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第34章『通行止めの宿場町』

 進む先は見えていても、封じられているなら回れ右?

 苦難を払い、最短の道を行くために——

『前進あるのみ』

「迷宮区画前の宿場町が見えてきました」


 橇の振動に揺られ、流れる景色を眺めていると、御者の青年から声が掛かる。

 ニーズヘッグの野営地から二時間程の道のりは何事もなく過ぎていった。


 ——一部を除けば、ですが……


 途中からは意識の外に追いやっていた光景を伺うと、出発してからここに至るまで間断なく繰り広げられていたやり取りが今も続いていた。


「ほほぅ……オドに莫大なマナが蓄えられているわけではなく——」

「……………………」


 ぽーに隈なく観察——時には触診されているすのぴが辟易とした表情でこちらに助けを求めている。

 ワンダーラビットについて興味津々であったぽーが移動時間の余暇をこれ幸いとして、すのぴに対して質問を浴びせ掛けていたのである。

 最初は些細な質問に対して、すのぴが分かる範囲で答えていたようだったが、徐々にぽーがヒートアップしてきて矢継ぎ早に質問攻めにあっていた。

 流石にぽーが暴走しているように見えたので、熱が入ってきた時点で抑えるよう止めに入ったが、


『大丈夫だよ』


 と、すのぴが言うものだから、ぽーの好きにさせていたのだが、


 ——後悔先に立たず、ですわね……


 恐らく、すのぴの胸中も軽はずみの発言を後悔していることだろう。

 とらやレインはそれなりの広さがある橇上の端の方で膝を突き合わせており、契約内容の詳細や今後の行程について話し合っているようで、こちらのことには関せずといった様子だった。

 流石にこのまま放置というのは気が引けたので、仕方なくぽーへと声を掛ける。


「ぽー博士、そろそろ到着するみたいですので、その辺りで」

「おっと、もうそんな時間でしたか! では、この続きはまた後ほどということで」

「あ、あはは……」


 ぽーが名残惜しそうにしていたが、人前でワンダーラビットの話題を話す訳には行かないと理解してくれていたので、話を切り上げる。

 ようやく解放されたすのぴが乾いた笑みを浮かべているが、今後について明確に拒絶していないので、当分は隙あらば同様のやり取りが続けられるのだろう。


 ——嫌でしたら、断れば良いものの……


 と思わなくもないが、すのぴの性格からして一度許可を出したいたり、悪意を向けられていないということで断り辛いのかもしれない。

 損な性格ですわね、と内心で溜め息を溢して、視線を行き手へと向ける。


 山肌に沿って唸った道の先に、開けた場所が視界に入ってきた。

 小さな町程の規模で開拓されたそこには、建物が軒を連ねており、遠目にも人が行き交っているのが見える。

 このような光景は迷宮区画の入り口近辺ではよく見掛ける光景である。

 規模や建物の様式に違いはあれど、迷宮区画へ挑む、あるいは通過して他領へ渡ろうとする者達のために築き上げられたそこは、宿屋や道具屋等が商いに精を出している。のだが……

  

 ——それにしても多過ぎませんこと?


 自身の経験と照らし合わせて見ても、目前に迫ってきた人混みに違和感を覚えた。

 迷宮区画周辺の宿場町全てを網羅している訳ではないので、一概には言えないが、それでもここの人の多さには困惑するばかりである。

 ここはいつもこうなのかと、詳しそうなとらやレインに伺ってみるが、


「こんなに人が溢れてるのは、僕でも見たことないね」

「あぁ……何かあったみてぇだな」


 とらが視線を細め、宿場町の大通りの先——領根内の迷宮区画へと繋がる関所へと視線を注いでいる。

 つられてこちらも関所の方角を観察してみる。


 領根によって形成された山肌の中に異質な存在感を放っている関所——要塞と言っても過言ではない佇まいの建築物は、その中央に据えられた金属製の門扉を硬く閉ざしていた。

 迷宮区画内に存在する魔物が外に出て来ないように深夜など人手が少ない時間帯では珍しくない光景だが、今はまだ正午前で人の行き来が盛んな時間だ。

 現に関所前ではかなりの人だかりが出来ているようだった。


「とにかく向こうに行って状況を確認だな」


 とらが面倒臭そうに呟くのに、頷きを返す。


 大通りとはいえ、人で溢れかえっている中を大型橇を引いて進む訳には行かなかったので、御者の青年に礼を伝えて、この場で別れることにする。

 去り際にレインと言葉を交わしていたようだが、ニーズヘッグとして今後の指示を出していたのだろう。


 人波に飲まれて、すのぴが流されそうになるのを手を引いて誘導してやる。

 どうにか掻き分けて進み続けて、関所前に到着。

 近付くにつれて耳に届いてきたので予想は出来ていたが、どうやら関所が封鎖されており、それに対して抗議に来た者や封鎖解除の目処を訊ねに来た者でごった返しているようであった。


