プロローグⅣ『騎士の名乗り』
気高き信条。
理が通じぬ相手であれど、その宣誓は高らかに——
『厄災を討ち果たさん』
黒衣の背中が瞬く間に離れていく。
男が放った言葉は断片的で、その意味を十全に理解したとは言い難い。
だが、目の前の光景と繋ぎ合わせて考えたら、
——人々を恐怖に陥れる厄災を討つ好機、ということですか!?
ならば、ここで自分が二の足を踏む理由はない。
全身に力を漲らせ、自身も宙へと身を踊らせる。
身体が大地へと吸い込まれていく。
背後へと置き去りとなっていく光景の中央、TOIKIがその足元ではなく、男を真っ直ぐ見上げているのを捉える。
まるで、男が飛び込んでくることを最初から分かっていたかのように——
まずい。
そう感じた瞬間、直ぐさま身を翻して足底で壁面を捉える。
マナを纏わせた脚で全身を弾き、加速の力を与える。
視界が、男を目掛けて放たれた舌と迎撃しようとする男の挙動を掴む。
そのどれよりも速く、行動の結果をもたらしたのは己の行いだった。
神速と謳われた剣速が、男の肉体を打とうとした舌を切り裂く。
切り飛ばした先端が弧を描き、地面に打ちつけられた。
TOIKIの巨体が痛みに怯む。
その隙を逃がさないように男の大剣が、化け物の頭部に深々と裂傷を走らせる。
「ーーーーーーーー!!?」
TOIKIが困惑と苦悶の叫びを上げる。
「……思った以上にやるじゃねぇか」
巨躯をのたうつTOIKIから距離を取った男が横に並び立ち、悔しげに賞賛を送ってくる。
本来であればそれに対して礼を返すところではあるが、今はそんな悠長な状況ではない。
憤怒の気配を纏わせたTOIKIがこちらを睥睨し、臨戦態勢を整えようとしている。
青年は臆することなく一歩前へと踏み出す。
「不意打ちは騎士道に反するものだが、人々を脅かす存在を相手に騎士の道理を説くつもりはない」
だが、戦いの場において、これだけは告げねばならない。
「ソルベ法国、ワッフル王に仕えし正騎士——かぷこーん!」
鋒を大いなる厄災に突き付ける。
「騎士の信条に基づき、ここで貴様を討ち取る!!」
こちらの宣戦布告に、TOIKIの瞳孔に明確な怒りが宿る。
「ーーーー!!」
放たれた咆哮が肌を震わせる。
TOIKIの傷口が、泡立つ。
舌の断面がマナの輝きに包まれた瞬間、
「……再生、ですか」
切り飛ばしたはずの舌が元の状態に復元されていた。
動揺を落ち着かせようとする間もなく、TOIKIの巨体がこちら目掛けて弾かれた。
◆
TOIKIの再生を見た瞬間、とらの胸の奥で”何か”が疼く。
己が深奥——オドの中で、蓄えたマナが脈打っている。
——また、か……
異形の再生に呼応するように、体内が何かに蝕まれていくようで——
「……知ったことかよ」
吐き捨てる。
自分と化け物にどんな因果があろうと、自分にとってアレは仇敵でしかない。
ならば——
「今日こそ——殺してやるよ」
お読みいただきありがとうございます!
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