第十六話
照れるアディにも構わず。サラは話し続ける。
「あの時。石を投げられても、貴女は誰も恨まなかった。やるべきと信じたことを進んでやった。それが、私には信じられなかった。こんな人がいるなんて。今まで、考えたこともなかった」
「そう、ですの? けれど、わたくしは冒険者。そして盾持ちですわ。守るべき者を守る。本来やるべきことをやっただけですわ」
アディは、自分の行いは当然のことだと。自然に、気負うこともなく言ってみせる。
「――それが、すごい。私でも、そこまで出来ない。だから――私は、決めた」
意を決した様子で、サラは言う。
「アディ様。私は、貴女のしもべとなります」
そして――宣言すると。すっ、と席を立ち、そのまま跪いて頭を垂れた。
「えっ、ちょっと? サラさん?」
困惑するアディ。何やらおかしい流れになってきた。
アディは、サラと友達になりたいと思ったのだ。決してしもべを、手下を求めていたわけじゃない。
「貴女のような人だからこそ。きっと、多くの人を救うと思います。でも、傷つくこともあるはずです。……今日みたいに。私は、そんな貴女を守りたい。沢山の人たちを守る、貴女だけの盾に。そうすれば――きっと、貴女なら。私のような人を沢山守ってくれるから」
真剣な様子で語るサラ。だが、アディはついていけない。
どうしてこうなったのかしら? と、困惑するばかりで何も言えない。
「……アディ様。認めて、くれませんか」
ちらり、と顔を上げたサラの表情は。今にも泣きそうな顔だった。
そんな顔をされてしまえば。アディに、断ることは出来なかった。
「うっ。……分かりました。そこまで言うのでしたら」
「ありがとうございます。アディ様」
「でも、その。しもべというのはちょっと。出来れば友達とか、仲間とかそういう感じがわたくしは良いのですわ」
と、アディが願望を要求すると。またサラは泣きそうな顔になる。
「……駄目、ですか? しもべ」
「いえ、駄目というわけでは」
「ありがとうございます」
「くぅ……こんなことで悩むことになるとは、思ってもみませんでしたわ」
諦めるアディ。項垂れ、嘆きを漏らす。
けれど、何にせよ。サラと親密な仲になれたのは間違いないのだ。
サフィラやクララと同様に。これからも一緒に、冒険者として頑張っていける。それは、アディにとって喜ばしいことであった。
「ですが、サラさん。せめて口調だけは戻して欲しいですわ。もっと友達みたいに。砕けた口調でお願いしますわ」
「分かりまし……分かった。アディ様」
「様もいりませんけれど――ああっ! 泣きそうにならないで下さいな、もうっ!」
何を基準に悲しんでいるのか。アディには判断が付けづらかった。が、とりあえず妥協点は見つかった。
貴族同士であれば。友人であっても、様付けで呼び合うことは少なくない。そう考えれば、サラの口調はアディに妥協できる範疇であった。
――こうして。無事、アディが初めてリーダーを務めた依頼は終了するのであった。
なお後日。サラは正式に、アディの紹介でレイヴンアロー家にて雇われることとなる。
名目上、付添、護衛も務める使用人である以上は。サラもメイドとしての仕事を覚える羽目になり。
クララや、他の屋敷のメイドたちからあれこれ言われて苦労することになるのだが。それはまた、別の話である。
今回で、第三章は終了となります。
次回から第四章が始まりますが、まだ纏まった量が書き上がっていません。
ある程度書き溜まったら、また毎日投稿を始めようと思っておりますので、気長にお待ち下さい。
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