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どうあがいても悪役令嬢になれません! ~わたくし、完璧な悪事を働いているはずなのに、なぜか聖女と崇められて断罪フラグがへし折られていく件~  作者: 和三盆


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第15話「裁きと策略の真夜中──令嬢、刃を沈める瞬間」

城内の空気は鋭利だった。昼は公の手続きと民衆の噂で矢継ぎ早に動き、夜には密かな駆け引きが回る。女王の安全は確保され、宰相は職務停止。だが黒月の残骸と外部勢力の影は消え去ってはいない。むしろ、露出したことで形を変え、より狡猾に動き始めていた。


セレスティア・ハイラントは朝の評議に出席した後、短い書斎で一人地図に目を落としていた。昨日回収された文書の断片、倉庫で得た上位指令、そしてマルティナの証言――それらを組み合わせるたびに、ひとつの線が浮かび上がる。外部勢力は「混乱を創出」しつつ、城内の“ある層”を利用して国を誘導しようとしていた。だが誰が一番得をするのか。利益の輪郭はまだぼやけている。


「お嬢様、殿下があなたをお呼びです」ルシアが静かに扉を開けた。包帯の袖はまだあるが、顔に浮かぶ決意は以前より固い。セレスティアは顔を上げ、深く息を吐く。


「行きましょう」彼女は短く答え、王太子の執務室へ向かった。


執務室にはアレクシス、そしてサミュエル、王の側近数名が控えていた。窓の外では城の旗がゆっくりと翻る。アレクシスは沈んだ顔で資料を並べ、テーブルの上に一枚の地図を広げた。


「夜行動の情報が入った。黒月の残党が、今夜――王都南東の古道を使って小規模な武装隊を移動させる可能性が高い。目的は、民衆の不安を増幅させるための小さな事件の連鎖だという報告だ」

「仕留めさえすれば、彼らの士気は大きく削がれる」とサミュエルが続ける。だがアレクシスは首を振った。「それだけでは終わらない。誰かが、わざと小競り合いを起こさせて評判を左右し、別の動きを隠す可能性がある。セレスティア、君の考えは?」


セレスティアは指で地図の一点を指した。「私が出ます。表で旗を掲げながら、裏で細工を潰す。民と近しい立場に立つことが、今は何よりの武器です」

アレクシスは彼女の目をじっと見て、静かに頷く。「君が望む“断罪”の行き先はまだ定かでない。だが今は民の不安を抑えることが先だ。君が前に出るなら、我々は君を守る」


夜。月は低く垂れ、古道の周縁に薄い霧が漂う。セレスティアは薄手の外套に身を包み、民の仮装をした一隊に紛れて進んだ。背後には数名の王宮護衛とルシア、サミュエルが控える。目標は、古道の分岐にある小さな集落——そこで予定される“事件”を未然に食い止めることだ。


集落に着くと、思ったより多くの灯りがある。黒月の使いの一派が、地元の小商人を脅して“混乱の火種”を準備しているのだ。木の囲いの影に潜んで観察すると、交渉の声が聞こえた。だが交渉の最中、嬉しくない顔ぶれも混じっている。――そこに、数名の貴族の付人がいるのをセレスティアは見逃さなかった。服装は粗末だが、所作に無自覚な優雅さが残る。彼らは明らかに“外から来た使い”だ。


「やはり、ただの海賊ではない」セレスティアは小声で呟く。彼女はゆっくりと胸元の隠し鈴を鳴らす合図で、一斉に動き出す。護衛が影から現れ、斥候を制圧する間に、セレスティアは真ん中に出て彼らの前に立った。


「やめなさい。ここで血を流す理由はない」彼女の声は低く、どこか懐かしい威厳を含んでいた。地元の商人たちの目が彼女に向く。顔には疲労と希望が混在している。黒月側の男が嘲笑うように出てきて、支払いを要求するが、その瞬間、向こうにいた一人が狼狽する。彼の袖にチラリと見えた紋章が、城内のある名家の紋と一致していたのだ。


セレスティアの心に冷たいものが走る。「誰が民を餌にするのか」――問いはもう、個人的な怒りだった。彼女は静かに指を動かし、捕縛の合図を送る。福音のように護衛が飛び出し、黒月と取り巻きの一部を押さえつける。だが、同時に遠くから䛾サイレンが聞こえ、別の方向で小競り合いが始まった。敵は注意を逸らすために小さな事件を創り出している。まさにアレクシスの予測どおりだ。


