王を冠する兎の名、認められざる力の名 4
賢さと愚かさは紙一重
「……ィ………ィ………ィ…」
まずい、本格的に近づいてきやがった。どうしたものか、門番は2匹だけだったが…おそらくこの仮眠エリアにも何匹かいるはず。先ほどの偵察では見つけることはできなかったが。
〈擬似隠密〉は先ほど使用し直したためまだ余裕はある、ただ潜める暗がりなどないに等しい……いっそ部屋の中に逃げ込むか?さっき見た部屋ならば兎はいないだろう。
「いや」
逃げる必要なぞない、高々2匹程度にやられるようではユニオンに勝とうなど無理な話だ。大丈夫、俺にはカフェインがついてる。あと侘び寂び。
「キィー!!」
全くの曇りなく鳴き声が聞こえてくる、この鳴き声に反応して中から出てこられては面倒だ。
そう判断し、自分から兎の方へと突っ込んでいく。
「先手必勝!!」
〈最低限の切れ味〉起動!10秒で倒してやるよ兎共ォ!
狙うは首!草原の三凶剣になっても断頭兎の剣の効果は受け継いでいる!
「癪だけどなァ!」
〈ダブルスラッシュ〉によって俺の剣の刃が兎の首へと吸い込まれていく、そして兎がどうするのかと思えばその兎の体と同じくらいの長さの耳で首を守ろうとしているではないか、そんなもので草原の三凶剣が弾けるとでも?
「んなことできるわけな……」
ガキィィィン!!!
耳ごと首を切り落とそうと振り抜いた瞬間に鳴り響いたのは、まるで鉄と鉄がぶつかり合ったような、いっそ清々しいほどの衝撃音であった。
「なっ!?」
驚きに一瞬体が硬直する、そしてその隙を兎たちは見逃してはくれなかったらしい。弾いた勢いをそのままに、今度は俺の首へと耳が迫る。
「んあ!!」
なんとか気合いで滑り込ませた草原の三凶剣、そしてやはり鉄同士がぶつかったような音が響く。
耳での攻撃を防がれたことに大した驚きも見せず、兎2匹は俺から距離を取る。
「よーし仕切り直しだ……」
にしてもどういう造りしてんだよあの耳、鉄とどっこいどっこいの耳なんて初めて聞いたわ。その上にあの柔軟性、うーんなかなか厄介。
「どうしたものか」
悩めど悩めど大した答えは出てこない、まあそれがいちばんの正解かもしれんが。
「当たらなきゃ意味ねぇよなぁ!?」
当たらないようにするのが難しいのはこの際一旦置いておくことにしよう。それが賢さってものだ。愚かさの間違いかもしれないけどな!
2匹の兎の足が、外から見てわかるほどに力み始める。そしてグググ……!!と溜めた力を一気に解放して……
俺との間合いを一瞬にして詰める。
「まあ流石にそうくるだろうとは思ってたけどな……!!」
ついでに言えばここは少し広い程度の一本道、左右へと跳躍するなどできないし、上から行くなら真っ直ぐ一直線に向かってきた方が単純かつ1番の脅威でもある。なぜって?そりゃこのクソ長い耳を後ろに回され絡みついて攻撃されるのが1番の即死コンボだ。
「〈ダッキング〉!」
故に、使ったスキルはダッキング。ただここで跳んできたのが1匹だけであったことを加味すると正直ミスったとは思っている、これで挟み撃ちにされそうだし。ただ正面から受けるのはリスクがでかい、片耳で刃を受け止めつつもう片方の耳で後ろからざっくりやられるのを考慮するとな……
「キィ……」
ははは、兎も若干悔しそうじゃないかはっはっは。おっと笑ってる暇なんかねぇ、もう1匹の兎さんが相手して欲しそうに俺を見てるよ。
「キィィィ!!」
跳躍。跳躍というほど生ぬるいスピードではないが、便宜上跳躍。それを避けるためのスキルはすでに使用済み、リキャストは後3秒程度。3秒かかって俺に辿り着くのなら大変嬉しかったのだが、残念ながらそうはいかない。故に使うのは〈ダブルパリィ〉。
このスキル、本来は両方向からの攻撃を受けるためのスキルだったようだが、先日のレベリングで発見したことが一つ。このスキル、よく考えると両方の武器にパリィ判定が出るわけで。つまり別々の方向に武器を向けるのではなく同じ方向に被せて向ければ2倍のパリィ判定が出るんじゃないかと。そういう考えが生まれたわけである。
んで試したら見事に成功したしたよ、という話だ。だから、今回もそれを使って跳躍に対処するつもりという訳だ。
「〈ダブルパリィ〉!」
また響く金属音、しかし今回はただぶつかっただけの音ではなく弾き返された音。
見事にパリィが成功し、突進して来た兎はパリィによるダメージを受けながら元来た方向へと吹っ飛んでいく。本当はその様子を眺めていたかったのだが生憎俺は人気なもんで。ご指名がもう1人入ってるんですよ待たせちゃってごめんね?
「〈バルツォ・ドゥエ〉!」
兎にも負けぬ大きな跳躍で一気に距離を詰める。そして…
「〈フラッシュスラッシュ〉!」
放つは閃光の一閃、兎の耳が首を守るよりも早く切る!放った自分でもなかなかに素晴らしい軌道だと自画自賛したくなるくらいには良い軌道でクリティカルへと吸い込まれていった草原の三凶剣の刃が振り抜かれ、次の瞬間兎の体が崩壊し、ドロップが地面へと落ちる。
振り抜いた勢いで体を反対方向へ向けるのだが、それでもこのドロップは見逃せない。
このアエテルナ・メモリアというゲームで「インベントリに収納する」というモーションを発生させる条件は、「収納する対象が自身の体もしくは装備に触れていること」。つまり服の裾が掠りでもしたらその瞬間、ジャストで収納をすることができればそれらはインベントリに入るということで。
流石にそんな芸当ができるほど人間はやめていないがタイミングには自信がある、さっきのパリィもなかなか難しかったんだからな?
ここで……収納!!
回収できたかは見えていない、そんなことをすればバランスが崩れる。そしてそろそろもう1匹の兎もパリィによる怯みモーションが終わろうとしている。だからよそ見をしている暇はない。
……でもインベントリ開いて見るだけならいけるかな?
おっ、ちゃんと入ってる!!流石は俺、今日は自画自賛が多い1日になりそうだな全くはっはっはァ!!
あっごめんね今のドロップアイテムから察するに名前=戦士兎さん。
・戦士兎の耳
門番から高位の兎の護衛補助まで、様々な役割をこなす戦闘面では最も多芸とでも言うべき兎がもつ耳。それは騎士ほどではないにしろ圧倒的な硬さを持ち、下手な武器では傷をつけるどころか刃こぼれするほど。また非常に柔軟性のある素材で、様々な種類の武器を作ることに適している。
・戦士兎の毛皮
戦いに身を置く兎達が己を守る最後の盾として鍛え上げてきた毛皮。その皮膚は並みの剣では刃が通らず、毛は高い換気性・防水性を誇る。
ちなみにダブルパリィを両方前にやるとどうたらこうたらは普通に攻略サイトに載ってます、ちゃんと見ないから……
なお断頭兎と戦士兎は違う種族です。
違いとしてはヴォーパルバニーはヴォーパルバニー以外足り得ないのに対し、ウォリアーバニーはウォリアーバニー以外足り得る可能性を持っています、武功を挙げようね!
ただ生まれながらにして貴族的な兎もいます、文明が発達すれば格差も生まれるのです……(涙)




