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商人と傭兵編 10

前回のあらすじ


スバルのもとへと走ったカイルは、散乱する死体とスバルの戦闘を目にする。

常識外れなまでのスバルの強さだったが、一瞬の隙を突かれ騎馬集団に襲われる。

カイルも加勢するが力及ばず、スバルの首が斬られるところを目にしたのだった。

「死んだか?」

「ああ、死んでる」

馬を下りた盗賊達が目の前で会話を交わすのをカイルは聞いていた。

誰が死んだのか。死んでしまったのか。

考えまいとする思考を遮り、無慈悲に会話は続く。

「全く…馬ごと叩っ斬るとか化け物かよ。ガキのくせに」

「化け物でも、動脈を斬られりゃ死ぬ。イルハンの手柄だよ、最後のな」

「いったい何があったんだよ?他の奴らも、みんなコイツに殺られたのか?」

先ほどの戦闘に加わらなかった賊が疑問の声をあげる。その後ろには2頭の馬が佇んでいる。一頭は連れ戻したものだろう。

「たぶんな。コイツならありうる。手負いだったくせに、俺の剣を正面から防ぎやがった。まだ腕が痺れてるぜ」

「はぁ…これからどうすっかねぇ…」

首の後ろに回した斧の柄に頭を預けて空を眺めつつ賊の一人、リックがため息を吐く。

「獲物はいなくなっちまうし、仲間は死んだし、残ったのは俺たち三人と馬が四頭か。ちょっとこの稼業を続けるのは無理臭えよなぁ」

「だろうな。戦も始まったことだし、どっかの軍にでも志願してみるか。アドラーも死んだし、メセルタに参加しても誰も文句は言わねぇよ」

「俺はそろそろ堅気の仕事やりてぇよ。とりあえず余った一頭は誰かに売って金を分けようぜ」

「ああ、そうだな」

「ん?なんか忘れてねぇ?そういえばメルツの野郎はどうした?あいつ落馬しただけだろ?」

「ああ、あいつも死んでた。落ち方をまずって、馬の下敷きになってた。運わりぃよな」

「そもそもあいつが落馬したのって、横から邪魔が入ったからだろ?もう一人ガキが…」

そこまで口に出すと同時に、賊たちの目がカイルへと向けられる。

カイルの心臓が一つ、大きく波打った。

「…そうだよ。こいつのこと忘れてたじゃん。化け物ガキの隣にいたガキ」

「剣を持ってるとは思わなかったわ」

「へたり込んでる。腰でも抜けたようだな」

口々に言いつつ、彼らはカイルの方へと足を伸ばす。

それを見てようやくカイルの頭が動き、全身へと警告が発せられる。

逃げろ、逃げろ、逃げろ、と。

「うあ、ああ…」

カイルは腕で後ずさる。足には力が入らず、本当に腰が抜けてしまっているようだった。

「殺すか?」

「いや、別にメルツの敵討ちなんてどうでもいいわ。あいつ時々うざかったし」

「じゃ、ふんじばって奴隷にして売りさばくか。馬の金と合わせりゃそこそこ儲けれるだろ」

ろくに動かれぬカイルに対し、賊たちは悠々と距離を詰める。その顔に浮かぶ薄笑いに、カイルは覚えがあった。

幼い日に、地面に空いた蟻の巣に何気なく水を流し込んだとき、自然と浮かんだあの表情。

ああそうか。彼らにとって、自分は虫けらのようなものなのか。

理解と共に、体が震えだす。今日見てきた赤黒い記憶が蘇り、狂ったように腕を動かすが身体は思うように動かない。

剣。そうだ。剣がある。

右手に固く握っていた存在を思い出し、その切っ先を賊に向けようと腕を持ち上げる。

その腕を賊の足が蹴り飛ばし、そのまま体重をかけてカイルの手首の上にのしかかった。

ほぼ同時に、カイルの視界が激しく揺さぶられる。後からやってきた熱い痛みと口に広がる血の味で、殴られたのだと気付く。

「おい、あまり傷つけるなよ!値が下がるじゃねぇか」

「いいんだよ、打撲の一つや二つぐらいすぐに治る。それに最初にこうやっておけば、後で扱いやすくなるしな」

「なら俺にも代われよ、平等にやらねぇとな」

言葉と同時に、脇腹を抉るかのような衝撃がカイルを襲う。腕を踏みつけられ満足に動けぬ状態のまま、痙攣を起こしたかのようにカイルは悶え、むせこんだ。

「おーっ、いい蹴りだな。折れたんじゃね?」

「ちゃんと加減してるって。このぐらいで折れたら元から値なんかつかねーよ」

「じゃあ、次は俺だよな。ちょっとコイツ立たせるから退いてくれよ」

「その前に剣だけ捨てさせとけ。ガキには勿体ない玩具だ」

力の入らぬ右腕から荒々しく剣が剥ぎ取られる。

それが地面に捨てられる音を聞きながら、カイルの脳裏にはそれを与えたときのセバの顔が浮かんでいた。満足そうな声色と細めた目が、今からは余りにも遠かった。

(親父…)

閉じた目が潤む。それを気付く筈もなく、賊の腕がカイルの喉元を掴み強引に立たせる。

「一回試してみたかったんだよな~。頭突きってやつ?相手の鼻を潰すようにデコをぶつけるんだってよ」

「おー、いいな」

「ほんとに潰すなよ。加減だけはしとけ」

「へいへい、気ぃーつけるよ。さーて、行くぞクソガキ~」

反動をつけるように、カイルの体が一回後ろに揺られる。

直ぐに襲うであろう痛みに、カイルは強く目をつぶった。

そこに。





鈴の音が、響いた。

賊たちの後ろ、先ほどの戦闘のあった場所、死体しか残っていないはずの場所から。

カイルが目を開けると、引き攣った笑いを浮かべる賊の後ろに、人影が揺れるのが見えた。

振り返ろうとしたのだろう、カイルを掴んだ賊が僅かに体を捻る。

刹那。

その右半身に黒い影が走る。

目前で人が肩から股関節まで両断されるのを、カイルは見た。

布切れのように引き裂かれ、血を噴き出しながら倒れる賊を尻目に、その人影はまた翻る。

理解を越える現実に追いつけない賊の一人は、振りかぶられた刀を素手で防ごうとし頭を庇う。

それに一切斟酌なく黒い刀身が落ち、物言わぬ肉塊がまた一つ増える。

「ばっ、化け物がぁ!」

残った賊が剣を抜き放ち、人影に襲い掛かる。

その剣が振り下される前に、跳ねた人影から繰り出された突きが賊の左胸を貫通していた。

そのまま寄りかかる死体を払いのけて振り向き、返り血に染まった人影、小柄な鎧姿が口を開く。

「大丈夫?カイル君」

読了ありがとうございます


…正直、鈴の音を使いすぎだとは思うのですが、ほかに効果的な表現が思い浮かばなかったのです。まだまだ精進せねば。

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