第49章『Encounter × Reunion』
交わる運命を、何と呼べば良いのか——
『ようやく会えたな』
世界樹の領根内部。
複雑に入り組んだ迷宮区画の一角に、数千メートルを誇る領根を縦に貫く<大空洞>と呼ばれる吹き抜けが存在していた。
最上層から最下層までの移動を可能とするそこは、迷宮区画であることを忘れさせるのに十分な広さを有していた。
その最下層にあたる領域で、熾烈を極める衝突が繰り広げられていた。
◆
「クソッ! 何なんだこいつは!」
巻き上がる粉塵を鬱陶しそうに払い除けた男が、眼前で猛威を振るう巨体を見上げ、睨み付ける。
巨大過ぎる胴体から伸びる九つの首を縦横無尽に振り回し、ソレはこちらを蹂躙しようと暴れ回っていた。
対するこちらは六名と限られたチーム編成であるが、誰もが腕に覚えのある手練れである。
本来であれば、ヒュドラに対して後れを取ることはない。
しかし、現実はどうであろうか。
未だ被害は皆無に等しい。
だが、皆の疲弊は色濃い。
それでいて相手は消耗している素振りすら見せていなかった。
大木の如き首を切り落とし、戦力を削いでいると思えていたのは、戦闘が始まって数分間に限られていた。
どれだけ首を断ち切ったとしても、驚異的な速さで再生する様を見せ付けられ、皆の表情が焦燥感に染まっていくのに時間は掛からなかった。
「まただ! どれだけやっても堪えやしねぇ!」
それでも果敢に挑み、再生の限界を信じて攻撃を重ねる。
だが、先の見えない闇に蝕まれるかのように、焦燥はやがて恐怖へと塗り替えられていこうとしていた。
——もう、限界か……!
このまま無策で立ち向かった所で状況が打開出来るとは、到底思えなかった。
少しでも相手の情報を得られればと戦線を維持するように努めていたが、それも限界を迎えようとしていた。
目的の相手を前にして、歯痒さに奥歯を噛み締める。
「——ッ! 撤退だ!!」
これ以上は無理だ。
張り上げた声に滲んだ焦燥感に情けなさを覚える。
こちらの指示を聞き入れた仲間達が、即座に動きを切り替え、大空洞の端に点在する通路へと駆け出す。
魔法に長けた仲間が、転進と共に相手の周囲へと攻撃を放ち、砂塵を巻き上げて煙幕を張る。
九つある頭部のいくつかはそれにより視界を覆われ、こちらを見失っていたようだが、相手が巨大過ぎるため、全身を覆うには至らなかった。
煙幕を免れた頭部が一斉にこちらの動きを捉え、全身を以て突っ込んでくる。
まるで山そのものが押し寄せて来る威圧感に恐怖の声を漏らす者も出てきた。
互いに鼓舞し合い、すぐに気を持ち直して各々が戦技や魔法を放ち、巨体を押し返そうと試みる。
仲間達が放った力の奔流が相手の首を弾き飛ばし、胴体が露わになる。
そこへ、拳へと溜め込んでいた渾身の力が大気を鳴動させ、崩壊の一撃を叩き込む。
「——咆天烈波!!」
猛き獅子王が放つ咆哮が、天を震わす力として奔る。
無防備に晒された胴体に直撃した闘気が、体表を裂き、骨肉を砕いていく。
相手が苦悶の悲鳴を掻き鳴らすが、それも束の間、与えたダメージが見る間に修復されていく。
残ったのは、害するこちらに対する敵愾心だけであった。
それに対して、落胆はない。
やはりか、という諦観だけが残る。
怒りを増した相手が進撃を再開し、こちらへと迫ってくる。
仲間達が通路へ退避するまで——残り数十秒。
だが、巨体のスピードは上回り、通路へ逃げ込む前にこちらへの攻撃を再開してくるだろう。
ならば——
「何をやってるんですか!?」
仲間の一人が悲鳴にも似た叫びを上げる。
視線は迫る巨体を捉えたまま、
「走れ!!」
端的に、そして言外にこちらの意図を示す。
「しかし——」
「必ず追いつく! だから——生き延びることだけを考えるんだ!」
尚も言葉を重ねようとするのを遮り、先に逃げるよう背中を押す。
こうすれば、少なくとも五人は確実に逃げ切れる。
聡明な仲間達のことだ。
一度迷宮区画を脱し、総本部に増援を要請してくれるだろう。
責任を押し付ける形になるが、ここで全滅するよりかはマシだ。
——損な役回りだな……
苦笑混じりのそれは、果たして声に出ていただろうか。
そんなどうでも良いことを考えながら、迫る巨体を睨み付ける。
「掛かって来い!!」
叫び、迎撃の構えを取り、そして——
「臥龍堅殻・破穿甲刃!!」
敵の巨体がこちらへと到達することはなかった。
◆
上層から飛び降り、着地と共に放った戦技によって地面から馬上槍を模した隆起が無数に出現する。
完全に虚を衝いた一撃に相手は為す術もなく、その巨躯を貫かれていく。
飛び散る魔血と共に、大空洞内に悲鳴とも怒号ともつかない金切り声のような叫びが反響する。
自ら架してしまった拘束を振り解こうとするが、無数の地槍が身体を縫い止めてしまっており、脱出には時間を要するようだった。
——あの時のTOIKIみたいだな……
妙な懐かしさを覚えたが、あの時と同様であれば、この相手も回復力頼りに無理矢理抜け出してくるだろう。
「と、とらさん!?」
などと考えていると、背後から驚愕に震えている声が聞こえて来る。
随分と久し振りではあったが、聞き慣れた声を間違えることはなかった。
声の主へと振り返り、わなわなと震える指先をこちらへと向けている相手を見下ろし、
「久し振りだな、ローウェン——取り込んでる所悪いが」
幾分か逞しくなった後輩へと声を送りながら、悶え苦しみ続けている相手——本来有り得べからざる行動を取る変異種と化したヒュドラへと視線を鋭くし、
「俺達も、こいつに用があるんでな——手ぇ貸させてもらうぜ」
お読みいただきありがとうございます!
少しでも気に入っていただけたり、続きが気になるなぁと感じていただけましたら、幸いです。




