大洋の書類王 ――無敵艦隊の出撃と宣戦の狼煙
スペイン国王フェリペ2世は、マドリード近郊のエル・エスコリアル宮殿の奥深くに籠もっていた。彼は「書類王」の名の通り、広大な植民地から届く報告書の隅々にまで目を通し、羽ペン一つで世界の運命を操る。しかし、その敬虔すぎるカトリック信仰は、イングランドが進める宗教改革と、エースが主導する「魔導産業革命」を、断じて許容し得ぬ異端の業と見なしていた。
決定的な亀裂は、スペイン領ネーデルランド(オランダ)への秘密援助だった。エースが送り込んだ新型の「自動織機」と、クロムウェルが密かに支援する新教徒の独立運動。これがフェリペ2世の逆鱗に触れた。
「イングランドの『魔導の異端者』に、神の鉄槌を下せ」
慎重王が下した決断は、130隻、砲2500門を誇る人類史上最大の艦隊――「無敵艦隊」の派遣であった。
この夏、水平線を埋め尽くすスペインの巨大戦艦がドーヴァー海峡に現れた。対するイギリス海軍はわずか28隻。数だけを見れば、イングランドの滅亡は確定したかに見えた。
だが、旗艦に座すエース・ランカスターの瞳には、勝利への数式が完成していた。
「船の数は、単なる定数に過ぎない。重要なのは、兵器の質と効率的な配置だ」
スペイン軍の戦術は中世的だった。巨大な船体をぶつけ、兵士が乗り移る「接舷白兵戦」。対してエースが改造を施したイギリス艦隊は、蒸気機関と帆をハイブリッドさせた「高機動型(スクリュー併用)」である。
距離を保ち、スペイン軍の射程外から、ワットが鍛え上げた長射程の「魔導ライフル砲」が火を噴く。無敵艦隊は鈍重な巨体を振り回すばかりで、蝶のように舞うイギリス艦を捉えることすらできなかった。




