第76章『ヒトと共に有りし大いなるもの』
雄々しく立つその勇姿。
見上げる胸中に去来する想いは——
『カッコいい!!』
ばさの先導により訪れた宿屋の裏手には、眼を見張る存在が待ち構えていた。
それは、見るからに頑強そうな赤みがかった鮮やかな黄色い鱗で覆われていた巨大な生物だった。
強靭な二足にて己が巨躯を支え、鋭く光る真紅の瞳は王者としての威光を宿しているように感じられる。
口の端から覗き見える強靭な牙やその前肢に携えられた鋭利な爪は見るものを震え上がらせるのに十分な獰猛さを醸し出している。
だが、それが放つ泰然自若とした様子に、恐怖心よりも偉大な存在に対しての畏敬の念が湧き上がってくるのを感じる。
◆
「「すっ——ご〜い!!」」
その威容を前にして、すのぴとハラミが目を輝かせて感嘆の言葉を張り上げている。
全高5メートルを超える巨体を仰ぎ見る二人から賞賛の声が飛び交う中、他の者達も声を上げて騒いではいないが、各々が色めき立っているのが肌で感じ取れた。
その光景に彼のパートナーとしてつい鼻高く感じてしまう。当の本人が騒ぎ立てるすのぴ達のことを些事であると全く気にしていない様相なのだが、そんな彼の代わりに誇らしく感じてもバチはあたるまい。
ただ、いつまでも悦に浸っているわけにもいかないので、わざとらしく咳払いをして注目を集める。
「どうですか? 彼こそが俺のパートナーにして、由緒ある血を引くとされる——」
「地龍のグラン」
「とらさん? 人のセリフ盗らないでくれます?」
いつの間にか横に並び立っていたとらが割り込むようにして、その存在の名を告げた。
本来であればこちらに向くはずだった意識が、隣の彼へと集中される。
——ほんとこの人は!
毎度のことながら、この話題に関して熱が入り過ぎる節がある。
折角のセリフを奪われた反感はしかし、彼の持つ熱量を知っているが故に逆に誇らしくさえ感じられる。
仕方ないですねと、内心で嘆息して説明の役をとらに譲ることにした。
「地龍ってのは東領に生息する龍種だが、イースデンでは特に神聖視された存在でもあるんだ」
「神話に語り継がれる存在の子孫、でしたね」
と、生物学者としての見識の深さを垣間見せたぽーの言葉に、とらがどこか得意げに頷いてみせる。
「太古に起きた戦乱の中、翼をもがれ地に墜ちてなお人々を守り続けたもの——臥龍の末裔がこいつってわけだ」
そう告げるとらに応じるようにグランが短く喉を鳴らすと、再度すのぴとハラミから歓声が上がる。
そんな二人の傍らで、何かに気付いた様子のバニラがそっと言葉を零すのが耳に届いた。
「臥龍という名——とらさんの戦技にも使われておりますわね」
「確かにそうだね。彼もイースデン育ちらしいし、そういう流派があるんじゃない?」
と推測を口に出したレインに対して、とらが一瞬言葉を詰まらせるのが見えた。
やはりこの流れになるか、と思わず苦笑が漏れる。
とらもこうなると分かっていただろうが、
——語りたかったんですよね……
彼の様子を微笑ましく眺めていると、口をもごもごとさせたいたとらがしかし、照れくさそうに頬を掻きながらも、はっきりと宣言してみせた。
「俺が考えたんだよ」
『……え?』
自分ととら以外の者の声が重なるのが聞こえた。
すると、とらは半ば自棄になりながら声を張り上げる。
「だ~か~ら~! 俺の戦技は俺が編み出して俺が名付けた、っつってんだよ!」
とらの発言に、面々が意外そうに目を丸くしていた。
しかし、とらの心情を知る身としては何も不思議に思うことはなかった。
イースデンの首都オリエンスには臥龍を称えるために作られたとされる巨大な像が存在する。
実物大とされる臥龍の像とその周囲を取り囲むように立つ地龍達の像を見上げながら、臥龍とその子孫たる地龍に対する憧れを語ってみせたとらの姿は今も鮮明に覚えている。
普段は斜に構えたような性格だが、臥龍について語るその眼差しは、どこか少年のような純粋さを感じさせられ、とても印象的だったのだ。
傷付きながらも最後まで人々を守り続けた勇姿に憧れると語った彼が、自らの技にその名を刻むのは当然の帰結のようで——
「あらあらまぁ! とらさんにも随分可愛いところがありますのね!」
普段の彼を知っている者からすれば、格好の弄られるネタになるのは疑いようもなかった。
微笑ましいものを見る目がとらに注がれ、それを鬱陶しそうに撥ね除けようとしているが当分はこのネタでからかわれるだろう。
——まったく……
臥龍のことを話せばこうなることは分かり切っていたはずだ。
それでも率先して皆に伝えたというのは、とらとしても好きなものを誇りたいという気持ちがあったということなのかもしれない。
臥龍——その末裔である地龍と友好を結ぶ自分からしても、とらから向けられる尊敬の念は嬉しく感じられるものだ。
そんな彼の心情を感じ取っていると、思わず笑みが零れてしまう。
「おいこら、ばさ! てめぇもなに笑ってやがる!」
目敏く見つけられてしまい、矛先がこちらへと向かう。
絡まれると厄介なので、それを打ち消すように手を叩き、出立を促す言葉を送る。
「さぁ! 先を急ぐんでしょう? どうぞ、東領名物の龍車にお乗りください!」
お読みいただきありがとうございます!
やはりファンタジーであれば、ドラゴンの存在は欠かせませんね!
新たな仲間が加わり、すのぴ達の旅は益々賑やかになっていきます。
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