閑話2 神の指先 ――気象兵器「トルネード」の咆哮
開通式の最終日。夕闇が迫る中、エースは王族たちを海を見渡す特設観覧席へと招いた。
「最後の余興は、自然界の熱力学によるダンスです」
エースの合図と共に、10km先の海上で「儀式」が始まった。風魔法の部隊が左右1000メートルの間隔を空け、互いに逆方向の激しい気流を生み出す。その中心部では、100人ずつの火魔法と水魔法の使い手が、海面を熱し、同時に上空を冷やし始めた。
「何が始まるのだ」
「雲が集まっているようだが」
王族たちは余裕の表情で語り合っていた。彼らの常識では、魔法による気象変化など一時的な現象に過ぎない。だが、エースの狙いは「自己増幅する物理現象」の創出だった。
積乱雲がみるみるうちに巨大な壁となって立ち上がり、雷光が空を裂く。
エリザベスが鮮やかな手つきで旗を振った。その瞬間、中心部の加熱・冷却部隊が離脱。左右の風魔法部隊が限界まで出力を高めると、大気の渦は臨界点を超えた。雲の底から、一本の漆黒の「指」が海面へと伸びる。
「竜巻」――。
海水が空へと吸い上げられ、巨大な水の柱が咆哮を上げた。その圧倒的な破壊エネルギーを伴う渦巻きが、突如として観覧席に向かって進み始めた。
「こ、こちらに来るぞ!」
「結界を張れ!」
先ほどまで余裕をかましていた王族たちが、椅子をひっくり返し、恐怖に顔を歪める。
直撃の寸前、エースが計算し尽くしたタイミングで風魔法部隊が移動した。竜巻のベクトルが強制的に修正され、標的として配置されていた巨大な無人の海賊船へと襲いかかる。
ガガガガッ! という絶望的な音と共に、数千トンの巨船がマッチ箱のように粉砕され、破片が空高くへと舞い上がった。竜巻はそのまま無人の海上を駆け抜け、エースが魔力供給を断つと、嘘のように消え去った。
「皆様、世界初の気象兵器によるデモンストレーションを、お楽しみいただけましたでしょうか」
エリザベスが、静まり返った場内に微笑みかけた。
「これは、海上の戦場を一変させる力。イングランドは、空の色さえも支配下に置いたのです」
驚愕に打ち震える者、絶望に顔を伏せる者。
この日、スエズの地に集った全ての支配者は理解した。エース・ランカスターが支配するのは単なる土地ではない。物理法則そのものが、彼の武器なのだと。もはやこの島国の青年に逆らおうとする愚者は、このヨーロッパだけでなく、中東地域にも存在しなかった。




