第七話
アディとクララが、声のした方へと振り向く。
そこには、青髪のショートヘアの少女が立っていた。
「……まずアンタっ!」
「はいっ!?」
少女に指差され、クララは声を上げる。
「受付さんに文句を言うなんて、何様よっ!」
「それは……すみませんでした」
「ギルドの職員はね、一生懸命アタシたち冒険者の為になれるよう、仕事をしてるんだから。評価制度だって、それがあるお陰で実力不足な冒険者に変な仕事を割り振らなくて良くなってる。それで死なずに済んだ人だって大勢いるの。文句を言うなら、まずは勉強してから言いなさいよねっ!!」
「はい……本当に申し訳ないです」
しょぼん、とするクララ。本心から反省しているし、少女の言葉は正論だ。なので反論の言葉など出てくるはずも無かった。
「それと、そっちの人っ!」
「あら、わたくし?」
「そうよ!」
クララに続き、指差されるアディ。
「見るからに貴族のお遊びって感じの格好だけど、ふざけないでよね! 冒険者ってのは、命をかけるようなこともある大変な仕事なのよっ! 遊び感覚で混じって来られたら、こっちが迷惑だわ!」
「あら。どうしてわたくしが貴族だと?」
「そんなの見れば分かるでしょっ!」
言われて、アディは自分の装備を見る。どこも変な部分は無い。完璧に、盾持ちの冒険者といった風貌だ。
けれど、少女は次々に指摘する。
「まず言葉遣い! そんな丁寧な平民なんかいない!」
「まあっ!」
盲点でしたわ。と、今更ながら反省するアディ。少女の指摘はまだまだ続く。
「それと、その装備も! 盾はどこぞの中古品かしらないけど、他の装備は新品みたいにピッカピカじゃない。一度も使ったことのないような、しかも立派な装備なんて。準備するのはお遊びの貴族ぐらいなものよっ!」
「あら、そうでしたの」
言われて。改めて、アディは装備を見直す。
盾も含めて、装備一式全てが日頃の訓練で使っているものである。けれど、実際に使い込むのは盾ばかり。鋼鉄杭と何度もぶつけて、傷が付いている。
反対に、鎧や靴、アンダーウェア。他の装備一式全て、新品のように綺麗なまま。練習で傷がつくようなことは無いし。脱いだ後は、使用人が綺麗に磨いて手入れしてくれる。
だから、まるで新品同然のような状態なのだ。
確かに、この装備なら。新品を昨日今日にでも買い揃えたように見えてもおかしくは無かった。
けれど、実際は違う。ここ二年間、ずっと一緒にやってきた装備。愛着もしっかりある。
そして――何よりも。
「ですが、残念ですけれど違いますわ。わたくし、遊びではありませんの」
本気で、冒険者になりに来たのである。
「ふん、どうだか。どうせ偉大な冒険者の物語でも読んで、憧れてるだけでしょ? たまーに居るのよ、そういうの」
残念なことに、少女の誤解は解けない。
「でも、勘違いしないで欲しいのよね。冒険者っていうのは華々しくなんかない。毎日、来る日も来る日も魔物と戦い続ける。強い魔物は、どんな卑怯な手段でも使って倒す。そうやって、泥臭く戦うのが冒険者よ。自分の栄誉の為じゃない。街で生活する人たち、みんなの為に戦うの!」
そして、ビシッ、と。少女はまた、アディを指差した。
「どうせ、そんなことも理解できてないんでしょうけどね! そんなアンタに、思い知らせてあげるわッ!」
「まあ。何をでしょう?」
「冒険者の、厳しさってやつを!」
もしかして――と、考えるアディ。
これって、決闘かしら。だったらわたくし、随分と決闘に縁がありますのね。
なんて、呑気に考えているのであった。




