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28.5:【紫炎の魔女】と【聖女】

 誰もが夢見るようなお姫様が暮らす部屋……そこで対面した。


「ごきげんよう……魔女さん?」

「初めましてですね……【紫炎の魔女(リラ・ウィッチ)】さん」


 お互い笑顔でありながら……バチバチという効果音が似合う……そんな雰囲気の中挨拶を交わし、しばらくして運ばれてきたお茶を勧められるイサネ。


「……どうぞ?召し上がって?」

「それはどうも……フゥンッ!!」


 その手では飲めないでしょ?と笑う【紫炎の魔女(リラ・ウィッチ)】に対し、イサネは怪力で手枷を破壊して見せる。さすがに驚いてお茶を吹き出していた。


「……この国の王妃になられるんでしょう?少しマナーが悪いんじゃないですか【紫炎の魔女(リラ・ウィッチ)】さん?」

「……ごく普通の反応でしょう?それに……王妃なんて興味ないもの……あとねぇ?私のことはユヅキって呼びなさい?」

「ユヅキ……そう……私はイサネと言いますが呼んでもらわなくても結構ですのでご自由に」


 ピリついた空気の中では高級なお茶も味がしないだろう……無言のまま時間だけが過ぎていく。


「あなた【ノース】から来たのよね?知ってるかしら?大きな雪崩で町や村がのまれていってること」

「……それもユヅキさんがしたことですか」

「どうかしら?私はちょっと白い熊の獣人とお話をしただけだから……?」

「そうするように術をかけたということですね?わかりました……殴っていいですか?」


 笑顔で拳に力を込めるイサネをみて少しだけ慌てるユヅキ。もちろん殴っていいわよなんて返事がもらえるわけはなく……


「そ、そんな態度をとっていいのかしら?すぐに兵を呼ぶわよ?今のあなたは魔女……簡単に処刑に……」

「やれるものならやってみてください?グラウ様がすぐ飛んできて助けてくれます!今だってもうすぐ王様を連れてここにくるんじゃないですかね?」

「バカ言わないで頂戴?ああなってしまった王がそう簡単に……なにかしたわね?」


 イサネはニコニコとしたまま残ったお茶を飲み干した。


「それは内緒です……女神様を困らせた自分が悪いと後悔してください」

「なによ……なによなによ!!私のどこが悪いっていうの?ただ綺麗なままイケメンと結婚できてお金にも困らず楽しくすごせて……あとは――」


 とんでもなく自己中でわがままな願いが次から次へとでてくるユヅキ。

 勝手に違う世界に連れてこられたのだからこれくらいは……と、後々考えれば当たり前といえばそうかもしれないが、イサネは自分がしたお願いとの違いに呆れていた。


「神社の神様だってそんなにお願いされても叶えてくれることはないじゃないですか……目の前に神様が現れたこと事態が奇跡で普通はそこまで頭が回らないとは思うんですけど……結構図太いんですねユヅキさんって」

「誰ががめついですって?」

「言ってないです……そんなんだから女神様に嫌われちゃったんですよ?」


 ぐっと口をつぐみ、悔しそうな顔をするユヅキ。

【聖女】として名を轟かせたい、自分を認めさせる、もてはやされる……この世界で生きるためには必要なことだと思っていた彼女は、あっけらかんと【聖女】に対して思い入れが無いように感じさせるイサネに苛立っていた。


「……グラウ様……まだかなぁ……」


 いつの間にか窓際に移動して外を眺めているイサネ……ぽつりと呟き、どこか愛おしそうに遠くを見つめている。その姿を見たユヅキはフッと笑う。


「(……ふうん?そういうことぉ?……なら――)」


 イサネの後ろに立ちユヅキは言った。


「私もあの男……いい男だと思っていたわ……乗り換えちゃおうかしら?」

「なに言ってるんですか?グラウ様はユヅキさんをお嫁さんになんかしませんよ?自分で言ってましたし

 」

「あらそうなの?でも……私を『見た』ら心変わりするかもしれないわ……ねっ!!!」


 ボッとイサネの足元が燃え上がり紫炎がロープのようになって体を縛りあげる。


「とんでもない力を持ってしても……術には効かないんじゃないかしら?」

「熱くないのはありがたいです……もう少し緩めちゃくれないですか……?」

「聞こえないわねぇ……特等席にご案内してあげるんだから我慢して頂戴?」

「特等席……?」


 ゆっくりと扉に向かって歩くユヅキがくいっと人差し指を動かすと、イサネの体は引っ張られバランスを崩し……転んだまま引きづられ廊下に出た。


「私とグラウ様が結ばれる姿を見せてあげる」

「……そんな簡単にいきませんよ?」


 行き来する兵も、召使も、メイドも……ユヅキの行動を止める者はいなかった。

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