貝王来襲
なんとなく嫌な予感を感じながらも、とにかくまずは休みたい。
浄化されていく海の様子を見ながら俺はそう思ったのだった。
チンチクリン魔法使いとクソメイドも別にそれは異論はないようだった。
戻ろうという、俺の提案に即座に首肯すると、目の前に魔法陣を作るローゼ。
それをくぐれば、俺たちは、あっと言う間に俺の部屋の中に戻るのだった。
そして、
「いやーさすが異世界から来た使い魔殿は一味違いますね!」
その後は、できるなら、この騒々しい連中から離れて一人でいたかったのだが、俺の部屋から出て行くつもりはないようだった。
二人とも、勝手に冷蔵庫を開けて飲み物を取り出して、布団のかかっていないこたつの傍に座ると、まるで我が家のようにリラックスして寛ぐのだった。
「美味——」
で、またルートビアを飲むローゼだった。
こいつはこれを気に入ったのか? あまり飲まれると俺の分が少なくなって困るのだが……
こいつになんか言っても、そもそも話を聞いているのかどうかもあやしそうな反応しかしないので、俺は諦めて二本目に手をかけようとするチンチクリンの姿を、いったいいくら飲む気なのかとハラハラしながら、ただ眺めるのだった。
それに比べ、
「あの臭気を解決してくれただけでなく、こんな美味しい飲み物まで持っていて……」
サクアは、俺がつい興味本位で買ってしまった砂糖入り緑茶という気色悪い飲み物をごくごくと飲みながら言う。
ネット通販のタイムセールにつられてうっかり買ってしまった甘い緑茶は、日本人一般にはとても受け入れられるものではないが、まあ外国人というか異世界人のこいつがこれが好きなのなら——いくらでも飲んでもらいたい。
冷蔵庫には、最初に二本入れたが手をつけてなかった一本だけ残っていた(もう一本は俺が飲んでもう二度と飲むかと後悔した)だけだが、押し入れには2ダースほど残ってるのでなんならお土産に持って帰ってもらっても良い。
それできっぱりと、この連中というかこの世界に縁が切れるのならそれで万々歳だ。
と言うか、そうして欲しいな。
匂いの問題は解決したのだから、俺を元の世界にもう返してほしいな。
そう思って、俺は機嫌良く飲んでいる二人に恐る恐る、
「——では、問題も解決したことだし、俺はそろそろ……」
話を切り出してみるのだが……
「でもまったく貝とは気づきませんでしたよ。エビの時は散々だったですからね」
「ぬっ!(そうだ)」
「エビ……?」
さっき聞いた気になった言葉を言う二人に話しかけた言葉を止める。
「全く、この世界で一番の智者が聞いて呆れましたよね」
「ぬっ!(そうだ)」
「エイコック国から、百個の魔法石を代価にはるばる呼びつけた賢者ということだったのに飛んだ食わせ物でした——代価などもってのほか! 身ぐるみ剥いで街から追い出しても怒りがおさまりませんでした!」
「ぬぬっ!(その通り)」
「まったくひどい話でした」
「ぬぬぬっ!(まったくその通り)」
「あの臭気のもとの海のドロドロは、エビに食べさせて浄化させれば良い——そう言われてローゼ様がエビを海に投入すれば……」
——えっ?
「最初は確かにエビが《《あれ》》を食べて海は綺麗になりましたよ」
「ぬぬっ!(その通り)」
「でも、すぐに《《魔法素》》を取り込みすぎたエビどうしが争い食べあって……」
「ぬー……(そうだった)」
「最後に誕生した海老王を倒すのが大変でした」
「………………(汗)」
なんだか悪い予感がマックスになって血の気の引いていく俺であった。
エビが争い、蠱毒壺の勝者のように、最強最悪のエビが生まれたのだとすれば……
ど————————ん!
「あれ? なんでしょう?」
最強最悪の貝王の誕生しないと言う保証はどこにあるのだろう。
「俺、ちょっと外見てくるよ」
と言って、おそるおそる部屋のドアを開けた俺は、人々がパニックになって右往左往している街路の向こう、空に聳える巨体を震わせながら水を噴き上げている、貝王の姿を見たのだった。




