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アオの飛空艇  作者:
序章
1/2

プロローグ:雲上の残香

初めまして。3000年生きる男と、2900年生きる助手の女の子が旅をする物語を始めます。ゆっくりとした空の旅を楽しんでいってください。

高度三千メートル。

 そこは、鳥の羽ばたきすら届かない

静寂が支配する青の世界だった。


 飛空艇『蒼の翼』のメインブリッジに、陶器が微かに触れ合う上品な音が響く。助手のアオは、使い込まれた手動のミルをゆっくりと回していた。

ガリ、ガリ、豆を挽く規則的な音が

静かな艦内に朝の訪れを告げる。


「主様。今日の豆は、先日地上の東方諸国で見つけたものです。少し酸味が強いですが

寝起きの頭には丁度いいかと」


アオがドリップを開始すると、ブリッジ全体に香ばしく、深いコーヒーの香りが立ち込めた。

二十代の若々しくも気品ある横顔を

見ていると、彼女が二千九百年という時を生き

主の隣を歩み続けてきたという事実を

忘れてしまいそうになる。


 艦長席に深く腰掛けた主は、窓の外を流れる雲海を眺めながら、ゆっくりと頷いた。

 三千歳の時を刻んだそのかたちには、

五十五歳ほどの人間が持つ、酸いも甘いも噛み分けた男の渋みが宿っている。


「……ああ。お前の淹れるコーヒーは、いつも俺の時間を少しだけ止めてくれる」


 そこへ、背後の扉が静かに開き、一人の艇員が姿を現した。整った身なりで、仕事に対して一切の無駄を感じさせない、クールの表情をした若者だ。

彼は主の座る椅子から数歩離れた位置で

深々と一礼する。そして呟いた。


「失礼いたします。ノイマン様、地上から取り寄せた例の荷物が届いております。……

これらは、どこへ運び込みましょうか?」

 ノイマンと呼ばれた主は、カップを

口に運ぶ手を止めることなく

落ち着いた声で応えた。


「ああ、それか。……後で私が確認する。とりあえず予備の資材庫へ置いておいてくれ」

「承知いたしました、ノイマン様。……アオ様、コーヒーの香りがこちらまで届いております。

失礼いたします」


 艇員はそれだけを告げると、

足音も立てずに去っていった。

アオはそれを見送って

から、少しだけ誇らしげに微笑み

主へと向き直る。


「……ふふ。ノイマン様、だなんて。あの子たちも随分と、この船の流儀に馴染んできましたね。ですが主様。私だけは、これからもずっと、あなたを主様とお呼びしますよ」


「……全くだな。お前にそう呼ばれないと、どうにも調子が狂う。さて、アオ」

 ノイマンはカップを置くと、不意に視線を地上の深い霧へと向けた。その五十五歳の渋い瞳が、慈しむように細められる。


「……コーヒーを楽しめる時間は、どうやらここまでだ。あそこの崖の淵……また、行き場をなくした魂が震えている」


「……見つけました、主様。迎えに行ってあげましょう。私たちの船には、まだ空き部屋があります」


 アオの細い指が操舵輪にかかる。

 飛空艇『蒼の翼』は、主の言葉に従い

静かに、しかし力強く、地上の絶望を

拾い上げるためにその舳先を向けた。

プロローグ、いかがでしたか? ノイマンとアオのコーヒーのシーンがお気に入りです。

次は地上での救出劇が始まります!

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