16:………本当に?
【ウェスト】の国境付近までヴァルロス王に案内されたグラウとイサネ……水中以外の集落と呼べるものはここ……【ヴィヴァの町】のみ。水中に多くの町や村が集まっているのは種族のほとんどが魚や水中を好む獣人たちだからだそうだ。交易の拠点となっており、とてもにぎわっていた。
「ここは水陸両方で暮らすこと好む民たちが住んでいる。働き者で賢い者たちばかりだ……【ウェスト】ととは……一応友好的に交流している、数日ならここで安心して過ごせるだろう」
「一応……ですか?」
「魔女絡みで、な」
「なるほど……ヴァルロス王様、ご一緒に食事をしながらお話しませんか?」
イサネの提案に同意し、近場の食堂に入る。道中話をしながらゆっくりと……と考えたが、国土のほとんどが水中の為、国境までの陸移動……特に【ウェスト】側に向かう場合は30分もかからない距離だった。ひとつだけ確認して、国境を目指した……「【紫炎の魔女】は【ウェスト】にいる」ということを。
「……やっと……着心地がいい」
「サラッとしたいい生地ですよね!ヴァルロス王様ありがとうございます!」
「いやいやかまわん……危険な目に合わせたせめてもの詫びだ……もっとも…………これからもっと大きなものを返せたらと思っていますよ【聖女】様」
「変にかしこまらないでください…………イサネで!」
「ははは!!そうかそうか!では……仰せの通りに……?」
少しふざけながらヴァルロス王と卓を囲み、久しぶりにゆっくりと腹を満たせる……と、料理に舌鼓を打ちながら詳しい話を聞いた。
「おとぎ話……【聖女】伝説……それが今現実となった……イサネと【紫炎の魔女】の存在によって証明されてしまったな」
浮かない顔のイサネを少し心配そうに見るグラウは、まだ目の前の奴隷であったか弱き存在が【聖女】であることが信じられないでした。確かに癒しの力を自身も受けたことはあるが、それがこの世界で唯一の【聖女】の力なのだとは思っていなかった。
「………本当に?」
「グラウ様……まだそんなこと…………本当に…………鈍い」
「ハハハハ!!……イサネ……苦労しただろう?こいつの鈍さは筋金入りだからなぁ……ワシも苦労したもんだ……」
「ですよねぇ?!」と、何故かグラウをいじりながら話が盛り上がってしまっている。さすがのグラウも耳がぺしょりと沈んでしまっていた。
「すまんすまん……真面目に話をしなければな」
木のジョッキに入ったエールを一気に飲み干し、ヴァルロス王はなぜ自分が【紫炎の魔女】の術にかかったのかを教えてくれた。
数カ月前突如都に降り立ち謁見……その時目があった一瞬で術に落ちた。
思考を支配され、自分の意志に反して行動してしまうようになり、【イスト】との関係も【ウェスト】との関係も変わってしまった。しかし、年の功……戦いや種族の様々な特殊な力の知識……経験の差からの強い意志で時折意識が正常に戻っていた。新天地を開拓し始めていたのはそのおかげであった。
術に支配されてる間の記憶は無くなっていたが、イサネの力を受け、自分がなにをしてきたのかがフラッシュバックしたという。
「ワシの種族は水を自在に操ることができる……その意味が解るか?」
「……水の減少を……ヴァルロス王が…………?」
「その通りだ……気温の上昇はわからないままだが……満ち潮の期間は水を塞き止め、引き潮の期間は減少を助け……自分の力で国を危険にさらしてしまっていたとは情けない……………」
肩を落とすヴァルロス王に寄り添い、イサネは背中をさすっている。
「【イスト】のミケ王妃も同じような状況を作らされていました」
「自分の手は……汚していない……が……兵を動かし……村を消していった……」
「なんと……時折見えていた黒煙は村を焼いていたのか?なんということを……彼女は……ミケは少し気難しくわがままな性格ではあるが可愛らしく優しい女だ……民を見る目は慈愛に満ちていた……術が解けた後……心を壊してしまわないだろうか……」
国を治める者に自分の国を壊すように術をかける【紫炎の魔女】。目的は単純におとぎ話を現実にするだけなのか。
「……術にかかっている時……魔女のことを……美しいとか言っていたのは……?」
「あ、それ!私も気になりました!確かに絶世の美女っていうのはよく国をかき乱す時の中心になっていることが――(…………いやこれは私の国の歴史上の話か……)」
「いやその話……一理あるやもしれんな……【紫炎の魔女】は――」
【紫炎の魔女】の思惑……それは――。
グラウ王子(34)、ここまで約3日間上裸で過ごす。




