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異世界で生き残るには——ググれカス!  作者: 時野マモ
異世界で生き乗るには? ググれカス!
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急いでググれ!!

 それは凄まじい戦闘であった。

 魔力満載の悪鬼達の体を食らったあやしいプランクトンを食らった貝達が共食いををしながらその最高峰に上り詰めた貝王(カイキング)

 小山ほどもあろうかという巨体を揺らし街に進行してきたそれを倒すため、ローゼ以外の魔術師も、騎士や勇者や戦士達が街の守備隊となって、秘蔵の魔道具や伝説の聖剣まで出す大騒ぎとなったのだった。

 俺の目の前では、黙示録かといった光景が繰り広げられていた。あいつぐ爆発に爆発。空から落ちる雷光に火の玉。それらが貝王に集中すれば——対抗して怪しげな毒が吹き出され、大地がどろどろに溶けて底なし沼となる。その中に街の守備部隊が次に次に飲み込まれては悲鳴が上がる。

 総勢百名以上の異能の者達が集う、この街の戦力もなかなかのものではあるようだが、貝王の進行をなんとか遅らせるだけでせいいっぱいと言うようだった。悪鬼相手には無双したローゼでも、魔力で強化された硬い殻に守られた貝王には攻撃が通じないようだ。

 このままではじりじりと攻め込まれ街が灰燼に帰してしまうのも時間の問題だった。

「あの貝殻に魔力防壁があるため魔力の攻撃が通りません。どうしたら良いんでようね……」

 サクアと俺は、あんな化け物相手にはなんの戦力にもならないので、少し離れた丘から眼下の戦いを眺めていた。

「まあ、でも……あの臭気のせいで誰も海岸に近づかなかったせいで、これがローゼ様のせいだと知っているのは私と使い魔殿だけですからね。あなただけ始末してしまえば街が壊滅したのもローゼ様が貝を撒いたせいだとは気付かれないでしょう……」

 と言い、また鎌を研ぎ出すサクアであった。

 ヤバい! 俺の命またヤバい!

「まて! まて! なんとかする! なんとかなる! なんとかなるんだ!」

 俺は必死に弁明するが……

 へえ? どうやって?

 と言うようなサクアの無言のジト目に、焦ってポケットからスマホをとりだして、

「うわ! バリ4! ここ電波きてんの?」

 自分で見ておいて異世界でLTE表示でびっくり(3Gならびっくりしないと言うものでもないが)している俺。

 いや、いや、

「——そうじゃなくて……魔力がダメなら科学でなにか貝の貝殻を破る方法——確か貝殻って……」

 気をとり直して、スマホを操作した俺は、検索をして出た結果、

「——塩酸!」

 と叫ぶのだった。

 しかし、いきなり、唐突に「塩酸」と言われたサクアはちょっとキョトンとした顔で、

「塩酸? ああ、錬金術の塩精の事ですが? それがなにか?」

 と言うが、

「それをありったけ貝王(あいつ)に放射するんだ」

 と俺は答える。

 でも、

「はい? そうすると?」

 アホメイドはまだ俺が何をしたいのかわかっていないようなので、

「貝殻は溶ける!」

 俺は今検索で知ったばかりの知識を偉そうに披露するのであった。


   *


 俺の話を聞いた後、それをローゼをはじめとした町の守備隊に伝えに行ったサクア。すると、言われてみれば、そういや真珠って酢で溶けるよなとか、貝殻も似たようなもんだろとか、この世界の科学レベルでも酸が貝殻を溶かすことは納得出来る現象だったようだ。特に説明も説得もいらないまま、取り合えずは他に案もないしやってみるかと、ローズ他街の守備隊の合意を得て、塩酸作戦はすぐに行われることになるのだった。

