明かされた因縁③
「それで?それが、一体何だというの?」
何時もと変わらない無邪気な笑みを浮かべ、フォルクが縁に話しかける。
「・・・何って。いいですか?私は、この世界を混乱に陥れた、無奔人の血を引いているんですよ。それに、あなたの事も何度も殺そうとした!言うなれば、ここにいる者全ての敵です!」
「うん。それは、縁の話を聞いて分かった。でも、それって全部さ、ヴァゼンシグドがやらせた事なんでしょ?それに、僕は無事な訳だし、何か問題でもあるの?」
今度は、真剣な表情を作り、フォルクは再び縁に問い返す。
「それは、あなたの生まれ持った能力のおかげです。そうでなければ、私はとうの昔に、あなたの事を亡き者にしていた。そんな事は、あなたにも分かっているでしょう!」
悲痛な叫びにも似た声で、縁はフォルクに言い聞かす。
「確かにそうかもね。でも、逆を返せば、縁は僕を殺す事は出来なかった。この中で1番大きな被害にあってるのって、僕みたいだし、その僕がいいって言ってるんだから、特に問題はないんじゃないの?まあ、僕には全然自覚がなかったけど。それに、縁は何時も、僕に美味しいサンドイッチを作ってくれた。文句を言いながらでも、何時も世話も焼いてくれた。ねっ、縁はいい事もたくさん、僕にしてくれていたんだよ」
フォルクは、今度も明るく笑う。
「フォルクの言う通りだな。悪いのは、全部ヴァゼンシグドだ。過去を塗り替える事は出来ないが、未来なら変える事が出来る。ここで、私達がいがみ合っていては、それこそヴァゼンシグドの思うつぼだ。今は、ジーナ殿を助け出し、その核とやらを惑星に戻す事が優先事項だろう」
フォルクの言葉を聞き、プログノスは軽く肩をすくめ、縁に話しかける。
「・・・全く。あなた方は、どうかしている・・・」
縁は、プログノスとフォルクから、ばつ悪そうに目をそらす。
だが、その内心は、この300年に渡り抱え続けてきた罪悪感を、彼等が綺麗に拭い去ってくれた様で、どこかほっとしていた。
「あんた達、案外、大物じゃない」
プログノスとフォルクを見つめ、レベリナが明るく笑う。
「それで、縁の双子の弟が核を持っているというのは?いかに、先祖に魔族がいたとはいえ、そなた達はただの人間ではないのか?」
アルグドが、疑問に思っていた事を、縁に尋ねる。
惑星の魔力を司る程の核だ。自分達ドラグーンでさえ、ずっと持っていられる代物ではない。それは、ヴァゼンシグドとて同じ事。それが、大人しく人間の体内に収まっているとは、到底考えられない。
「確かに、体は人間です。しかし、私達は先祖返りを起こしてしまったんです。ちょうどフォルク様が、300年の時を経て、ドラグーンの能力に覚醒した様に・・・。王の弟の死後、ヴァゼンシグドはずっと、皇女の行方を捜していました。そして、人間界で先にフォルク様を見つけ出し、その後、私達に目をつけた・・・。私達兄弟は、それぞれに特殊な能力を授かっています。斑には、自然と対話をし、寄りつかせてしまう巫女的な能力があります。ヴァゼンシグドは、最初は私に核を埋め込もうとしましたが、私にはその耐性がありませんでした。なぜなら、私が持って生まれた能力は、気や魔力の流れを読み、断つものでしたから。そこで、斑の意識を奪い、核を埋め込んだのです。優れた能力者である斑は、核と見事に融合し、今ではヴァゼンシグドにいい様に操られてしまっています。私は、ヴァゼンシグドを倒そうとしましたが、到底敵う筈もなく・・・。その時に、あの男が取引を持ちかけて来たのです。弟を返して欲しければ、フォルク王子の命を奪えと・・・。私には、他の選択肢はありませんでした。先祖が一度は裏切り、その後庇護した者を、再び狙わなければならないとは・・・」
今日まで、誰にも話す事が出来なかった苦悩を、縁は吐き出す。
「・・・300年の時を経て、全てが再び回り始めたという訳ですね」
今になり、急速に回り始めた運命の悪戯を思い、ウェリカは小さな声でつぶやく。
「まあ、今でないとしても、あいつとは決着をつけなきゃならなかったんだ。ちょうど、いい。僕とワイフの愛の結晶を取り戻しに行くついでに、その小さな惑星君(斑)も救出して、ヴァゼンシグドを叩きのめしに行こうか」
一同を見渡し、ローグルが悪戯っぽく微笑む。
「だから、ワイフって呼ばないでよ!この馬鹿亭主!恥ずかしいじゃない!」
ローグルの頭を張り倒し、レベリナは、顔を真っ赤にさせ怒っている。
「はははっ☆照れ屋さんだな」
「照れてないわよ!私は、怒ってるのっ!」
レベリナに、頭をどつかれても怒鳴られても、ローグルには一向に気にした様子がない。
そんなローグルとレベリナのやり取りを、一同は呆気に取られ見守る。
仮にも、一国を護る守護竜が、馬鹿亭主呼ばわりされるのはいかがなものだろうか。威厳も何もあったものではない。
「気にしなくていいですよ。彼等は、ずっとああですから」
落ち着いた口調で、アルグドがにこりともせずに説明を入れる。
「本当に、何時も仲がよろしくて。勿論、私と旦那様も円満ですが」
ウェリカも、そんな彼等には慣れた様子で、にっこりと微笑む。
「ともかく、今はゆっくりと体を休めるように。その間に、私達がヴァゼンシグドの居場所を突き止めておきますから」
プログノスにゆっくりと療養する事を勧め、アルグド達は引き揚げて行こうとする。
「あの、ローグル様・アルグド様。さっきから、ラニアという女の子(?)の話が出てこないんですが、何者なんですか?」
自分達を追い詰めた、ラニアの正体が分からずに、ルクサリオがローグルとアルグドに尋ねる。ヴァゼンシグドも恐ろしいが、あのラニアという少女からは、それ以上のプレッシャーが感じられた。
「・・・ああ、あの人ね。・・・うん、まあ・・何というか、気にしないでもらえるかな?」
振り返ったローグルの活舌は、何処か歯切れが悪い。
「・・・・」
アルグドは、何も答えようとはしない。
「魔族や人間にも事情がある様に、私達にも厄介なしがらみがあってね。まあ、一つ言えるのは、敵でも味方でもないってこと位かしら?それじゃ、私達はこれで」
何時もは、物をはっきり言い過ぎる位のレベリナも、言葉を濁し、ラニアの事にははっきりと触れようとはしない。
ウェリカも、困った様に無言で微笑んでいる。
そのまま、彼等は自分達の空間へと引き上げて行く。
いや、十分敵だろう・・・。
自分のへし折られたあばらに手をやり、プログノスは腹の中で突っ込みを入れる。
そのまま、プログノスはマティス国に滞在し、休養する事となる。
ルクサリオも看病の為、その側に残る。
フォルクと縁は、何も告げずに出てきてしまっている為、事情の説明に、一旦人間界に戻って行く。
フィアとディールは自国の為、表向きは普段通りの生活をしながら、ドラグーン達の連絡を待つ事となる。
この国の皇女のジーナが不在のまま、数日が何事もなく過ぎ去って行く。




