第三十七話 偽りの神
己の四肢が――、吹き飛んだ。
残ったのは、頭と、
深々と「韴霊剣」が突き刺された、胴体だけであった。
この韴霊剣は、人の心と傷を癒やす刀である。
咄嗟にそれを突き刺し、塵と化そうとした身と心を支えたのだ。
その功、奏して、「邪念を払う神楽鈴」で灰燼に帰せんとした心を、再び練り固めて己の姿を「再現」することが出来た。
しかし、
四肢は、すでに失われてしまった。
もう一度、鈴が鳴り響けば、それで仕舞いである。
己のした行為は、生きている時間を、少しだけひきのばしただけにすぎない。
「しぶといのですね」
娘は、うんざりとした様子で、只ただ、見下すように、神であるこの儂を見つめた。
「……――人を止めてまで……人に従い――思念を滅し、神を、殺して、一体、貴様になんの益がある……」
すでに呼吸もままならぬまま、そう尋ねる。
「そこまで凋落しても、まだ自らを神と嘯きますか」
娘は、呆れた様子で、さらに己を見下した。
そして、わしの問いに、答える。
「何の益がある……?
……何の益もありませんよ――ただの、私の憂さ晴らしです」
そう、言った。
「……憂さ晴らし、だと?」
聞き返すと、娘は、さらに見下すように目を細め、
「……こんな事を、あなたに、言っても仕方が無いかもしれませんが――」
―――神は、私を呪縛したからですよ。
「呪縛、だと」
「ええ」
「……どういう、事だ?」
「――神という曖昧な「思い」あったから……生まれたばかりの私は「神を押しつけられた」のです」
「神を、押しつけられた?」
「ええ」
「神」ではない?
それなら……
「お前は……ただの人だと言うのか?」
「ええ、その通りですよ、あなたの言う通り、ただの小娘です」
ただ
神、という役割を与えられただけの。
ただの、小娘なのです。
娘は、そう言った。
「わたしの村には、あなたのような「神」はいませんでした」
ひどく、小さな村で……いつも大きな国のいいなりだった。矮小な集落。
皆、強大な力に立ち向かうことなど夢にも思わず、ただただ、小さく縮こまり、おびえているような村人でした。
だからでしょうか?
自分たちの力には頼らず、全知全能なる神を信じ、己の心を慰めていたのです。
しかし、
私の村には、あなたのような明確な神がいなかった。
……もしも、あなたのように始めから望みが「戦神」と明確にされ、さらに、数多くの人がそれを望み、信じ、疑わず、敬い続ければ、神は生まれたかもしれません。
しかし、私の村はあまりにも人が少なく、望みもばらばら。
さらに、神に対しての、知識も知恵も――肝心の神を信じ疑わぬ心がなかった。
――つまり、人の思いが矮小だったのです。
しかし、
妄想にとりつかれた村人は、それすら分からずに
ただ、「神」だけを求めた
どうしても、神の言葉を聞き、望みを叶え、救われたかった。
だから、
――村人は、生まれたばかりの私を、「神託を受ける巫女」に仕立て上げたのです。
私が選ばれた理由は、
「偶然、私の母が、社参りの途中で産気づいたから」
ただ、それだけ
ほんとにただそれだけの、馬鹿馬鹿しいにもほどがある、くだらない理由。
でも、「神」を欲しがっていた、村人は、その偶然に理屈をつけました。
「神」という曖昧な存在がこの世に生まれたせいで、――私は、生まれながらにして巫女であることを強要され、身を清浄になるよう、毎夜毎夜清めらました。
そして、遊ぶことも、恋することも叶わずに、人々は神の名の下に、私を束縛し、私に「神託」という嘘をはかせ続けました。
私を束縛した原因は「人の望みを救う、万能の神」という、驕り高ぶった妄想。
それでも、
――「人」は、悪くない。
ただ、心が弱かっただけ。
そんな、夢のような存在が、人の心を盲目にし、「神、という、人の望みを叶え、己を救う幻想がある」と、身勝手な希望をもたせたのです。
悪いのは人を「望み」という嘘でたぶらかす、「神」
私は、そう、思いました。