 まずは街の錬金術士の持っていた塩酸を何十個も並べられた樽の中に注ぎ、もっと遠方からもローゼの魔法で転送させた塩酸をたっぷりと継ぎ足して準備完了。次は、精霊使いのエルフ達が風の精に命じて貝王に向かってそれを放射したのだった。 

 ——まるで強力なポンプで放出したかのように宙に綺麗な弧を描いて飛ぶ塩酸。

 ——貝殻にぶつかった塩酸は、風の精霊の力でなるべくそこから流れ落ちないように噴き上げる風で(とど)めておく。

 ——すると塩酸が触れた貝殻からはドライアイスを溶かしたときに発生するような煙が出て、次第に塩酸が当たってる部分がくぼんでいくのが遠くからでもわかった。

 ——さらに、くぼみに風で塩酸を押し込めば、その窪みはどんどんと深くなり……

 ——ついに貝殻には小さな穴が開く!


 しかし、ちょうどその時集めた塩酸が切れたようだった。

 ローゼが世界中から集めるだけ集めても、錬金術でしか塩酸つかってないようなこの謎中世世界であればこのくらいが限度なのであろうが——


「|閃光穿孔潜行先行選考専攻光線魔法ルクス・インフェルヌス!」


 しかしそれで十分であった。

 ローゼの細く絞った光線魔法はその空いた小さな穴を正確に狙い——貝殻の隙間から蒸気が出る。

 そして次の瞬間。それはパッカリと開き、瞬く間に、荒野には、でっかいハマグリ焼きが現れたのであった。


 そして……


 ——うぉおおおおおおおおおお!


 それを見て街を守りきった守備隊から歓声があがるのだった。

 勝利——守備隊は大喜びであった。

 しかし……


「あれ……?」


 ちょうどその時、開いた巨大な貝殻の裏側から、また空を覆う悪鬼の軍団が現れたのだった。

「あれれ、今回は随分と間隔が短いですね……」

 それはこのあいだのものと同じかそれ以上の規模。とにかくやばそうな怪物が空を覆い尽くすほどの数で押し寄せて来たのに、サクアは、その軍団を見ても至極呑気そうな口調で言う。

 それも、

「むっ!(殺るか)」

 杖を前に出し、また例のマップ魔法を仕掛けているローゼ。

 多分こいつの魔法は、また瞬く間に軍団を殲滅するのだろう。

 こいつらにとってここまでは日常の作業(ルーティン・ワーク)に過ぎないのだろうが……

 しかし——

 それは、またあの臭い赤潮が発生するということ……

 そして、その解決がまだ使い魔としての俺の使命ならば、

「今度は使い魔殿は《《ちゃんと》》してくれるのですかね……」

 また、いつの間にか鎌を研ぎながらそんなことをいうサクアであった。

 俺はわかっていた。

 今度やらないと、今度こそ《《殺られる》》。

 俺はそのためにこの世界に呼ばれた使い魔なのだ。

 でも——どうやって?

 貝でダメなら、ヤドカリとかカニとか……いや生き物だと結果はたぶん同じ。

 それなら何で?

 俺は焦りながら、必死にスマホで赤潮対策を検索するのだが、どのリンクをクリックしても、現代科学でもまだ起きてしまった赤潮を取り除く手段はないと言う事しか書いていない。

