第11章『交差広場の激突者達』
ぶつかり合うのは意志か矜持か。
あるいはただの憂さ晴らしか。
『さぁ――始めようぜ!』
さて、どうしたものかと彼我の戦力を見極めるよう周囲に視線を巡らせる。
広場に通じる四本の大通りからは次々にホワイトケルベロスと称する輩達が集まってきている。
居合わせた者達は、彼等を恐れてか我先にと広場から逃げ出していき、広場にはこちらを囲むように人垣が形成されつつあった。
――長引けば、物量差が面倒だな……
驕るつもりはないが、自分ならば街の不良グループ相手に後れを取るつもりはない。すのぴもここに至るまでの訓練で、並大抵の相手ならば対処は可能であろうことは分かっている。
懸念があるとすれば、バニラだ。
バニラも昨日とは異なり、本来の獲物である騎士剣を所持はしているが、なにぶんコンディションが最悪だった。
今は気を張っているようだが、蒼白な顔色までは変えることは出来ていない。
「…………やれんのか?」
「舐めないで、くださいまし」
明らかにキツそうではあったが、やれるというのであればその気概を信じるほかない。
なるべく彼女への負担を減らすようにと、すのぴに目線を送っていると、
「てめぇらは手出しすんじゃねぇぞ!」
ピーゲルが集結しつつある配下達に向かって、声を張り上げる。
――馬鹿なのか……?
昨日の路地裏とは違い、このような開けた場所であるならば、物量に物を言わせて襲い掛かってくれば良いだろうが――
「さぁ、見せてやりましょうぜ兄貴! それと――ラージィ!!」
ピーゲルがチンギス、そしてこちらの背後へと視線を送り呼び掛ける。
周囲への警戒を維持したまま、視線をそちらに向けると、大通りを駆けてくる巨躯を捉える。
まだ距離があって正確な大きさは分からないが、小さくみても三メートルは優に越える巨体に舌打ちする。
「な、なにあの人!?」
「巨人族、ですわね……」
その威容に度肝を抜かれているすのぴに、バニラが苦悶の声を溢していた。
巨人族。
その名の如く、人族の倍以上を誇る体躯を有する種族である。
成人した人族の胴体以上の太さを持つ四肢から放たれる一撃は、並の防御を紙同然に蹂躙する程に強大である。
生存圏は北領の一部地域のみとされており、ノース・ダストとは遠く離れているはずだが――
――どういう訳か、ここにいやがるとはな……!
そのことに文句を言っても仕方がない。
相手はあの巨人族がいるから、配下の者達に手出しを禁じたということだろう。
――舐められたものだな……
巨人族は確かに強大な力を持った存在だが、大型の魔物と戦うことにも慣れている身としては、多少面倒ではあるが、脅威と捉えるにまだ足りない。
思っていたよりもこちらの動揺が小さかったせいか、ピーゲルが頬を引き攣らせている。
「余裕でいられるのも、今のうちだからなぁ!」
ピーゲルが右腕を掲げると、裾が捲れて銀色の荘厳な装飾をあしらった腕輪が姿を現す。
彼だけでなく、チンギス――そして、ラージィという巨人族にも同様のものを見付ける。
「ブーストぉ!!」「ブースト」「……ブースト」
三者三様に声を上げると、それぞれの腕輪に填め込まれていた魔鉱石が眩い光を放つ。
帯状に伸びた光が枝分かれし、所持者を四方から包み込んでいく。
輝きが落ち着いてきたかと思うと、それぞれの肉体を高純度のマナが覆っていた。
「……強化術の魔道具ーーいや、そのサイズ、古代遺物か!」
「その通りだ! これでお前らなんて屁でもなくなったって訳だ!」
ピーゲルが下卑た笑みを浮かべて、こちらを舐め回すように見てくる。
何故そんなものを街の不良が持ち合わせているかは不明だったが、彼の言い分は最もだった。
彼等に付与された膨大なマナから強化術の威力が窺い知れる。
身体能力だけで言えば、良い勝負――下手をすれば上回られているかもしれない。
それならば――
「こちらも強化すれば――」
同じ考えに至ったバニラがすかさず、強化術の詠唱に取り掛かろうとする。
だが、向こうもそれを警戒していたのか、
「させるかよ!」
取り巻きから投げ入れられた槍を掴み取ったピーゲルが地を蹴った次の瞬間に、こちらに眼前へと肉迫してくる。
迎撃に大剣を横薙ぎで放つが、それを掻い潜りバニラへと穂先を突き出す。
バニラはそれをギリギリまで引き付けて、側面から払いのける。ピーゲルが勢いを残したまま接近してくるのに合わせて、バニラが切り上げを放つ。だが、ピーゲルはピーゲルで、穂先を弾かれた流れに身体の動きを乗せることで、旋回し制動を掛ける。タイミングをずらされたことで空を切ったバニラが無防備な胴体を晒し、そこにピーゲルがなぎ払いを打ち込もうとするが、バニラがとっさに手首を返して受けきる。
鍔迫り合いの状態で睨み合う両者が、互いに不敵な笑みを浮かべる。
「へっ、やるじゃねぇか!」
「そちらは――身体能力を強化してその程度ですの?」
「抜かせ!」
互いに距離を取り、再度得物が打ち合う音が響かせるのを見て、あちらはバニラに任せることにする。
こちらは、
「お前さんが相手ってことか」
「大剣使い同士……それもまた一興というものだ」
悠々とした足取りで近付いてきたチンギスが、クツクツと笑いながら手にしたそれを掲げて見せる。
華美な装飾が施された柄と鍔に、白銀の刀身が街灯に照らされて怪しく輝いて見える。
「魔剣の類か」
「さぁ、どうだろうな?」
韜晦する態度に思わず舌打ちする。
目の前のそれが魔剣であるならば、強大な力を隠し持っていると見て警戒しなければならない。
それに、先程の古代遺物の件もある。
――ただの不良グループが持つには分不相応すぎるだろ……
魔剣もさることながら、強化術を行使出来る古代遺物とは厄介極まりない。魔道具にも同様の効果を齎すものも存在するが、魔道具は一つの例外を除いて小型化に至っていない。実戦で利用するには大型過ぎるので、実用向きではない。だがそれに代わる古代遺物を所有しているとなると――
――バックに何者かが付いている、ってか……
得体の知れなさを感じるが、尻込みしている暇などない。
「すのぴ! お前はそっちのデガブツを頼む!」
「ええ!? ――りょ、了解!」
消去法で、そうなることはある程度予想出来ていたのか、一度は驚きを露わにしたすのぴが意を決して目前まで迫ってきていた巨人族へと立ち向かっていく。
それを確認したところで、改めてチンギスへと向き直る。
「さぁ――こっちも始めるとするか」
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