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第11話 完璧

~常盤わかばside~


私は中学時代から日本文化の衰退を危惧し、高校入学と同時にオーディションを受け、アイドルを通じてその伝統的文化の人口を増やし、もう一度日本人に触れてほしいと思った。


日本文化を学べる平安館女学校を受験し、さらに月光花プロジェクトにも合格し、勉学にも打ち込んで事は計画通りに進んでいた。


ただ…私にはある欠点があり、その月光花で合宿する事になり、憂鬱な日が2泊3日も続く。


「これから月光花がプロに負けない輝きを得るために、そなたたちにはある場所で合宿に行ってもらう。(それがし)の友が運営している場所だ。」


「どんな所なんですか?」


「ふむ、某の友は相撲部屋の親方をしている。その親方が3月大阪場所も終えて関西にはしばらく来ないから大阪の難波にある空いた相撲部屋を使ってくれと申請が来たのだ。そこでそなたたちに共同生活をしてもらい、それぞれの個性を知ってもらうのだ。某は殿方だからそなたたちと同じ部屋で過ごすわけにはいかぬ。そこで…某の妻であるお千代に同行してもらう。お千代もまた指導が厳しい、くれぐれも粗相のないようにな。」


「はい!」


「場所は難波駅から徒歩10分にある木造の民宿みたいなところだ。行き先の地図はお千代に渡してある。某がいなくても、しっかり大和撫子に恥じぬよう、精進するのだぞ。」


「はい!」


2泊3日の難波地区でのが合宿で、花柳先生のご友人である相撲部屋の親方さんのご厚意で泊まる事になる。


稽古場である土俵には入れないけれど、地下室にあるトレーニング室は防音で、そこでダンスやボーカルの稽古をする。


しかし問題はそこではないの…。


合宿当日、私たちは難波駅に集まり、花柳千代先生が合流するのを待つ。


全員30分前行動を心掛けていて、日向さんは春日さんを巻き込んで少しギリギリで到着した。


「日向さん、少し遅かったわね。春日さんも…」


「すみません常盤先輩!ひまわりちゃんがなかなか起きないから…」


「うう…ごめん…。」


「春日さんも苦労するわね…。日向さんはもう少しアイドルの自覚を持つべきよ。遅刻したら私たちにまで及ぶんだから。」


「すみませんでした!」


「わかば、もうよいではないか。ギリギリとはいえ、30分前には間に合った事だ。今はお千代先生を待つのがいい。」


「でもね…」


「そうでございますね。お千代先生はどのような方なのでございましょうか?」


「紺野先輩まで…。もう、これからは気をつけるのよ。春日さんも最悪の場合、置いていっていいからね?」


「は、はい…。」


「はなー!置いていかないでー!」


「しかし花柳先生から結構厳しい方だと聞きました。花柳先生も殺陣や舞踊には厳しい方ですが、どんな方なのでしょうね。」


「お待たせしました。私が花柳小次郎の妻の、花柳千代です。お千代先生と呼んでくださいね。」


「おはようございます!お千代先生!」


「うふふ、元気な子たちが多いですね。では早速稽古場に参りましょう。」


「はい!」


お千代先生は着物姿で合流し、私たちを稽古場へと案内する。


稽古場まで少し歩くけれど、まだ無名なのか人目を気にする事も迷う事もなくスムーズに移動が出来た。


稽古場に到着し、早速稽古が始まった。


お千代先生は歌唱稽古中心で、発声の理論や日本音階の座学、そして浪曲や演歌、民謡などの技術を指導した。


夕食の時間になり、私が料理担当になってしまった…。


「今日は肉じゃがね。えっと…この調味料だと…あれ…?」


「どうしました?」


「藤野さん…その…ガスの付け方ってどうだったかしら?」


「ああ、そういえば現在は誰もいないからガスが閉まっていましたね。ということは料理は苦手ですか?」


「ええ…。料理すると調味料を他の似たものと間違えたり、野菜や肉を切る時に大きさを間違えたり、最悪の場合ガスの付け方を間違えて何度かガス漏れを起こしたこともあったわ。それに…マニュアル通りにしても味が極端すぎたりするのよ…。メガネが曇って見えないのもあるけれど、コンタクトレンズを目に入れるのが怖くて…。」


「なるほど…。私も決して料理が得意ではないんです。何だかすみません…。あ、冬野先輩は確か料理が得意でしたから呼んでみますね。」


……


「ふむ、常盤は料理が苦手だったか。他のクラスの子から聞いたが、家庭科の調理実習の時はいつも皿洗いばかりだったらしいな。」


「ええ、料理の加減がわからなくて、マニュアル通りにしても結局その人のやり方次第で変わって、計画通りにいかないの。お菓子ならマニュアル通りにすれば出来るからまだ作れるけれど、アレンジの利くアドリブ要素のある料理は苦手なの。」


