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003 魔法学園です。

3話目です。楽しんでいただければと思います。

 さて、アレの殲滅をソフィアと共に誓って、早ひと月が経ち、わたしことオディール=オウルとお父様ことロッドバルト=オウルは、カルトエルム王都魔法学園の学園長室のソファに座り、白髪頭で白い顎鬚を生やしたお爺さまと向かい合って座っています。


「久しいのぅ、ロッドバルト。お前が王都を去って以来か」


「はい、クリスフォード先生。もう14年もご無沙汰してしまい、申し訳ありませんでした」


 お父様は、向かいに座っているお爺さまに座ったまま、深く頭をさげています。


「なに、あの状況であれば、お主が生き伸びただけでも僥倖じゃ」


「ありがとうございます。ですが、先生には見つかってしまったのですが」


「それこそ、お主がこの国に家を持ったからじゃよ。しかもロッドバルトの名前での。あれでは、見つけてくれと言っているもんじゃ」


「もう忘れ去られているものと思っていましたが、先生には敵いません」


 この部屋に入ってからのお父様は、恐縮してばかりで、わたしとしてはあまり嬉しくありません。


「さてと、それでロッドバルトよ。この娘が?」


「はい、僕の娘のオディールです。4ヶ月前に誕生したばかりの魔法機工人形です」


「なるほどのぉ」


 クリフォード先生とお父様に呼ばれたお爺さまは、わたしを顎鬚を撫でながら興味深げに“観察”しいます。そうです、見ているのではなく、“観察”してきています。何故わかるかですか。だって、ひょろっとした見姿をされていますが、その眼光はギラギラとわたしに居心地の悪い気持ちにさせます。


<検索


 観察…物事の様相をありのままにくわしく見極め、そこにある様々な事情を知ること。


 補足:クリスフォード学園長は創造主ロッドバルト=オウルの技術を見極めようとしてるもよう


 次の対応を推奨>


 ソフィアの説明が終わると、黒い生地で作られた“振袖”だとお父様が教えてくださった袖の下の部分が以上に長く、裾が膝上と短い服を着たわたしは(おもむろ)に立ち上がりましす。


「お初にお目にかかります。ロッドバルト=オウルが娘、オディールと申します。以後ご鞭撻の程、よろしくお願い致します」


 そして、お爺さまと目を合わせてから、長い袖をそれぞれの太ももに互いの手で押さえるようにして頭を前に倒し、お辞儀をします。


「…オディール」


「ふぉふぉふぉ、これはお主の家の礼法だったか。ふむ、非礼を詫びよう。ようこそ、カルトエルム王都魔法学園へ。オディール嬢」


 もちろん、ソフィアのバックアップがあってこその対応だけれども…これでわたし、ひいてはお父様の技術が疑われることはないはずです。わたしは、お爺さま…いえ、クリスフォード学園長に微笑みを返し、何か言いたげなお父様の横に再び腰を落とします。


「さてと、ロッドバルトよ。ここに来たということは、教授の件は了承と取ってよいのかの」


「はい。これから宜しくお願い致します」


 クリスフォード学園長が、改めてお父様に確認を取る様に話しかけます。


「まあ、あやつらは、お主の相手などしておれんじゃろうからのぅ。城の方では、王国派だの帝国派だのと言って騒いでおるわい」


 学園長は、それは面白くなさそうに話しています。


「では、帝国が第二王女への婚約を申し出たというのは、本当だったんですね」


「ほう、あんな辺境にもこの話は伝わっておるのか」


 そう言いながら学園長は、目を細めてお父様を見ています。


「風の噂程度には、流れて来m


 「たわけ、あんな辺境にそんな噂が流れるどころか、流す輩もおらんじゃろうて」


うっ」


 学園長の目は、何かお父様の外観を見るのではなく、内面を覗き込んでいるような、ゾクゾクとした感じがします。


「まあ良い。あの方が亡くなられて、早七年の月日が過ぎ、また王国が騒がしくなると、お主がここに戻ってきた。これも運命と云うものよ」


「先生、それはどういったことでしょうか」


 不思議そうに聞き返すお父様を、悪戯が成功したような悪い笑みを浮かべる学園長が、とても悪い人に見えます。


「なに、我が国の第二王女であられるオデット様と帝国の第一皇子であられるジークフリート様が、この度、我が学園に入学されるのだよ」


「え?」


 お父様の表情が突如として無くなります。


「何じゃその顔は、もしや姫が帝国の学校へ留学という情報をそのまま鵜呑みにしたのか?」


 今にも笑い出しそうな学園長は、更に口を開きます。


「ふぉふぉふぉ、さすがは王直属の草たちじゃわ」


 それを聞いたお父様の顔が豹変し、突然立ち上がります。


「フリッドォォォォォォォおおお!」


 そして、男性の名前を絶叫するお父様に反応できずにいるわたしとお腹を抱えて笑うことをやめようとしない学園長という、何とも言えない状況となっています。


<検索


 帝国…アルトエルム帝国

    カルトエルムが帰属している帝国であり、中央大陸の南部から南大陸の東部を勢力に持つ猿人族(リンク)の国


 王、フリッド…フリードリッヒ=アント=カルトエルム カルトエルム王国の現王と推察


以上>


 そんな中で聞こえてきたソフィアの声は、ただただ簡素に情報を教えてくれるのでした。





「お持ち帰りでお願いします!」


 わたしに抱きつく、学園指定の赤をベースとした制服と学年を示す黄色のラインが入ったローブを着た女の子はそう言ってきますが、クラスメイトたちとその父兄は、どうしたものかとオロオロしているようで、誰も助けてくれません。


