
「ハ?」
いつもの鉄仮面からは想像できないぐらいに素直な驚きを表情に表すセレス。
「幸い昨日の雨で少し地盤が緩くなっています。兵の大半でスキルを使えば土砂崩れでも起こせますでしょう」
「しかし、近くの山と言えば……ホウライ山ですか。しかしそこを崩しても……」
ヒロノキア西南にはホウライ山と呼ばれる少し大きめの丘みたいな場所がある。なぜ山と呼ばれるようになったかは不明だが、ヒロノキア近くのシンボルとして、みんなに愛されている。
「そうですね。多分相手の守備隊の防護スキルでせき止められてしまうでしょう。しかしその分相手の戦力は削れます」
「でも、それでも……」
「ええ、まだ戦力は全然こちらの方が不利です。だからもう一つ手を打ちます」
「もう一つ? 山のほかと言えば…運河ですね!」
「そうです。土砂では相手の盾で防がれますが、濁流ではそうはいかないでしょう。山を崩すついでに川も氾濫させてしまいましょう」
ヒロノキアには海がない。故に海を使った船の貿易は出来ない。しかし、運河を使うことで、海外諸国とも貿易をおこなえるのだ。ヒロノキアの貿易は、街道を使った陸路と、この運河を使った水路の二種類が大半を占めている。
「しかし、運河を壊すとなると、壊滅的なダメージがでますね」
二種類がほとんどなため、一つの手段が麻痺すれば、多大なダメージが出てしまう。
「仕方ありません。滅びるよりはいいでしょう」
「それでいきましょう。多分相手にはそれなりのダメージを与えられるでしょう」
「ええ、普通の指揮官なら撤退しますね。水だけならまだしも濁流ですからね、動きづらいここの上ないでしょう」
「これで停戦してくれればいいんですね」
「ええ、しかし来なくても大丈夫でしょう。先ほど何かが物凄いスピードで草原を走る物体が目撃されましたから」
「それは、安心ですね」
暗かったセレスの顔に希望の色が蘇ってきた。
「ええ。今日のところは多分引いてくれるでしょう。明日から反撃の始まりです」
そういうクラウザーの顔には固い決意がうかがえた。
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「がははは、いくら七大国と言えどもう落ち目よ! われらキネアにかかればこんなものよ!」
キネア国本陣、テントの中ではガサツな笑い声が響き渡る。
「このままひねりつぶしてくれるわ! 英雄さえいなければあんな国、恐るるに足らんわ!」
「そうですね。現在平原で戦闘となっていますがわが軍が圧倒しています。このままでは勝利の目前かと」
「このワシ、ゲイリアー・ステングレンに懸れば余裕よ!」
「ええ、われらキネアの国がこの世界の覇権をとるのも近いでしょう!」
「そうか! このままあのあの大国を食ってしまうぞ!」
「はい。我らキネアの民に祝福を!」
「がははっ! では参ろうか! 世界を覇権を握りに行こうか!」
大柄な男は笑いながらテントから出ていく。戦いへとその歩を進めていく。




