第二十三話 菩薩清涼月 遊於畢竟空
「お前は、娯楽というものを知っているか」
「・・・・・・は?」
霊元が、華梁に問う。
「見たところ、日頃修行に明け暮れ、ろくな娯楽も知らぬようだ」
霊元が、嘲笑するように華梁に話しかける。
「――つまり、これも娯楽の為だといいたいのか?」
「さよう」
そう言って、
霊元が言葉を続ける
「ただの遊びなど、つまらぬだろう? 自らの存在を賭けて遊ぶ、これほど血湧き肉躍る遊びもあるまい」
「私にとっては、自ら死ぬ事すら遊びなのだ」
「確かに、私が始めから手を下せば、荒涼神は生まれやすく成るだろう」
しかし
「それでは、つまらない」
「人があがき、悩み、苦しみ、苦しみ、苦しみ抜いたあげく、どれほどの力をもてるのか、見てみたか
ったのだよ」
「憂」
「お前は実にいい玩具だった」
「始めの玩具は、実につまらなかったからな」
「神になる事をあらがおうともせず、使命と勘違いし自ら荒涼神となった―馬鹿な小娘だったよ」
「それに比べ、お前を見ているのは、楽しかった」
「久しぶりに、心躍ったよ」
「これほどまでに歪に曲がり、屍を築き上げ、それでも人に成ろうと思った「もの」初めてだった」
「暦縁などが邪魔をしたのも今となってはよい刺激だったよ」
「正直、お前に殺されるのならば、私は本望だ」
だが
「今のお前は、弱すぎる」
「夜季との争いも、まるで畜生が餌の取り合いをしているようにしか見えぬ」
「荒涼神は、全ての者を問答無用に荒涼と化すものだ、言うなれば、台風や地震と同じ、神ですら抗うことの出来ぬ、現象でしかない」
「そんなものと争ってもつまらない」
「できれば、お前の力で」
「私を、殺して欲しい」
そう言って、言葉を切った。
遊んで
遊んで
遊んで
そして、死ぬ
この神はまるで子供だ。
神として生き続け、遊び続け、最後に選んだ玩具が「人」
そうしてその中で選ばれたのが、僕だった。
それだけ、だった。
霊元にとって、僕も夜季も――ただの遊具でしかなかった。
「わかったろう、華梁? 私は死にたくないのではない、死に方を選びたいだけなのだ」
最後まで
遊んで――死にたいのだ。
そう、言った。