第三十六話 思考を止めた愚神と、理屈を垂るる愚者
そう言って
娘は鈴を、振り、下ろした。
これは、
――いかん。
やはり、この神楽鈴、桁違いだ。
否、桁、ではない
すでにこれは、武具では無い、
この、鈴の音は
人の概念を殺す
思いを殺す、
我をころし
他を殺すもの
生を殺し
死を生かし
善を悪となし
悪を善となすもの
刹那に、そう判断する。
振りい下ろされれば、おわる。
鈴の音を聞けば
我は滅する。
否、
この者と出会った瞬間に、我が命が滅する事は、すでに決まっていたのかもしれぬ。
その前に――
ほんの少しでも可能性があるのなら、
最後の、意地みせよう
娘の扱う鈴が、振り下ろされる、その動作の素人じみた遅さに謝し
唱え、祀る。
――伏して借り願う武甕槌の御力、布都御魂断獄滅国二百七十二払太刀
そう、願い
娘の鈴音が鳴る、刹那の瞬間に、
――――戦神、と呼ばるる、己の出せる全ての「早さ」で、娘を切りつける
ただの、悪あがきであることを識りながら、直刀を使用した。
本来ならば、たった一刀で、「一国を滅ぼす力を持つ直刀」
小娘が、人であれば、振るわずとも、身を粉末の如く微少な肉塊に変ずることも可能である。
己の、四肢を張り、腕をしなられ、骨軋ませ、指を張り、地獄を裁断し、国を滅っするがごとくに縦横無尽に、娘の体をを薙ぎはらう。
縦横無尽
無尽縦横
上・下・右・左・右斜・左斜・上・下・右・左・右斜・左斜・上・下・右・左・右斜・左斜・東・西・南・北・東・西・南・北・東・西・南・北・北東、南東、南西、北西・北東、南東、南西、北西・北東、南東、南西、北西・子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥・子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥・子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥・艮・巽・坤・乾・艮・巽・坤・乾・艮・巽・坤・乾・艮・巽・坤・乾―――
布都、
経津、布都
経津、布都、経津
布都、経津、布都、経津
布都、経津、布都、経津、布都経津、布都、経津、布都、経津布都、経津、布都経津――――
刀を払う動きに、音が遅れて追尾してゆく。
計、二百七十一回、
光の如き早さで、布都御魂の直刀を振るった。
しかし
しかし
しかし
それでも
――娘は、切れなかった
――始めから、分かっていたことであった。
娘には全く、手応えが無いのだ
雲や水を切るようなものなのだ
逃げ切れぬ、
そう思い立った瞬間、
最後の一刀を薙ぐ力を己に向け
左手の内反り片刃の鉄刀を、己の胸に突き刺した