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第9話 イップス

~冬野つばきside~


~回想~


「つばき!頑張れー!」


「ここ勝てば決勝だよー!」


「始めっ!」


「やぁぁぁぁっ!」


「くっ…!冬野つばき…強い!」


「脛っ!面っ!」


「それに素早い…!これが…高校全国に出た冬野つつじの妹…!こうなったら…!」


「これで決める…!はぁぁぁぁっ!」


「小手っ!」


「うっ…!」


「あ…!」


「冬野さん…!?」


「まずい!早く医務室へ!」


~現在~


私は全国中学なぎなた大会の準決勝で、相手の不可抗力により右手首を負傷し、全治1ヵ月のケガをしてしまった。


そこから公立中学だったので受験に集中し、顧問の先生の推薦で平安館女学校に入学し、なぎなたを続けるつもりだった。


ところが…私はあのケガ以降、なぎなたをしようとすると手首に痺れが起き、体中が恐怖で震えてしまった。


それ以降は推薦されたにもかかわらず入部後すぐに退部し、これからどうすればいいのか悩んだ時期もあった。


だが声優デビューした大学生の姉が月光花プロジェクトを薦め、今に至るわけだ。


そして今は…


「よし、今日はここまでだ。皆の衆、(それがし)の稽古はさぞ厳しいであろう。たまには息抜きして気持ちを入れ替えるといい。」


「はい!」


「だが冬野さん、そなただけはどうも休みはなさそうだ。そなたの母校からオファーが来たのだ。」


「むっ?かつての学び舎からですか?」


「そうだ。何でもなぎなたの顧問の先生が盲腸で入院し、指導者がいない状態らしい。そこで全国出場のきっかけになったそなたに指導をしてもらおうということだろう。」


「わかりました。ぜひ京都市立下鴨中学校へ(おもむ)きます。」


「あの…私もいいですか?」


「藤野さんか、冬野さんは何て言うかな?」


「私は構わないぞ。もし私に何かあれば連絡がつくだろう。」


「ありがとうございます。」


下鴨中学校…かつて私が中学3年間を過ごし、なぎなたに青春を捧げた母校だ。


私に何かあった時のために藤野にも同行してもらい、明後日の母校に備えてゆっくりと休みを取った。


そして当日が訪れ、私は下鴨中学校の校門を通る。


「あ!冬野先輩だ!おはようございます!」


「うむ、おはよう。それで…源先生の容体は?」


「麻酔が効いているのかぐっすり眠っています。それから…急遽学校の勝手な都合で指導者が冬野先輩以外にもいるんです。」


「ほう、その先生の名は?」


「えっと…鬼瓦力(おにがわらりき)先生です。」


「ああ…これはマズいかもしれないな…。」


「えっ…?冬野さん、そんなに怖い先生なんですか?」


「ああ、鬼瓦先生はなぎなた経験者で、源先生から顧問の座を奪おうとしているんだ。しかも気に入らない生徒にはすぐに暴言を吐くし、最悪の場合は手を出す事もしばしばだ。だが学校は鬼瓦先生を処分できなくてね。何せ古い価値観しかない校長が買いかぶっているんだ。」


「なるほど…君たちも苦労しているみたいだね。」


「はい…そうなんです…。(カッコいいなぁ…冬野先輩の恋人さんかなぁ…?)」


「…?」


「ふふっ、お前は相変わらず男子に間違われるようだな。」


「冬野先輩、からかわないでくださいよ。」


「えっ…?女の子…!?」


「藤野すみれです。」


「すみませんでした!えっと…私は現・下鴨中学校なぎなた部部長の寺沢友希菜です!」


「それよりもう部活の時間だろう?早速武道稽古場に連れてってくれないか?」


「あ、はい!」


寺沢の案内で武道稽古場に突き、早速鬼瓦先生による理不尽な指導が目に見える。


まずは一列に並ばせて大声で挨拶させ、出来なかった子たちはすぐにペットボトルで頭を叩かれていた。


私でさえ理不尽に叩かれ、何度も罵声を浴びてきたのだから、後輩たちが怯えるのも無理はなかった。


「おい!換気扇くらいつけろ!そんな事も出来ねぇのか!これだから今のガキは!」


「すみませんでした…!」


「もういい!さっさとやれ!」


「はい…!」


「おい!何だその遅い動きは!やる気がないならもう帰れ!邪魔だ!」


「あの…私は生理…」


「言い訳すんな!女だからって軟弱になるな!テメェも何でそこで面を打たねぇんだよ!男のクセにビクビクしてんじゃねぇ!」


「えっと…胴が空いてたからそこかって…」


「あ?俺に逆らうのか?ぶっ飛ばすぞクソガキ!」


「ひぃっ…!」


「なるほど…これは酷いですね…。」


「あの恐怖政治で生徒を何人も不登校に追い込んだが、校長は責任逃れのためにずっと放任しているんだ。源先生が稽古こそ厳しいが言葉が優しく、生徒たちの要望で顧問になり上がった若い先生なんだ。だから古参で先輩である自分が顧問を下ろされたのが許せないのだろう。そしてその源先生がいなくなり、もう一度私物化して支配するのだろうな。」


