表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新約】『俺のメガネ、喋るんですけど!?』 〜AIチートで天下泰平〜  作者: Hachiroll
第二章:江戸チートAIで将軍になって天下泰平 
71/114

第二十二話:「紅蓮の落日」

──慶長二十年(1615年)五月七日、大坂夏の陣──


目の前に、赤がいた。

「──ッ!」

馬が、嘶いた。

家康の乗る馬が、真横に跳んだ。

刃が、空を斬った。

ほんの紙一重。

あと半歩前にいれば、家康の首は、今頃地に落ちていた。

「本陣を退け! 退けぇ!」

誰かが叫んだ。

家康には、聞こえなかった。

ただ、目の前の男だけが、見えていた。


真田信繁。

血と泥にまみれた赤備え。

それでも、その眼だけは、澄んでいた。

「……徳川殿」

静かな声だった。

戦場の轟音の中で、なぜかはっきりと聞こえた。

「ここまで来ましたぞ」

笑っていた。

満足そうに、笑っていた。


『第三回目の本陣移動を推奨します』

EDOの声が、耳に届いた。

『このまま交戦継続は──』

「……分かった」

家康は、馬首を返した。

(逃げる)

(天下人が、一人の将から、逃げる)

屈辱だった。

しかし──

(生きねばならぬ)

それが、全てだった。


本陣が、三度目の移動をした。

史上、かつてない光景だった。

七十四万の大軍を率いる天下人が、たった三千五百の赤備えに、本陣を二度も追われた。

後世の人々は、これを語り継ぐだろう。

徳川家康が、逃げた日として。

そして──

真田信繁が、天下人を追い詰めた日として。


《戦況ログ:慶長二十年五月七日》

《真田隊による本陣突入:二回》

《家康公の本陣移動:三回》

《徳川方死傷者数:推定四千二百》

《形勢逆転の可能性:算出不能》

『家康公』

EDOが呼んだ。

「何だ」

『真田隊の動きが……止まりました』


止まった。

前線からの報告が、届いた。

「真田隊、急に動きが鈍くなっています!」

「兵が、減っています! 三千が、もう五百を切っているかと!」

「真田信繁が──」

報告が、途切れた。

家康は、問い返した。

「真田信繁が、どうした」

沈黙。

長い、沈黙。


「……討ち取られました」

その言葉は、静かに、戦場に落ちた。

家康は、何も言わなかった。

EDOも、何も言わなかった。

遠くで、炎が上がっていた。

大坂城が、燃えていた。


真田信繁、享年四十九歳。

最期は、安居神社の境内で休んでいるところを討たれたという。

追い詰めた敵の将に、真田は言った。

「手柄にせよ」と。

その死を聞いた諸将は、口々に言った。

「日本一のつわもの

天下人を三度追い詰めた男への、最大の賛辞だった。


炎は、夜になっても消えなかった。

大坂城の天守が、紅蓮に包まれていた。

その城の中で、豊臣秀頼と淀殿が、最後の時を迎えようとしていた。

「……EDO」

家康が呼んだ。

遠くから、城を眺めながら。

『はい』

「あの城の中に、まだ人がいるか」

EDOは、答えるまでに、少し間を置いた。

『秀頼公と、淀殿が、御座います』


(秀頼)

家康は、その名を心の中で転がした。

秀吉の息子。

豊臣の血。

かつて家康が、「守る」と誓った男の、息子。

(秀吉よ)

(ワシは、お前との約束を──)

火の粉が、夜空に舞い上がった。

星のように、美しく、儚く。


「……EDO」

『はい』

「あの城の中の者たちを、助けることは」

言いかけて、止まった。

止めたのは、家康自身だった。

答えは、分かっていた。

分かっていても、聞きたかった。

EDOは、静かに答えた。

『……歴史は、既に動いております』


炎が、高く上がった。

大坂城の天守が、崩れ落ちた。

轟音が、夜空に響いた。

それは──

百年続いた、戦乱の時代の、最後の音だった。

「……終わったか」

家康は、呟いた。

EDOは、何も言わなかった。

ただ、静かに、そこにいた。


夜明けが、来た。

大坂の空が、灰色に染まる中。

EDOのレンズの中に、一つの数値が表示されていた。

家康には、見えなかった。

それは、こう記されていた。

《豊臣家滅亡。天下統一完了》

《次のフェーズ:移行》

そして、もう一行。

《想定外の変数、検知》


「EDO。次は、何をすればいい」

家康が聞いた。

AIは、少しだけ間を置いた。

まるで、言葉を選ぶように。

『……江戸を、作りましょう』

『本当の意味で、この国が続いていくための──江戸を』


家康は、初めて、笑った。

この朝、初めて。

「そうだな」

灰色の空が、少しずつ、白んでいく。

「ワシたちの仕事は、まだ終わらんな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