その混乱の中、セレスティアはある人物と正面衝突する。薄暗がりで帽子を深く被った影——顔を上げたその瞬間、彼女は息を呑んだ。――そこに立っていたのは、誰もが一時は信頼したはずの、ある貴族の青年だった。彼の瞳は乱れていたが、決して悪人ではない。だがその手には、これまで見たことのない文書の束が握られている。


「どうしてあなたが……?」セレスティアは問い詰める。彼は乱れた息を整え、弱々しく笑った。「私は、ただ用意された役を演じていただけだ。借金があり、脅されて……だが、彼らはもう手を出し始めた。私も逃げ場をなくしていた」彼は震える手で文書を差し出す。その紙面には、上位指令の一部と、宛先に“王宮内部”を示す暗号が記されていた。


「あなたが証言すれば、どれほどの者が明かされる?」セレスティアは鋭く尋ねる。彼は目を伏せ、「多くは、思ったより近い」とだけ言った。


その時、背後で金属の擦れる音がした。黒月の一団が再編を始めていた。退路を断たれたと判断した彼らは、傍観者を盾にして脱出を試みる。戦いは激しく、火薬の匂いが夜を裂く。ルシアが前に出て、傷をものともせずに敵を押し留める。セレスティアは一瞬、彼女の手首を掴み、強く呼びかけた。


「ルシア、私の命令を聞いてくれ! これをここで公開するつもりはない。まずは証拠を確保し、真相を隠さずに王に渡す。民の目を守るため――今は控えて!」


ルシアの目に光るものがあったが、頷いた。二人は共同で文書を回収し、護衛が群衆を抑える。混乱の最中、サミュエルは近くに突入してきた黒月の幹部を捕らえた。取り調べの結果、彼は口を割る寸前であったが、最後の一言で誰を守るべきかを呟いた。


「――上からの命だ。あの名を出すな、あの名を。王宮の周りにいる者たちの名前だ」


セレスティアはその言葉を胸に収めた。彼女の中でピンと一本の糸が張られる。城内に“傀儡”がいる——だがそれは単なる一人の悪人ではない。家名、財力、そして民の信頼を盾にする者たちだ。断罪は誰か一人では終わらない。裁きは広く、深くなる。


夜が明ける前、彼らは捕らえた文書と証人を連れて王都へ戻った。王太子は彼らに深い感謝を示すと同時に、静かに命じた。「これらの内容はまず我々で検証する。だが公開前に、慎重に扱う。国を守るためだ」セレスティアはその言葉を聞き、自分の胸の中で何かが折れるのを感じた。正義と安寧の狭間で、彼女はいつも選択を迫られる。


執務室を出たあと、アレクシスがそっと彼女の手を取った。「君は、よくやった。だが、忘れるな。真実を晒すことは、多くを傷つける可能性がある。君が望む断罪は、その後に来るものだ。私は君と共にある」


セレスティアは小さく笑ったが、その瞳は凍っていた。「断罪は来る。私はそれを自らの手で決める。その時が来たら、私の望みを聞いてほしい」アレクシスは力強く頷いた。


だが城の薄闇の中、リュシアンは一人静かに微笑んでいた。彼は遠くから戻った報告を受け取り、小さな紙を燃やすように撫でる。彼の計画は、まだひとつの局面を越えたに過ぎない。セレスティアがどれほど強くあろうとも――舞台の監督は未だその影にいる。


セレスティアは夜風に当たりながら誓った。――誰が何を隠していようとも、彼女は裁きを自らの尺度で下す。断罪が来る日には、彼女が望んだ「美しい破滅」ではなく、「真実に基づく決断」を望むのだと。


夜明けの光が城壁を白く染める頃、王都はまた一歩、次の嵐に向かって歩みを進めていた。セレスティアの心には、怒りと慈しみと決意が混じり合う。彼女の求めた“悪役”という仮面は、もはや単純な仮装ではなかった。責任と選択が、その中に刻まれていく――そして物語は、さらに深い歯車を回し始めるのだった。

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