第20章『橇上の迎撃者達』◆
迫り来る巨躯に対するは、矮小なる人の身。
吹けば飛ぶような存在であったとしても、為すべきことが明確ならば——
『やれることをやるまでだ』
とらの後を追い、最後尾にあたるテラスへ躍り出る。
既にヒトの形へと姿を変えた岩石の巨兵が目前にまで迫ってきていた。
「アレだけの巨体、どうしますの!?」
バニラは叫び、とらへと視線を向ける。
既に漆黒の大剣は抜き放たれ、迫り来る質量の暴力を迎え討つため、腰溜めに構えられていた。
「どうするも何も——やれることをやるだけだ!!」
こちらを叩き潰さんばかりの勢いで、巨人の腕がテラスの縁を捉えようとする。
それに合わせて、とらの大剣が横薙ぎに放たれた。
「——金剛砕破!!」
極厚の一閃が、見るからに強固な腕部を破砕し、外側へと弾き飛ばす。
だが、
「全然怯んでないよ!?」
すのぴが悲鳴のような声を上げる。
人造巨人については初めて見るが、明らかに生物という枠から外れた存在であると理解出来た。
体表が岩石で覆われた岩石族とは異なり、岩石そのものがヒトの形を成して動いているようである。
つまり、生物としての感覚器官——特に痛覚などは持ち合わせていないのだろう。
故に、ダメージを負ったとしても怯むことはないということだ。
その推論を裏付けるようにとらが、
「身動きが出来ねぇように四肢を砕くか、マナを供給している核を壊さねぇといけねぇ!」
「その核はどこにありますの!?」
訊ねている間にも巨人が再び腕を伸ばしてくる。
「大抵は胸部——人体の心臓がある辺りに核が埋め込まれてるはずだ!」
どうにかそこを破壊出来れば人造巨人は機能を停止するようだが、
——隙が、ありませんの!
こちらの攻撃に怯む様子はなく、大技を放つ時間を稼ぐのも困難な状況に歯噛みする。
巨人の腕が再度振りかぶられ、迎撃するために攻撃魔法の詠唱に取り掛かろうとするが、
——間に合いませんの!
とらも戦技を放とうとするが、先程よりもマナの練りが不十分だった。
あの質量を逸らすには威力が足りないようで、
「こ、のぉーーーー!!」
巨人の手指が橇に手を掛けようとした瞬間——一陣の風が吹き抜けていった。
「すのぴ!?」
「何をしますの!?」
こちらの言葉など置き去りにして、すのぴが巨人の掌の影へと滑り込んだかと思うと、
「これで!!」
直後、すのぴが宙返りと共に放った蹴りが岩石の巨腕を弾き飛ばした。
その威力は、とらが放った戦技にも引けを取らない威力を発揮した。
「——やった!」
嬉しそうに拳を握るすのぴをよく見ると、その脚部が並外れた量のマナで纏われているのに気付く。
だが、その制御は不安定のようであった。
余分な力を放出してしまっており、時折その輪郭が揺らめいている。
——あれが、ワンダーラビットの——
話で聞かされていただけだったが、実際を目の当たりにし、その規格外なマナの量に固唾を飲む。
しかし、それ以上に驚かされるのはすのぴ自身の才覚と呼べるものだ。
つい先日、巨大な存在への恐怖心を克服したかと思えば、昨日とらに習っていた戦闘技術を実戦で披露してみせたのだ。
——こちらも負けていられませんわね!
不意に沸き立った対抗心に戦意を燃やしていると、
「僕が巨人を押し留めます! だから——」
「ったく、ぶっつけ本番でヒヤヒヤさせやがって! 核はこっちに任せろ!!」
とらが構える大剣を覆っていたマナがその性質を変異させ、大気の唸りが刃の様相を成す。
それに合わせるように、こちらも詠唱を奔らせる。
言霊に呼応するように、体内のマナが術式を通して放出され、力の具象化が始まる。
「集え、精霊の息吹。不浄を祓う矢羽と成りて、敵を撃て——」
「飛燕・翼閃!!」
「荒天駆けし風精の矢!!」
風属性の刃と矢が敵目掛けて飛翔する。
ほぼ同時に人造巨人の胸部に直撃し、轟音を撃ち鳴らす。
粉塵の向こう側で、外郭が剥がれ落ちていくのが見えた。
確かな手応えを感じて、剥き出しになった部分に視線を送る。
とらの話が確かなら、この部分にあの巨体を動かすための核があるはずなのだ。
こちらの放った攻撃により巻き上がっていた土煙を、疾駆する巨体が背後へと押し除けていく。
それでようやく露出部の全容を捉えることができ——
「え……」
そこに怪しく明滅する三つの輝きを目にする。
脳が、理解を拒絶している。
目の前の光景を受け止めきれずに思考が停止する。
「くそったれが——!」
「そ、そんな……」
とらとすのぴがそれぞれの反応を示すが、その様相から自分が目にしているものが現実であると突き付けられる。
三つの輝きの正体、それは——
人造巨人を構成する素材のように取り込まれてしまっている、チンギス、ピーゲル、ラージィ——そして、その三人の腕で不気味に輝く腕輪であった。
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