第一場「舞台袖」
物心ついた時から、ゴミ拾いで生計を立ててきた。
薄暗い明け方から宝探しに奔走しても、実入りは僅かしかない。
今日を生き抜くのに精一杯だ。
この街では、それが普通だ。
俺たちは、見捨てられた存在だ。
その象徴とも言える場所、機械の墓場。
そこに転がる、足がちぎれた配膳ロボット、腕がもがれ配線がむき出しになった給油機。積み上げられた壊れた機械の山は、さながら死体置き場のようだ。
いつからそこにあるのかは、誰も知らない。
ここは壁の外、「環外」。
都市に要らないと決められたものは、人も機械も、ここに捨てられる。
*
「朔、そっちじゃない」
青みがかった灰色の髪をした少女が言った。幼なじみの音羽だ。
淡い水色の目。大きめのジャケットが風になびいている。配線むき出しのヘッドホンは俺がプレゼントしたものだ。
「こっちのこの子、まだ生きてる」
俺は音羽が言う場所を探った。
「当たりだ。これなら、しばらく食いつなげる」
壊れかけの機械の胸から、まだ使える駆動モーターが出てきた。
「良かった」
音羽は、ほっとしたように笑った。
音羽は、不思議な力が使える。機械の声が聞こえるという。幼い頃から耳を押さえていた。具合が悪そうにしていたので、機械の声を少しでも遮るためにヘッドホンをあげた。
力を持つのは、環外ではめずらしい。戦争と暴動の時代が終わったころから、都市の人間は遺伝子を操作して、便利な力を使うようになった。
俺にはそんな力はない。――少なくとも表向きは、そうなっている。
「ドローン」
微笑んだ頬を、今度はひきつらせて音羽が言った。
雲の切れ間から差し込む朝日を背景に、数台のドローンが近づいてくる。
「隠れろ」
俺は低い声で音羽にそう告げ、自らも瓦礫の下に隠れた。
見つかったところで、どうってことはない。ただ、記録されるだけだ。でも俺には、それすら避ける理由があった。
「行ったね」
音羽が乱れた髪を整え言う。気づけばドローンは何事もなく去っていった。
空を、灰色の雲が覆っていた。
今朝と同じような曇天の冬の日、俺たちはこの辺りにやってきた。俺たち以外の年長組も同じだ。俺は覚えていないが、そう聞いている。
その日以来、捨てられた子どもたちは源爺のもとで育ってきた。
俺を除いた年長組はみな、なぜか変わった力が使える。
人前でその力を見せるんじゃない、と源爺が事あるごとに言うのは、環外では目立つため。そう思って生きてきた。あの日、あの事件が起きるまでは。
*
ガラクタ市は、今日も喧騒に包まれていた。だが通りをいく人々の顔に希望はない。ここの人間は、みな分かっている。どれだけ努力しても、何ひとつ変わらないことを。
通りを一つ曲がったいつもの店で、部品屋の親父は不機嫌そうに立っていた。
「いくらになる」
汚い机の上に駆動モーターを差し出し、俺は言った。
「パン二つだ」
親父は俺の目を見ない。
「バカ言うな、四つだ」
反対に俺は、親父の様子をじっと見ながら言った。
「……三つだ」
親父は親指で人差し指の付け根をこすりながら口ごもる。嘘をつく時の癖だ。
交渉には、相手の本心を読む術が必要だ。人を見る目は、この辺りで暮らす中で自然と養われた力だった。このモーターは、もっと価値がある。
「なら、はすむこうの婆さんの店に持ってく」
俺はモーターを拾い上げた。
「チッ……四つでいい」
親父は悔しそうに舌打ちした。
*
帰り際に、通りの向こうが騒がしくなった。ゆっくりと、黒い制服に身を包んだ大男が歩いてくる。胸にはアーク保安局の紋章。
男を避けるように人波が割れた。
「どけ」
俺は、すれ違いざまにチラリと男の方を見た。視界の端が冷える。目に銀の輪が浮かんだ。
【身体強化型】
いつからだろう。能力を持つ人間を見ると、俺の目に映るようになった。能力が見えたところで、俺の日常は何も変わらない。役に立たない力だ。
「朔、顔が白いよ。大丈夫?」
音羽が心配そうに見上げていた。
「ああ、何でもない」
男が過ぎ去ると、付近の店内でチラついていた明かりの揺れがおさまった。
能力者は機械をくるわせるノイズ(能力波)を出す。強い能力者は、膨大な波を出すため、周りの機械は機能しなくなる。
だがなぜか俺は、能力を使っても波が全く出なかった。
*
俺たちの家、旧駅舎に戻ると、首を長くして待っていた子どもたちに囲まれた。
「サクにぃ!オトねぇ!」
屈託のない笑顔で、ナナが出迎える。
「待たせたな。源爺は?」
「出かけてるみたい」
俺がナナの髪をなでると、ナナは嬉しそうに俺たちの手を引っ張った。みんなと一緒に旧駅舎へ入る途中で、ナナが気になることを口にした。
「明日、市場に保安局の偉い人が来るんだって」
「偉い人?」
「『演出家』って呼ばれてる人。子どもたちを調べて回る、って噂がたってる」
俺は不意に立ち止まった。そしてナナに、強い口調でくぎを刺した。
「明日は、何があっても絶対に市場に近づくな」
保安局には関わってはならない。五年前、俺はそれを嫌というほど思い知った。
俺は、舞台袖の人間だ。
主役は都市のやつらで、環外の俺たちは脇役ですらない。
だが、それでいい。
主役は目立つ。誰かに目をつけられたら、奪われる。
奪われないためには、誰にも気づかれてはならない。
この目のことは、誰にも言わない。
見上げると、まぶしい都市の中心部に方舟塔がそびえていた。
曇天の空を突き刺すように、白く、高く。
はじめまして、コッシーです。初めて書いた小説です。今日から毎日19時ごろ更新していきます。
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