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SideStoryⅢ:翡翠の森の聖女

【アニマ】の世界は獣人が住まう場所。

 その世界に人間が存在するようになったのは数百年前……女神によって、女神の分身としてひとりの女性がとある森で目を覚ました。


「……仰せの通りに女神様」


 祈りの力を除き、女神は直接自分の世界の住人に手を下すことが出来ない、それは神の理だった。

 各地で争いが起こり始めた混沌の時代、祈りの力だけでは世界を保つことができない状況へ陥っていた。

『直接でなければ』と理由を付け、この世界で生まれた人間が初代【聖女】のヒスイだった……癒しと浄化、そして少しばかり攻撃的な力を宿らせて。

 森から飛び立ち各地を見て回るヒスイは心を痛めた。

 血の匂い、肉が焼ける臭い……世界中すべての場所から死の煙が上がっていた。力ずくで抑え込むことは出来ればしたくないと……それは女神の思いでもあった。

 まずは各地域での有力者の言い分を聞いて回った。

 領主の子供が病に侵され、別の領主から薬を譲り受けたが間に合わず死に至った。

 原因は病であったはず、だが、毒を盛られたとふれまわり関係を悪化させ、あらぬ噂や疑いがはびこり、段々と取り返しがつかないほど大きくなり……世界を巻き込む争いへと発展してしまった。

 お互い心を持つ者同士の収まらない感情から始まってしまったのだ。

 言い争いで終われば……力を持つ者同士だったが為に……長く続いている戦いはもうなんのために戦っているのかわからくなっていた。


「俺はもう殺し合いはしたくない……本音はそうだが終わらせる力を俺は持っていない……悔しいよ」


 世界を見て回る途中であった傷つき倒れていたひとりの獣人の男を介抱することにしたヒスイ。

 はじめに目覚めた森の中に小さな小屋を建て、運び、傷を癒し、話をした。


「不思議な場所だ……どんどんと暗闇に落ちていく心が嘘のように洗われていく……」

「うふふ……好きなだけここにいてもいいのよ……レーヴェ?」


 森の中は外界の争いの息がかかることは無かった。なぜなら女神がそこに自分の祈りを込めた宝石を埋め込んだからだ。戦いから離れ、ヒスイと過ごすうち……レーヴェは彼女に恋をした。

 それはヒスイも同じだった。

 ある晩寝屋を共に過ごした翌朝、レーヴェは静かに寝息を立てるヒスイの額に口づけをして別れを告げる。


「君のためにも終わらせてこよう……この戦いを」


 ヒスイが目を覚ました時、彼の姿はすでに無く……戦場へ戻ったことを理解した。


「あなたの為にも……この戦いを終わらせなければ」


 一番激しく、最後を思わせる総力戦が始まった。

 なんのために戦い、なにを求めて相手を殺すのか……わからないまま血を流し命を消していく。


「女神の名の元に!!」


 戦場のど真ん中……その上空から響き渡るヒスイの声。剣と拳を交えていた獣人たちの動きが止まる。

 激しい紫炎の稲妻は牽制だった。命を落とさせる力ではなかった。

 地上に降り注ぐ稲妻を浴びた獣人たちは姿を変え獣となった。

 全員の姿が変わったことを見届けたヒスイは祈りを捧げた。


「争いに意味はない、傷つける必要はない、手を取り合い助け合いを……女神の願いを聞き入れて……」


 降り注ぐ浄化と癒しの力……戦場は輝き、獣の姿から元の姿へと戻ると地面に武器を落としていった。

 女神に許しを乞う者もいれば、力なく膝をつくもの……傷ついた体が癒された奇跡に感動し涙を流す者……たくさんの人々が争うことをやめ、いつの間にか戦場から人は居なくなり……残ったのは間に合わず命を落とした者たちだけ。少しずつ保護され、故郷へ返還されるだろう……ヒスイは上空から長い時間見守るしかできなかった。

 これ以上の力を獣人たちに与えてはならない……女神の声が聞こえていたから。


「レーヴェ……あなたはどこへ帰るの?……ねぇ……答えて……レーヴェ……」


 滴が落ちる……空は晴れ渡っていた。


 **********


 森に戻り半年、小屋をでたヒスイは森に宿っている女神の祈りがこもった宝石を掘り出した。


「私の役目は終わりましたよね?……女神様……だから……」


 自分の背丈を越える大きさの宝石を紫炎の稲妻を呼び細かく砕き、森全体を守るようにと散らばらせ、力を拡散させた。その日から時折聞こえていた女神の声が一切聞こえなくなり、森の様子が変わっていった。


「あなたを守る為にと思ったけれど……まさかこんな効果が現れるなんて……」


 大きくなってきたお腹をさすりながら優しく声をかける。


「行き過ぎた力はもういらないもの……ここで静かに暮らしていきましょう……それでいいわよね?レーヴェ……」


 女神の代行者【聖女】ヒスイはレーヴェと過ごしたこの森で生涯を過ごすことを決めたしばらく後、森に住む小動物たちに見守られながらひとりのかわいい女の子を産んだ。

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