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ポスドクは異世界イングランドで無双する  作者: 橋平 礼


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洗礼の儀

ランカスター家の次男、エース・ランカスターが十歳の節目を迎えた。


 この世界の貴族にとって、十歳の『洗礼サクラメント』は人生を決定づける最重要儀式である。教会の聖壇に立ち、神の代弁者である神父の「鑑定」を受けることで、その者が持つ魔力の属性と器が公に記録されるからだ。

ランカスター家の馬車に揺られながら、エースは窓の外を流れる領地の風景を眺めていた。隣には、期待と不安が入り混じった複雑な表情の父ヘンリが座っている。


(……ついにこの日が来てしまったか。ポスドク時代の研究成果発表会よりも胃が痛むな)


 エースは内心で嘆息した。五歳から五年間、彼は徹底して自身の力を隠してきた。生産魔法はレベル15を超え、分子結合のみならず「物質の相転移」すら操れるようになっている。闇魔法も、空間歪曲の実装段階に入っていた。

問題は、神父が行う『鑑定』だ。


 洗礼の瞬間だけは、個人のステータスが神父の魔導書に完全に開示される。ありのままの数値を見せれば、「レベル20越えの十歳児」という異常事態が発覚し、平穏な研究生活は終わりを告げるだろう。父の期待に応えたい気持ちがないわけではないが、今のエースにとって、自由な研究環境を維持することこそが最優先事項だった。


(闇魔法:Lv.8で得られた魔法の応用――『情報隠蔽データ・マスキング』。これで行こう)


 エースは馬車の中で、密かに術式を編み上げた。闇魔法の本質は「吸収」と「遮断」だ。神父が放つ鑑定の魔力を、自分のステータスの「表層」だけで受け流し、真実の情報を闇の深淵に沈める。


 彼が構築したのは、前世のコンピュータ用語で言うところの「仮想サーバー」だ。神父に見せるための偽のステータス画面を魔力で構築し、本物のデータへのアクセス権限を暗号化ロックする。


「エース、緊張しているのか?」


 父ヘンリの声に、エースは我に返った。


「いえ、父上。ただ、自分にどのような役割が与えられるのかを考えていました」


「案ずるな。お前は私の息子だ。たとえどのような結果になろうと……いや、ウィリアムのように、輝かしい四属性の加護があることを信じているぞ」


 父の言葉に宿る微かな震え。エースは知っている。父は、次男である自分に「ランカスターの赤バラ」としての誇りを持ってほしいのだと。しかし、エースが持つのは、その赤バラを「原子レベルで分解」できてしまう、既存の枠組みを超えた力なのだ。


 教会に到着すると、重厚な扉が開かれた。


 聖なる静寂が支配する空間。奥には白装束に身を包んだ神父が、巨大な水晶と魔導書を手に待ち構えていた。


「エース・ランカスター様、前へ」


 エースは一歩ずつ、冷たい石畳を踏みしめる。


 背後で見守る父。そして、影に控えるアンナ。

(さあ、魔導物理学者の本領発揮だ。神の目さえも、論理の力で欺いてみせる)


 神父の手がエースの額に触れる。眩い光が溢れ、神父の持つ魔導書に文字が浮かび上がった。エースは全神経を集中させ、闇魔法の薄い膜を自身の魂の周りに張り巡らせる。


「……ほう、これは」


 神父の声が、沈黙を破った。


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