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第24章『崩落現場の■■■■■』◆

 悲痛な叫びは空虚に溶けゆく。

 迫る脅威を打ち払うためにも、己が内より湧き出る何かに身を任せ——

『やめてくれ』

 痛みと寒さが全身を覆い尽くす。

 襲いくる感覚が意識を急激に覚醒させていく。


「こ、こは……?」


 喋るだけで全身が軋むように感じる。

 痛みを堪えて周囲に視線を這わせる。


 一面の雪景色。

 白に埋め尽くされた光景を眺め、何が起きたのかが思い出されていく。


 ——雪崩に巻き込まれて……


 人造巨人が最後に放った閃光が山肌を抉り、堆積していた雪が一斉に押し寄せて来たのだ。

 ぽーが防御術を発動させてくれたのだが、膨大な質量に障壁ごと押し流されてしまった。


「みんな、は……?」


 どうにか上半身を起こし、周囲に仲間たちの姿がないか確認する。

 幸い、目の届く範囲にチンギス達を含む全員がいたので、安堵の息を漏らす。

 ぽーの防御術のおかげか、逸れることなく済んだのだろう。

 だが、見渡した限り、誰もが意識を失っているようだった。


 雪崩をやり過ごせたが、このままでは体温を奪われて凍死という可能性もある。

 いや、そもそも息をしているのだろうか……急に浮かんできた嫌な予感に胸が締め付けられる。


 安否確認を。

 そう思い、身体を這いずらせながら移動を試みる。


「とら、さん……バニ、ラさん……ぽー博士」


 遅々とした動きでは時間が掛かってしまう。

 移動しながらも、皆に声を掛けていく。


 しかし、呼び掛けに応じる者はいなかった。


 嫌な予感が膨らんでくるのを必死に抑え込む。

 一番近くにいたバニラの元へと辿り着き、彼女の状態を確認する。


 ——呼吸は……ある……


 良かった。

 身体を揺さぶっても応答がないが、とにかく生きていることに安心する。


 この調子で、他の者たちの安否を確認しようとしたが、


「そん、な……」


 周囲に集まってきた存在に気付き、身体が硬直する。


 絶望感が重くのしかかってくる。


 美しい白銀の毛並みとは裏腹に、獰猛な牙を剥き出しにした狼の群れだ。

 助けてくれる、なんて甘い期待など抱けるような様子ではない。


 ただただ、飢えを満たすための贄を見つけた視線に全身が強張っていく。


 ——マズイ……!


 早く皆を起こさねば。

 そう思った直後には白狼の群れが一斉に押し寄せてくる。


 倒れた皆を貪ろうと牙を突き立ててくる。

 咄嗟にバニラを庇うように覆い被さる。


 こちらの腕や背に、鋭い痛みが走る。

 脳内で警鐘が鳴り響く。


 このままでは皆が餌食になってしまう。


 自分はまだ良い。

 〈再生〉によって、命が絶たれる前に肉体を変質させ、回復させることが出来る。


 だが、他の皆はそうはいかない。

 成す術もなく、狼たちの飢えを満たす糧にされてしまう。


 そんなこと、受け入れることは出来ない。

 こんなことで命を失わせてはならない。


「や、めろ……」


 静止の声は弱々しく、狼たちがそれに怯むことはない。


 こんなのではダメだ。

 もっと声を張り上げろ。


 狼たちが恐れをなして逃げ惑うように。

 力を振るわなければならない。


 さもないと、仲間たちの命が無惨に散ってしまう。


 嫌だ。


 そんなこと許されない。


 目の前の命を助けることが出来ない。


 そんな、弱い自分が——許せない。


 嫌だ——そんなこと、認められない!!

 

 人造巨人の相対した時から燻っていた何かが、燃え盛るような勢いで身の内に広がっていく。


 仲間たちの命を奪おうとする存在を、許せない。


 全身の血脈が熱を帯びる。

 鼓動がうるさいぐらいに胸を打つ。


 仲間たちの危機に指を咥えているしか出来ない——そんな自分が許せない。


 視界の端が、歪んでいく。


「や、めろぉぉぉぉーーーー!!!!」


 堰を切ったように迸る叫びが響き渡る。

 直後、視界が鮮血の赤で染まり——世界が暗転した。



「何が、起こったんだ……?」


 痛む全身の至る所に咬傷が残されており、雪崩に巻き込まれた後に何者かの襲撃を受けていたことを悟る。

 しかし、どういう理由でか自分はまだ無事だった。


 周囲には自分ともそれら襲撃者のものかも分からない夥しい量の血痕が残されていた。


 鼻を突く鉄臭さに、思わず息を詰める。


 獣か魔物かは分からないが、襲いかかって来た者たちを誰かが追い払ってくれたのだろうか。


 ——いったい誰が……?


 周囲を見渡したところで、異様な光景が目に映った。


 血の海に撒き散らされた死骸の山。

 臓腑や肉塊が飛び散り、純白を穢していた。


 その様相が、事態の凄惨さを物語っていた。


「——ッ」


 この光景を作り出したのが何者なのかが分からず、周囲への警戒を高める。


 だが、すぐに張本人を見つけ出すことが出来た。


 雪景色を真紅に染め上げたであろう存在が、血の海に佇んでいた。


 後ろ姿で表情は見えないが、その手は狼の首を掴み、肉を締め上げ骨を軋ませている。

 首の骨が圧壊した音が鳴り響き、狼の全身が力無く垂れ下がる。


 それを成した存在の姿を見て、全身が総毛立つ。


 全身に蠢くような青黒い紋様を浮かばせた姿を、自分は知っている。


 ——TOI……KI……?


 そんな馬鹿な、と頭を振る。

 だが、そう思わせるだけ目の前の人物が、あの時のTOIKIと酷似していたのだ。

 しかし、特徴的な——その頭部から伸びた長耳を認識して、それが誰なのかを理解する。

 紋様の影響でか、体毛までが青みがかっているが、


「すのぴ、なのか……?」


 こちらの呼び掛けにゆっくりと振り向く影。

 血に塗れ、凄絶なまでに歪んだ笑みを浮かべているすのぴのような()()


 怖気を振り撒く異常さに、固唾を呑む。


 こちらに襲いかかってくるのではと、軋む身体に鞭を打ち身構える。

 だが、笑みの表情を濃くしたかと思うと、体表に浮かび上がった模様が薄れていき、


「おい!?」


 まるで糸が切れた人形のように、赤の中へと倒れ込んでしまった。

 気付けば、すのぴの身体中に浮かんでいた紋様は消え、元の——染料で染め上げる前の桃色の体毛へと色を変えていた。


 何が起きたのか頭が理解する間もなく、事態は収束を迎えた。


「なんだってんだ……」


 訳も分からず取り残されたとらの呟きに答える者は、誰もいなかった。

 ただ、降り積もる雪だけが、音もなく全てを覆っていく——











第24章『崩落現場の青色うさぎ~すのぴ:Berserk~』

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