 俺は、さらにググりながら、無意識にその書かれた言葉を読み上げてしまう。

「——そもそも発生原因の工場排水を抑制したりの予防対策しかない……って言われても連中は勝手にやってくるし……」

 だが、俺はその瞬間、ある考えがひらめいた。

「いや? まてよ?」

 ダメ元で——ある事をやってみようと考えたのだった。 


   *


「いや、そこをなんとか……」

 俺の目の前にいるのは悪鬼の集団のリーダー格の悪鬼。おれはその地獄の大公爵であると言う悪魔と交渉をしているのだった。

 その横にいるのは(よわい)数万年と言うドラゴンに、同じくらいの歳をとっている高位の吸血鬼。そして、そのさらに後ろには、ケルベロスやらゴーレムなどが控えている。

 この、絶望という言葉が軽々しく感じられるほどの強面の面々前にして、俺はすでに腰が抜けて今座っている椅子から立てそうもない状態だった。

 しかし、

「良いだろう。我らとてむやみに貴殿らと戦いたいわけではない。我々は《《先》》に行きたいだけなのだ」

「それでは……」

「うむ」

 俺は差し出された手を握り、その瞬間アモンとの間の空中に契約の文字が現れ交渉成立。悪鬼達との交渉、つまり赤潮の「《《発生原因》》」の「《《抑制》》」の「《《予防対策》》」に俺は成功したのだった。


 そもそも悪鬼達は別に今俺のいるちっぽけな街そのものと住人なんかどうでも良いのだった。

 連中の目的は、街の真ん中にあるさびれた聖地で、そこがどうも連中が召喚されている別の世界への入り口(ゲイト)になっているとのこと。その行く途中に街の住人といざこざになったり、過剰に破壊力抜群の魔法使い(チンチクリン)の餌食になってしまったりしてしまっただけなのだった。

 ならば、聖地の魔法手順(プログラム)を解析したローゼによってその入り口(ゲイト)は海の上の無人の小島に移され、悪鬼達はそこから召喚された先、目的の世界へと向かう。

 これにより、街の平和は守られて、そして当然赤潮の発生は抑えられたのだった。

 正直あの悪鬼の軍団が行く世界の人たちはかわいそうと言うか——あの獰猛そうな悪鬼達をあっさり別の世界に通すのには少し罪悪感を感じないでもなかったのだが、まあ背に腹は変えられない。別にこっちに害を及ぼす気がないのならローゼも悪鬼達をあえて殺そうとも思ってないし、向こうもローゼに無意味に殺されたいわけでもない。

 そう言うことで、あっさりウィン−ウィンが成立。それにより悪鬼の来襲なくなり、ローゼによる撃退、死体が海に落ちて赤潮になることもなくなった。つまり、そもそも《《赤潮》》を解消するために召喚された俺も使い魔としての大役を果たすことと相成ったのだった。

 つまり、大魔術師ローゼが召喚者を違えたなどという不祥事が白日の元に晒されないように闇に葬られることもなくなったのだった。


 ——俺は異世界で生き残ることができたのだった。


 ——ググって。


 そして……


 その召喚された役目が終わったのなら?


「もしかして元の世界に帰してもらえたりするのかな?」


 と俺は小声でつぶやくと、ちょっと期待して、まずは聞いてみようと、沖の小島の入り口(ゲイト)に悪鬼達が吸い込まれて行く様子を崖の上から眺めながら、横のローゼに話しかけようとしたのだが……



 ど——————————ん!



「なんだ!」


 振り返り俺は見る。

 地より湧き出てきた異形の怪物達の集団を。

 そしてそれに向けて、


「|広域抹殺滅殺爆発炸裂雷撃破壊粉砕全滅光線魔法ルクス・インフェルヌス!」


 杖を一閃。ローゼのマップ攻撃魔法が火を吹けば、


「はぁああ……?」


「おっ、今度は久しぶりに死霊達が現れましたね。あれ成仏できなくて街に悪夢撒き散らすんですよね……それもまた全部ローゼ様のせいだと逆恨みする連中がいていて……でも今度もローゼ様が《《わざわざ》》召喚した使い魔殿がいるから大丈夫ですよね?」

「ぬっ!(そのとおり)」

 俺はバタバタと倒れる死霊達の体から何か淀んだ空気みたいなのがゆらゆらと揺れながら抜け出して街の方向に向かうのを呆然と眺め……

「でも念のため……」

 またサクアが死神の鎌を研ぎ出した音を聞きながら……


「俺は…………異世界で生き残ることができるだろうか?」


 そう心の中で言うのであった。



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