第5話 追跡者
「あの!」
放課後になり、美雨ちゃんにどう切り出そうか悩んでいると、相手の方から声をかけてくれた。
「どうしたの、美雨ちゃん」
「え、えっとぉ……」
もじもじと、何かを言うのを躊躇っている様子の美雨ちゃん。
「言いたことがあるんだよね、美雨」
可愛いなと見ていれば、右肩に誰かの手が乗った。
誰だ! 不敬だろうが!
「沙月……」
不敬な人間は沙月だった。
なんと言うやつだ! ゆるせない!
「えっとですね、雪さん! 」
白い手が伸び、私の手を握った。
「LINE! 交換しませんか!」
「え゙……」
思いも寄らない、願ってもない提案に、驚きのあまり変な声が出てしまった。
恥ずかしい。
え、改めて考えても、嬉しすぎる。嬉しすぎないか!?
良いんですか? 私なんかと交換してくれるなんて!!
「あ、嫌なら全然! 大丈夫なので!」
沈黙が続き、返答がNOであると勘違いしてしまった美雨ちゃん。可愛いね。そんなことあるわけないのに。
「違うの。少し、驚いたから。勿論、私も美雨ちゃんと交換したかったんだ」
その返事を聞くと、美雨ちゃんはとても喜んでいるようだった。へー、可愛いじゃん。
「じゃあ、私はもういきますね! また明日!」
「あっ……」
「また逃げられたね」
昨日も今日も、一緒に帰ろうと声をかけようと思っていたのに、美雨ちゃんは直ぐに帰ってしまう。
もしかして、他に約束をしている子がいるのでは??
「ねぇ、美雨ちゃんってこのクラス以外に友達がいたするのかな?」
「うーん。まだ2日目だから分かんないけど、いるんじゃない?」
確かに、まだ登校して2日目なのだから、沙月が私以上に情報を持っているはずがない。
ならば!
「後ろ、つけてみない?」
「それ、のった」
沙月の返事を聞き、2人で美雨ちゃんの後を追いかける。玄関辺まで行くと、下駄箱で靴を履き変えている美雨ちゃんを見つけた。
バレないように隠れながら、美雨ちゃんの行動を見守る。
上靴を脱ぎ、靴を履く。至って普通の動作しかしていない。
なにか急いでる様子もない。
「美雨」
「日向ちゃん!」
長い銀髪がふわふわと揺れ、褐色の肌を大胆に見せびらかしている女の子。
「だ、だれ?」
「入学式の時に目立ってた子だよ。何組かは知らないけど」
沙月曰く、1番目だったのが美雨ちゃんで、その次に目立っていたのが日向という人らしい。
あの見た目なら目立つのは納得だけど、美雨ちゃんってそんなに目立つようなこと……したか、したかも。
「帰ろっか!」
美雨ちゃんが声をかけ、日向さんの腕を引っ張る。
え? は? 羨ましいんだが?
「うん。帰ろ」
見た目に反して、日向さんはダウナー系らしい。
もしかして、あんな雰囲気の子が好きなのか?
「いくよ、雪」
「あ、ごめん。行こう」
目の前を歩く2人は、ずっと手を繋いでいる。
羨ましくて仕方がない。なんでこんなにも仲が良さそうなんだ??
何を話しているのかは聞こえないけど、ずっと楽しそうに笑っている声が聞こえる。
きっと、今日はこんなことがあったよとか話してるんだろうな。
「雪、曲がるよ」
まるで、探偵ごっこをしているみたいだ。
あまり良くないことをしている自覚はあるけど、楽しさの方が勝っている。
勿論、羨ましいという気持ちが1番だけど!!
「これ、家に向かってるのかな」
「でもさ、さっき帰ろうって言ってたから家じゃない?」
たしかに。と納得して、2人を追いかける。
あの仲の良さ、もしかしたら付き合ってるのかな。そうだとしたら、納得がいく。
手を繋いで、毎日一緒に家に帰って……。しかも、日向さんはあんなにも綺麗で可愛い。
やっぱり、類は友を呼ぶというように、美人は美人を呼ぶんだな。見てる分には目の保養だけど、やっぱりちょっと……
——羨ましい。
「あ……」
路地を曲がると、
「え!! 雪さん!?」
目の前に、美雨ちゃんと日向さんが立っていた。
「あ、えっと、その……」
ま、まずい。何かを言わなくては……。
いや、何が下手なこと言うほうがまずいか??
思考をぐるぐる回すが、最適な言葉が見当たらない。
「ごめんね美雨。本当は一緒に帰りたかったんだけど、すぐ帰っちゃったからさー。追いかけてみよって雪に提案したんだよね」
な、なんだと!!?
この女、全ての罪を一身に背負おうとしている!!?
「いや、私が気になって着いて言ってみようって言ったの。ごめんね、美雨ちゃん」
心の友よ。独りで逝かせはしない。
「そうだったんですね! 日向が誰か後ろをつけてきてるって言うから、誰か気になったんですけど、2人で良かったー!」
なんてことをしてしまったんだろう。
そりゃそうだよね、知らない人が着けてるかもしれないって分かったら怖いに決まってるのに。
日向さんは何も喋らず、ただ黙って私たちを見ている。怖い。
「……ウケんね」
やっと口を開いたと思ったら、ウケんね??
「美雨と一緒に帰りたくてここまで着いてきたんだ? チョーウケるし可愛いぢゃんね」
長くオシャレな爪が顔に近付き、目でも潰されるのかと思ったけど、向かったのは目ではなく。
「アタシとも仲良くしよーよ」
「むっ……!」
ぷにっと頬を掴まれた。
それと同時に顔が近付いて来る。
真顔だった日向さんの顔が、ふっと少しだけ微笑んだ。
ち、近い!!
近すぎる!!!! こんなに綺麗な顔が目と鼻の先に!!?
それになんか、何となく美雨ちゃんに似てるし!!
「ちょっと日向!!」
ポコポコと日向さんを叩く美雨ちゃん。
正にその姿は小動物そのもので、愛おしいという感情以外は何もない。
「ゴメンって」
そう一言謝ると、直ぐに手を離してくれた。
爪、長すぎない?
可愛いパーツが沢山付いていてオシャレではあるけど、ガッツリ校則違反だ。
「あの、私達の家もうすぐなんですけど、良かったら一緒に帰りませんか?」
「勿論!」
勢い余って大きな声が出てしまった。
恥ずかしくて口を抑えると、美雨ちゃんが笑ってくれた。
隣で固まっている沙月にも声をかけ、4人で仲良く帰ることになった。
「そういえば、中学の時から2人は仲良いの?」
沙月が美雨ちゃんにそう質問すると、首を横に振った。
「私達は中学からじゃなくて……」
美雨ちゃんは日向さんと肩を組み、誇らしげな顔で言う。
「姉妹なんです!」