「おい、いったい何があったんだ?」


 事情を確認するなら関所を管轄している迷宮管理機構の職員に声を掛けるべきだが、彼らは押し掛けた者達の対応に追われて手が離せないようだった。

 とらが近くにいた行商人らしき人物に声を掛けると、


「なんでも中層域に深層域の魔物が紛れ込んだみたいなんだ」


 魔物は縄張り意識が強く、居着いたエリアから移動することは稀である。

 だが、皆無という訳ではないので、これだけの大騒ぎになっているということは——


「かなり強力な魔物、ということですのね」


 こちらの言葉に、行商人の男が大袈裟な程に頷いて見せた。

 深層域の魔物は、迷宮区画で最も濃度の高いマナの影響で強力な個体が多いとされている。

 その中でも一際強大な魔物が紛れ込んでしまい、中層域の出入り口が封鎖されているということなのだろう。


「その魔物の正体は掴めているのかい?」

「あ、あぁ……九つの首を持つ竜——ヒュドラ、らしい」



 ヒュドラ。

 それは太古の伝承に登場するような魔物である。

 長大な体躯に九つの首を持ち、猛毒の息吹を吐き出すことや傷を瞬く間に回復させる再生能力により、ギルドが定めた討伐難易度は上位のAランクとされている。

 だが、


「ヒュドラは深層域の奥深くにしか生息しないはず、なんですがねぇ」


 ぽーが不思議そうに首を傾げるのを見て、とらは同意の頷きを送る。


「マナの濃度の問題で深層域から出られないはず、だったよな」

「そのはずなんですが……もしかしたら、変異種ということかもしれませんね」


 変異種とは、従来の個体が何らかの影響を受けてその特性などに変化が生じた存在を指す。

 件のヒュドラが中層域のマナ濃度でも活動出来るようになっている、ということなのだろう。

 先の行商人の話に拠れば、そのヒュドラは何かを追い掛けるような挙動だったという話が流れているらしい。

 縄張りを離れて徘徊している理由として考えられるが、何を追い掛けているのかという肝心な所は不明であった。

 何にせよ、そのような化け物が場違いの領域に現れたとあっては、厄介極まりないことである。


 ——変異種は、従来の個体より能力が高くなってるからな……


 中層域を抜けるレベルの戦力では、蹂躙されるのが目に見えている。

 それ故に、余計な犠牲者が出ないよう関所を封鎖しているのなら納得がいく話で、迷宮管理機構の対応は何も間違っていない。

 ここに集まって不満を露わにしている者達も、その事は理解しているはずだが、


 ——足止めを食らうとなると、不満も積もるわな……


 行商人であれば商売の機を逃すことになりかねないし、レインのような傭兵であれば依頼の期日に間に合わなくて違約金を払わされることもあるだろう。

 そして、今の自分達もこのままここで立ち往生という訳には行かなかった。

 安全策を取るなら、浅層域まで迂回するべきなのだろうが、それでは半月以上余計に時間が掛かってしまう。

 かぷこーんとの事もあり、先を急ぐ必要があったし、


 ——知っちまったからには、な……


 我が事ながら、つくづく依頼請負人というのは大変な仕事だと思う。

 最初の頃は生きるための術でしかなかったが、今では遣り甲斐を感じてもいるし、なんだかんだと性にもあっているのだろう。

 ふと、視線が集中しているのに気付き、周囲を見回すと、すのぴやバニラだけでなく、ぽーやレインまでが一様にこちらを温かい目で見てきていた。


「……んだよ」


 見透かされいることに気恥ずかしさを覚え、睨み付けると揃って笑みを深くしてくる。


「流石、ギルドの英雄だねぇ」

「まだ何も言ってねぇだろ」

「ですが、()()()()()なんですよね」


 レインがからかうように、ぽーが念押しするように言ってくる。

 ったく、と悪態をつきながら頭を掻く。


「状況的にそうするしかないってのもあるが……良いんだな?」


 確認の言葉に皆が頷いてみせた。


「困っている人がいるなら助けないと、だね」

「とは言え、あまり時間を掛けてもいられませんし——迅速に行動あるのみですわね」

「ニーズヘッグの団長として腕の見せ所だね」

「ヒュドラの変異種……是非とも調べてみたいですね!」


 各々が意気込みを口にする中、ぽーのブレなさに苦笑が漏れる。

 意思決定が成されたことで、早速迷宮管理機構の職員を捕まえて、こちらの提案を告げると二つ返事で承諾を得られた。

 既にギルドから大勢の依頼請負人が派遣されていることもあって、話が通し易かったということだ。

 正式に依頼を受けたメンバーがいる以上、こちらはあくまで増援というスタンスで動けば良いだろう。

 こちらの事情もあるので、最悪対処は他の依頼請負人に任せることになるだろう。


 ——手を抜くつもりはないがな……


 ヒュドラの対処に掛けられる時間は長くても十日程である。

 本来の目的に支障が出ない範囲としてはこれが限度であろう。

 限られた時間ではあるが、遭遇した場合は全力で対処にあたり、それが難しいようであれば同僚達のために情報を集めて提供する。

 大まかな行動方針を打ち立てて、迷宮へと繋がる鉄扉——ではなく、立ち往生している者達を刺激しないよう、職員専用の通用口から関所内に案内され、そこから改めて迷宮区画内部へと足を踏み入れることとなった。

 お読みいただきありがとうございます! 


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