EndingStoryⅠ:新たな国【サイース】
大昔に【聖女】の力で世界が新しく平和に豊かに生きていけるように……その願いが消えることの無いよう、当時の獣人たちは話し合い、立ち上がり、地域の環境に適した者同士で集まり、開拓し、国を築いてきた。
平民層は出会いが多く、別の国の種族で婚姻を結ぶことは珍しくなかったが、国を治める立場にある王族たちは、基本的に同種族で家族を作り、繫栄してきた歴史があった。
世界に平和が戻ってから2年の月日が経ち、その歴史が今、変わろうとしていた。
新たな国の名は【サイース】
高く築き上げられていた国境の石壁は撤去され、豊かな作物を生む広大な森と、恵みを生む広大な海まで……ひとつづきの国となった。
花嫁の要望に応え、結婚式の会場は王妃ミケの宮殿。
【イース】と【サウス】の民たちは、1か月間に及ぶ婚礼の祝祭に参加すべく集まり、類を見ない程の人口が都に集まっていた。
結婚式の参加者は王族とその関係者の一部で執り行うのがしきたり。それは、どこの国でも同じだ。
本来民たちは式に参加はできないが、今回は世界を巻き込んでの大イベントと言っても過言ではない。特別な対応として、無条件で主役である王妃ミケとヴァルロス王への謁見が許され、門は常に開かれていた。
長く長く続く謁見の列は、1日の謁見の時間が終わっても無くならなかった。
「ミケよ、さすがに疲れているんじゃないか?」
謁見の間から下がり、自室へ戻った王妃ミケを労うヴァルロス王。
「疲れを感じるなどと……日々わらわたちに向けられる祝いの言葉……そのすべてが心も体も幸せで満たしてくれるもの。こうして民の声を聞けるようになったのは、そなたのおかげじゃ」
「嬉しい事を言ってくれるなミケ……だがそれは違うぞ?お前の民を思う心が間違うことなく民に伝わっていたからこそ、今があるのだ……ミケ……ワシの妻になってくれたこと、心から感謝する」
朝から日が落ちるまでずっと……謁見の間で座ったまま、幾人もの民と対話するのは誰であろうと疲弊するものだと思っていたヴァルロス王。王妃ミケの言葉を聞き、長年思いを募らせていた……その愛しさがさらに増していくのを実感する。
「ヴァル……」
「うん?」
王妃ミケはそっとヴァルロス王に抱き寄せられ、大きな胸に頬を押し当てながら……。
「ふたりきりの時は……?」
「うっ……いやでも……しかし……」
なぜか詰められ顔を赤くするヴァルロス王。
「ヴァルちゃん?」
「み……みーちゃん……」
「んふふふ」
満足げに笑った王妃ミケは床を軽く蹴り、トンっと少しだけ飛ぶと、ヴァルロス王の頬にチュッと軽くキスをして湯あみへ向かった。
「惚れた弱み、か……慣れるほかあるまいな」
国を治める者として働き続けてきたふたりは、自分の婚姻や跡取りの事は二の次であった。だからと言って、誰かに好意を持たなかったわけではない。実際のところ、王妃ミケもヴァルロス王に好意を持っていたのだから。
忙しく、慌ただしく政務をこなし過ごす中で、それを言葉にすることも、表現することもできずにいただけで……あの日、自分の命を顧みることなく救おうとしてくれたヴァルロス王の声と、抱かれることの温かさを知ったことで花開き……そこそこの歳をとってしまっていた者同士ではあったものの、今までの反動なのか、相当なイチャイチャラブラブ生活を送るほど仲睦まじくふたりきりの時間を堪能していた。
「ヴァルちゃ~~ん?」
「は、は~~い!みーちゃ~ん?ど、どうしたのぉ?」
「いい……湯加減よ……?」
「~~~~っ……!」
顔面を手で覆いながら近づく……浴室の入口にかけられたカーテンから華奢で美しい手で誘う王妃ミケ……手を取り、少し強引に引っ張られながら招かれるヴァルロス王。
「ゆっくりしましょう、ね?」
告白をしたのは自分であったものの、振り回されるのは王妃ミケではなく――。
そんな日々を過ごしながら迎えた祝祭の最終日。盛大な結婚式が執り行われ、王妃ミケとヴァルロス王は多くの民たちから祝福を受けた最幸の夫婦となり、【サイース】の初代の王と王妃となった。
愛の無い和平の為だけの結婚ではなく、愛を持って平和を誓い、民に捧げる結婚。
ちょっとだけ溢れすぎた愛を受け、充実した日々を送りながら……【サイース】はこれから先、末永く繫栄していくことだろう。
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