内戦のフロンティア7
俺は重く大きな扉を開け、会議場へと入る。
中はこの前来た時と変わらず、人でごった返していた。この前と違うのはここにいる人間の表情が驚きと恐怖に満ちていることだろうか。
「終わりだ。投降しろ。そうすれば俺は命まで取らない」
本当はここまでした人間たちを許したくはない。だけどここでみんな殺してしまうのは簡単だ。でもそれじゃあ何も解決しないのだ。
「わ、分かった。だから命までは許してくれ!」
一人の男が耐えきれなかったのか命乞いをしだす。そうするとそれを聞いた他の人間も一斉に口を開き始める。
「悪かった。もうこんなことはしない! だから助けてくれ」
「お願いだ俺には家族が居るんだ!」
「死にたくねぇよ、死にたくねぇ」
人間やはり自分の命は大事なようだ。皆がみんな俺の一言で投降する。たった一人の人間を除いては。
「ああ、いつかの青年じゃないですか。こんなところでどうしたんですか?」
黒ずくめの嫌に目につく豪華な服で着飾った嫌味な男は、さもいつも通りといった風に声をかけてくる。
「ノワールッ、まだマスターを王として認めない気ですか!?」
「はぁ? そんな青年が王? 冗談はよしてください」
乾いた笑い声をあげるノワール。
「まだそんなことを! あなたはっ!」
「少し抑えてアイリさん」
俺は興奮気味のアイリさんをたしなめる。
「でもマスターっ」
「アイリ、抑えるべき」
どうやらシロナちゃんの方が冷静なようだ。本当になんかこの二人は外見と性格が反対のような気がする。
「なぁノワールさん。おとなしく投降してくれないか? そうすれば別に命までは」
「命までは? 命まではなんです? そんな考えではこの先生き残れませんよ」
「っ、もういい投降するものは開放する。早くこの城から出るといい」
その言葉を聞いた瞬間出口へ一斉に群がる人々、その姿は蜘蛛の糸に群がる囚人のようであり、貴族らしさなど微塵も感じられなかった。
「どうだ。これで一人になった。これが最後の警告だ。投降してくれ」
俺は喉から必死に声を絞り出す。しかし目の前の男はまったく意に反さない。
「投降? そんなことするわけないですよ。私はあなたを永遠に王とは認めません。国民全員が認めようと、私だけはあなたを認めないでしょう」
「何故だ? なぜ認めない?」
「何故って……当たり前でしょう。あなたはこの世界の人間ではないんですから。昨日今日この世界に来た人間をなぜ王と認めることができましょうか?」
「ッ!」
その通りだ。俺はここにいる人達とは根本からして全く違うのだ。
「そんなのマスターには関係ない!」
「そう関係ないな。こんな世界そこの青年にとって何も関係ないのだ」
関係ない。そうだこの世界で俺は完全に部外者だ。その言葉を聞くと、俺はこの世界に関わらない方がいいのではないかと思い始める。
「主は主、それだけで十分。それにあなたよりは私たちのことを考えてくれてる」
「そうです。あなたよりも国のことを全然考えてます」
二人の温かい言葉が聞こえる。皆のことを思い出す。今も外で戦っている気さくなおっちゃんたち、近くの街に避難しているという明るい町人たち、少し嫌味なクラウザー、元気なアウラ、無口なシロナちゃん、そして少しうるさいけど国のこと、民のことをしっかり考えているアイリさん。
そうだな、俺も覚悟を決めよう。もう世界のせいになんてしない。もう持ってるものを手放したりしない。もう自分の居場所から逃げたりしない。
「ああ、そうだな。決めたよ俺は……王として生きる」
俺は決意を口に出す。まだちっぽけな決意だ。でも俺は決めた。この世界で生きて行くと。
「マスター……」
「主……」
「ああ、もう逃げない。ここの人たちを見捨てたりなんかしない。俺もこの世界で生きて行く」
「はっははは、これはお笑い種だ。お前がこの世界で生きて行く? 違う世界の人間なのに?」
「たしかにそうかもしれない。でも俺はもう決めたんだ。絶対に逃げないと」
「そうか、では私を殺すしかないな。私はお前の存在を認めない」
「マスター私がやります」
「主、私がやる」
「いや、いいよこれは俺がやらなくちゃだめなんだ」
俺は二人を制して、ノワールへと近づく。
「そうだ。お前が殺れ、お前の意思で俺を殺すんだ。戦争だからじゃない、襲われたからでもない。お前の殺意が私を殺すんだ」
そうこれは俺の意思による殺人だ。しょうがないなんて言葉は通用しない。本当の殺人。
「ああ、殺すがいい。お前の道は血塗られた呪いの道となるだろう。先に地獄へ行って、見届けてあげますよ。ああ我らが王に血の祝福を!!」
「じゃあな」
俺はそういってノワールの首をへし折った。ぐしゃりという音と同時にぐったりとうなだれるノワール。こうして俺の前に立ちはだかった強敵はこんなにもあっけなく散っていった。
そして残ったのは一人の男の死体と、この胸の中に残った小さな虚しさだけだった。
「さぁマスター行きましょう」
俺たちは、入ってきたドアとは逆側のドアへと出る。そこは少し長めの廊下があり、その先には外へと出るバルコニーがあった。
眼下ではまだ戦いが繰り広げられていた。もう人と人とが入り乱れ、混沌と言っても過言ではないぐらいのにぐちゃぐちゃだった。誰もこんなことはしたくないはずだ。誰だって同じ国の人間を殺したくはない。
だけどそんなことは言ってられない。それがこの世界なのだ。だから俺がこの世界を変えよう。その道が血塗られていようと、それまでにいくら犠牲を出そうと、俺はその犠牲にの上に笑って暮らせる世界を作る。
だから俺はこの戦を止めないと、俺はこの国の王なのだから。
「シロナ、アイリ頼む」
「はい、マスター」
「了解、主」
二人が戦場へと目を向ける。そして二人はこの場を収めるべくその力をふるう。
「『コクウ』」
ほんの一瞬、いや一瞬というのも長いのかもしれない。それは一秒にも満たないとても短い間だが、戦場にいる人々全員が時間が止まったかのように、その動きを止める。
「『ワイドヘイト』」
誰もがいきなりバルコニーの方を向きだす。戦場の誰もがシロナを見ている。それほどまでにシロナの存在感が増しているのだ。誰もが目を離せないほどに。
「終わった! 戦いはもう終わった! 矛を収めろ! 戦いは終わりだ!」
俺は声を上げ、この悲しき戦いに終わりを告げる。
戦場にいる誰もが呆けた表情を浮かべている。
「繰り返す戦いは終わった!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」
兵士たちは歓喜の雄たけびを上げる。その声は誰もが心からの声であり、聞いている俺ですら叫びたくなるぐらいだった。
それまで殺し合っていた兵たちが抱き合う。涙を浮かべ、笑みを浮かべ、各々が全身で喜びを表している。
しかし俺のこころは晴れなかった。ノワールの言葉が楔となって、深く俺のこころに突き刺さっているのだ。
「大丈夫ですよマスター。これから知って行けばいいんです。これから分かって行けばいいんです」
優しく微笑むアイリ、その笑顔に俺はなんだか救われた気がしたのだ。
「ああ、そうだな」
こうして俺の初めての戦いは幕を閉じる。あとに残ったのは戦争の傷痕と、この胸の虚しさだけだった。