「なら一度味見を軽めにするのも手だ。常盤は味見をした事があるか?」


「言われてみればないかもしれないわね…。冬野さん、料理を教えてくれるかしら?」


「もちろんだ。常盤が料理苦手だと知らずに当番を決めてすまなかった。藤野、すまないが夕食は少し遅れると皆に伝えてくれ。」


「わかりました。」


こうして冬野さんの協力で料理を教わり、味見をすることを覚えてから味が偏る事はなくなった。


包丁で切る時のサイズ感はまだぎこちないけれど、今までと比べると少しだけ形になってきたかなって思った。


こうして肉じゃがは完成し、みんなからは少し味が濃い、具の大小がバラバラ、出汁があまり染みてないなど言われたけれど、少しだけ進歩はしたかしら。


~難波駅~


「やっぱり外国人は嫌いだわ…。日本のルールやマナーを分かってねぇぜ…。マジで出て行ってくれねぇかな…!」


「へぇ…真面目な印象なのに、心の中でそう思っていたのね。それじゃあその価値観が合わない人間を滅ぼしちゃいなさい♪」


「うぐっ…!うわぁぁぁぁぁぁっ!」


~稽古場~


「この魔力…!?」


「まさかザイマは大阪にも及んだのかい?」


「あっちの方だよ!行こう!」


「はい!」


「ごちそうさま!とにかく急ごう!」


「え…何が起きたでございますか…?」


「とにかく私たちも行きましょう!あの人妖神社の大炎上が関わっているかもしれないわ!」


私は最近みんなが私の計画通りに行動しない事を薄々疑問に思い、どうして急に稽古を中止してでも外に走るのかを知りたかった。


私は曇ったメガネを拭き、みんなの後ろについていった。


すると落ち武者のような化け物が甲冑を着ていて、鎖鎌で鎖をブンブン振り回して外国人を手当たり次第に襲っていた。


「Nooooooooooo!」


「Help meeeeeeeeeee!」


「何…あれ…!?」


「ガイジン…ジャマダ…!二ホンノ…ルール…ヤブル…!ココカラデテイケ…!」


「これは相当な曲者だぞ…!」


「随分自分のルールの強い人が利用されたんだね…!」


「みんな!変化しよう!」


「はい!」


「闇に潜む黒き影よ…我に力を与えよ!妖魔変化!」


春日さんや日向さん、紅葉さん、冬野さん、そして藤野さんは懐から篠笛を取り出して怪しく吹き、戦うための和装に突然変身した。


手にはそれぞれ武器を持っていて、化け物に応戦をする。


しかし化け物の執念はより強く現れ、鎖鎌を力任せに振り回して足のバランスを崩した。


「痛っ!」


「ひまわり先輩!」


「これじゃあ近づけいないな…!」


「私に任せて!狙いを定めて…当たれっ!」


「ヌウンッ!」


「えっ…!?」


「オソイ…コノテイドナノカ…!クラエ!」


「きゃぁぁぁぁぁっ!」


「皆さん!ああ…わたくしはどうすればよいでございましょう…!」


「落ち着いて…何かあの化け物に何があったかよく考えるのよ…!」


「ガイジン…スグシゴトサボル…!イウコト…キカナイ…!ガイジンダカラッテ…ニホンノルールムシスル…!コノママデハ…ルールガ…コワレル…!ハンザイシャナガイジンヲ…ハイジョ…ハイジョ…!」


「なるほど…あの人、外国人による日本のルールを守らない態度、日本人が建前ばかりなのをいい事に横暴に振る舞うのが許せないのね…。」


「常盤さん…?」


「待って!あなた…きっと会社でも優秀な人材なのね?」


「ナンダ…キサマ…!ガイジンノテサキカ…?」


「いいえ、私は常盤わかば。盆栽と日本文学が大好きなただの女の子よ。確かに外国人が増えたことで、日本のルールを違反したり、外国人なのをいい事に好き放題することもあるわ。でも…それって全員がそうかしら?それに日本の文化はその程度で消えるほどヤワな文明だったかしら?私も最初の頃はそれを危惧していたわ。でも…それだけじゃダメって気付いたの。外国には外国の、日本には日本の価値観があり、それぞれ違た魅力と欠点があるけれど、日本の歴史を見れば、外国の文化を取り入れ、独自のものを作ったじゃない!あなたも柔軟に対応すれば…新しい可能性が生まれるのよ!そんな可能を…簡単に捨てないで!」


私が覚悟を決めると、体中から黒い霧が発生し、胸から篠笛が出てきた。


みんなと同じ篠笛で、きっと私に守るべきもののために戦えと言っているようだった。


私はみんなの変身方法を思い出し、呪文を唱えた。


「闇に潜む黒き影よ…我に力を与えよ!妖魔変化!」


篠笛を怪しく吹くと、制服だった服が若草色の着物に、黒い行灯袴(あんどんばかま)となり、両手には種子島式の火縄銃が装備され、いつものフレームの薄いメガネは、煙で曇らないレンズになり、フレームも衝撃吸収のために太くなった。


「常盤に舞い誇ることワカバのごとく!常盤わかば!古い日本人の柔軟性を…あなたにも教えてあげるわ!」


つづく!

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