「そうですか…。」


「おい、何だその態度は…?」


「もうこれ以上は危険です!このままだと熱中症で…」


「そんな甘ったれたことを言うな!その程度の稽古も耐えられないなら辞めちまえ!」


「失礼します!あなたは先程から何がご不満なのでしょうか?あまり暴力や暴言で支配すると、この子たちは自分たちで判断する事をやめる指示待ちになると思います。」


「何だと…?よそ者のクセに俺に口出しするのか?頑固者の冬野も気に入らなかったが、テメェも客人のクセに生意気だな!」


「ほう、力任せの支配とはな!俺様好みの罪魔を感じるぜ!さてと…その自己中な心を解き放ち、人間を醜い生き物と見せつけろ!」


「うぐっ…!うおおおおおおおおおおっ!」


「何だ…この禍々しい気は…!」


「マズい…!冬野先輩!この子たちを早く安全な場所へ!この男…罪魔の力に支配されています!」


「何…!?ではあの人妖神社の大炎上と何か関係があるのか?」


「はい、その大炎上の原因になった一族が、人間の自己中心的な心を利用して破壊と混乱の世界を創るってはなが言ってました!」


「そういうことか…!みんな!早く体育館に避難するんだ!私は最後についていくぞ!」


「キニイラナイ…ガキハナマイキダカラ…オレガコンジョウヲ…タタキナオス…!」


「そうですか…君はどうやら生徒が大嫌いみたいですね。仕方ないな…闇に潜む黒き影よ…我に力を与えよ!妖魔変化!」


藤野が懐から篠笛を怪しく吹き、いつもの服装が違う服へと変わり、手には(じょう)が持たれていた。


藤野は勇敢に甲冑を着た黒鬼に向かって戦い、杖を自由自在に操って攻撃を仕掛けた。


ところが…


「ヨソモノ…デテイケ…!オレノ…ルールハ…オレガキメル!」


「くっ…!どうして君は…そんなに理不尽に指導するんだい…!?」


「ダマレ…イマノガキニ…アノトキノキョウイクデ…セカイイチノガッコウニ…スルノダ!」


「うわぁっ!」


「藤野!くっ…私も力になりたいが…!」


私は藤野を援護するために落ちていたなぎなたを拾おうとした。


ところが手に取った瞬間に痺れと痛み、そして震えが止まらなくなり、気が付けば頭痛と吐き気を起こしてしまった。


やはり私にはもう…武士としての誇りを失ってしまったのか…?


その時だった、部長である寺沢が窓越しに私に声をかけた。


「逃げてください!いくらカッコよくて強い冬野先輩でも、あの魔物には勝てません!」


「寺沢…!?」


「さっきの子…!」


「ふっ…後輩に情けない姿を見られてしまったな…。」


「でも…あの時の強い先輩を見て、今まで部長になるのを躊躇ってた私を…自分の実力だけに集中したかった私を変えてくださったのは…ケガをしても決勝まで臨んだ先輩の勇姿があったからなんです!だから…冬野先輩!もうケガを悪化させないためにも逃げてください!」


「寺沢…!残念だがそのお願いは聞けないな…。今ここで戦っているのは…私がなぎなたをやめ、行き場を失ってしまった私を受け入れてくれた大切な仲間だ。そんな仲間が戦っているのに、私一人で薄情に逃げるわけにはいかないんだ!恐怖が何だ…痛みが何だ…!この痛み…お前たちへの理不尽な暴力と比べたらまだマシじゃないか!もう一度私は…ケガとトラウマを乗り越えて、イップスを克服し、もう一度なぎなたをするんだ!」


「グオオッ!?」


「冬野先輩…!?」


不思議な事に、私の体から黒い霧が発生し、胸から篠笛が召喚された。


この篠笛は藤野と同じもので、あの呪文と演奏をすれば私も藤野のように戦えると確信した。


私は藤野の真似をするように変身の呪文を唱えた。


「闇に潜む黒き影よ…我に力を与えよ!妖魔変化!」


怪しく吹くと、私の衣装は黒い道着姿に臙脂色(えんじいろ)の馬乗り袴に変身し、両手には武蔵丸弁慶をイメージさせる薙刀が装備された。


「雪原に咲き誇ることツバキのごとく!冬野つばき!貴様の古い価値観と性根、ここで叩き直してやる!」


つづく!

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