17.残りの学生生活を変態生徒会長として過ごすのか
「終わりだ……俺の人生はもう終わりだ……」
「大丈夫です、政樹さん。人間そう簡単には終わりません」
「もうお前の人生が終わってくれたらいいのにな」
「政樹さんの目が怖いです!!」
放課後。
がっくりと肩を落としながら、俺は生徒会室へと重い足を進める。
こんな時にはさっさと家に帰って寝たいが、そうもいかない。
「政樹さん、どうしてそんなに肩を落としてらっしゃるんですか」
「どうしてって、お前」
「まさきさんのかたはもうさがらない!!」
「…………」
「な、何故そんな『初めてお前の言ってることが分かった……』みたいな顔をなさるんですか」
「いや、だって初めてお前の言ってることがわかったから」
ああ、同じ世代の同じ種族だったんだ。
よかった、一時期本当に異世界の人なんじゃないかと思ってた。
「……まぁ、それは置いといて。政樹さん、後輩女子に『お兄ちゃんと呼べ』と懇願している様を見られたくらいで、何故そんなにがっくしきてらっしゃるんです」
「後輩女子に『お兄ちゃんと呼べ』と懇願している様を見られたらからに決まってるだろうが。そんな噂が広まったら俺の人生終わるだろ」
「なんだ、それなら大丈夫ですよ」
「は?」
「確かに、先輩とおぼしき男子生徒が早朝に教室で私に『お兄ちゃんと呼べ』と懇願していたという噂は千里を駆けています」
「千里を!?」
「今では尾鰭がついて、早朝の密室で先輩とおぼしき男子生徒が全裸で私の足元にひざまずき、上履きを舐めながら『お兄ちゃんと呼んでくださいハァハァ』と懇願したことになっています」
「……終わった」
もう間違いなく終わった。何なら始まっている。変態としての俺の第二の人生が。
尾鰭がつきすぎてもうフォローしきれない。
俺は残りの学生生活を変態生徒会長として過ごすのか……
ハハ……よかったな岡田……これで俺もお前の望む一芸をもった生徒会長になったんじゃないか……変態っていう一芸だけどな……ハハハ……
「そんな渇いた笑いしないでください、大丈夫です」
「何がだよ」
「その先輩とおぼしき男子生徒が政樹さんであるとは、誰も気づいていませんから」
「……は?」
「だから、あくまで『先輩とおぼしき男子生徒』という情報はあれど、それが政樹さんだという情報は何一つないのです」
「え? ……え? ち、ちょっと待て」
さらりと衝撃的なことを言ってのけた岡田に、俺は思わずストップをかける。
「おかしいだろ、だって俺、全校生徒に面が割れてるんだぞ?」
「政樹さん、考えてもみてください」
「何をだよ」
「友達だとか同じクラスだとかならともかく、一から十まで全部が全部押しなべて人並み月並みな、ただ皆の前で数回何かしら喋っただけの特徴のない人物の顔を、一体誰が覚えているというのです」
「あ、そっか……」
「はい」
「そ、そうだよな……」
「よかったですね、終わらなくて」
「まだ始まってすらいなかったな……」
何だろう……よかったはずなのに、何故こんなにも釈然としないんだろう……
「それで政樹さん、今日の生徒会のお仕事は?」
「ああ、今PTA総会やってるから、そこに出す生徒会の決算資料を」
「政樹さんが作るんですか?」
「いや、先生が作ったやつをコピーしたのをホチキスで留める」
「想像を絶する地味さ!」
「地味とかいうな。生徒会の仕事の中では派手な方なんだから」
「どのあたりが!?」
「学校の機密文書を一足先に読めるあたり」
「ほんの数分先じゃないですか……」
パイプ椅子に座り、机の上の書類をホチキスで留める。
昨日もこの単純作業を黙々と繰り返していたので、残りはあと三分の一程度だ。
ぱちんぱちん。
ホチキスの音だけが続く。
二十回ほどその音が響いたところで、岡田が悲鳴をあげた。
「絵面が地味すぎます!」
「絵面って何だ、絵面って」
「ひらめきました!」
岡田は昔の漫画よろしく手を打つと、生徒会室のドアに駆け寄った。
「PTA総会の偵察に行って参ります!」
「あ、こらやめろ!」
「なんですか政樹さん、まさか友達にお母さんを見られるのが照れくさいだなんてそんな子供みたいなことおっしゃいませんよね!」
岡田は早口でまくしたてると、ムホホーと笑い声(?)を残して走り去って行った。
開け放たれたドアを見て、俺はため息をこぼす。
「そのまさかだよ」