 学園長室でのお父様の叫びから数日が経ち、カルトエルム王都魔法学園の入学式とお父様の新任の挨拶が終わりました。その後、一年お世話になる教室に移動し、担任の先生のご挨拶が済み、自己紹介や今後のスケジュールなどについては、明日となりました。あとは、保護者と教室で待ち合わせて帰宅となり、お父様を待っていたわたしは、一人の女の子に抱きつかれたことで身動きが取れない状況に陥っています。


「姫様、いくら可愛いからと言って、抱きついた揚句、お持ち帰りとは、いささかうら…いえ、無茶が過ぎます。それに彼女も戸惑っておりますよ」


「何よ、アンだって羨ましいからって、譲りませんからね」


 いえ、一人だけ彼女を諌め、わたしを彼女から引きはがそうと反対側から抱きつく、女性がいます。たぶん、彼女を迎えに来た女性だと思うのですが、これはどうなのでしょうか。わたしの顔は、女性のふくよかな膨らみに挟まれています。わたしが生身の人間なら窒息間違いなしです。


<検索


 姫…カルトエルム王国 第二王女 オデット=ドラウ=カルトエルムと推察

 

 アン…不明。オデット=ドラウ=カルトエルムの従者、Fカップ相当と推察


以上>


 どうやら、先日の学園長とお父様がお話しになっていた第二王女様とその従者だとソフィアは推察したようですが、だとすると私はどうすればいいのでしょうか。王国の重要人物ですので、危害を加えるとお父様へのご迷惑となります。しかし…


「この()は、絶対父上が仰っていた娘です。でなければここまで母上の面影、むしろクリソツ?なわけないでしょ」


 そうなのです。第二王女とわたしの顔がとても似ているのです。わたしの黒い濡れ羽色の髪と、彼女の白みがかった金色の髪と違いがあるものの。姉妹と言われてもおかしくない程に似ています。これは、お父様と彼女の“母上”との関係が気になるところでありますが…


「姫様、さすがに…」


「オデット姫、そろそろ我が娘を開放して頂けないでしょうか」


 アンさんという女性が、彼女の言葉を窘めようとすると、それを遮る様にお父様がわたし達の教室へ入ってくるところでした。


「…」


 すると、わたしに抱きついていたアンさんが無言でわたし達とお父様の間に立ちます。彼女は、第二王女の護衛も兼ねていそうです。


「これは、失礼。私は、その娘の父でロッドバルト=オウルと申します。以後お見知りおきを」


 お父様は、右手を左胸に当て、お父様の背丈より高い杖を持った左手を背に隠す様にしながら左足を少し引いてから、頭を下げる。


 わたしが行った礼法ではなく、大陸の西側では貴族である男性のお辞儀を、お見本のように行うカッコいいお父様にわたしの気分は少し上向きになります。


「…“やさしい魔法使い”様」


 そんな呟きが耳に入り、そちらを振り向くと、わたしと同じ位置にある顔を赤くしています。


「!し、失礼致しました。(わたくし)は、カルトエルム王国、第二王女オデット=ドラウ=カルトエルムと申します。突然、御息女にご迷惑を掛けてしまい、申し訳ございません」


 そう言うと彼女は、わたしから離れると大急ぎで自分のドレスを整え、スカートの両端を軽く摘み持ち上げ、体を下げます。カーテシーと呼ばれる大陸の西側の貴族に見られる女性のお辞儀をしています。少し慌てていたのか雑になってしまっていますが、幼い雰囲気と合わさってどこか可愛らしく見えます。そして、いつのまにか第二王女の後ろに控えたアンという女性もカーテシーをしています。いつのまに、すご早業です。


「こちらこそ、突然お声掛けして申し訳ございません。我が娘オディールはまだ生まれて間もない娘です。どうか仲良くしていただけると大変うれしく思います」

 

「では、父上が言っていた通りなのですか?」


 お父様の言葉を不思議そうに問い返す第二王女様。


「陛下がどのように仰っていたかは存じ上げませんが、彼女は私が造り上げた魔法機工人形です。オディール」


「はい、お父様。オディール=オウルです。宜しくお願い致します。オデット王女様」


 わたしは、彼女に倣いカーテシーをして、体を戻すと、また彼女が抱きついてきます。


「この娘を(わたくし)の妹にください!」


「「…」」


 その言葉にわたしとお父様は、ただただ言葉を無くすのでした。



つづく

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