第9章『スラム街の暗躍者』
闇の中で蠢く影をどうすれば見付けられるだろう。
気付いた時にはすぐそこに。
目を付けられたら、もう逃げられない――
『以後、お見知り置きをぉ』
「クソッ――あいつらどこ行きやがった!!」
夜の闇が深まった路地裏の片隅で、男が空を仰ぎながら悪態をつく。
配下の者もけしかけて人海戦術で街中を駆け回ったが、目的の人物達を見付けることが叶わず、やり場のない怒りがくすぶってしまっている。
流石にこの都市国家を一日そこいらで隈無く探すのは無理があったのだが、それでこの怒りが収まる訳がなかった。
昨晩から夜通しで飲み明かし、いざホームに帰るところであの女が勢いよくぶつかってきたのだ。
良い気分が台無しにされてしまっただけではなく、変なオッサンが乱入してきて痛い目に合わされたのだ。
――このままじゃ、ホワイトケルベロスが舐められちまうじゃねぇか!
この都市国家の裏社会を牛耳っているといっても過言ではない、自身が属する組織の威信に傷が付いたとあっては、首領である兄貴分に申し訳が立たない。
「仕方ねぇ……兄貴やラージィの奴にも力を借りるか」
色々小言や、下手をすれば罰を与えられかねないが、背に腹は代えられない。
そうと決まれば、早速二人のも助力を請うために足を進ませる。
その時――
「おやおや……何かお困りの様子ですねぇ」
不意に背後から掛けられた言葉に、勢いよく振り返り身構える。
視線の先には二メートル近くはあろう長身の、しかし痩せぎすな男がこちらを見下ろしていた。
肉食獣を彷彿とさせる切長の瞳を不気味に細め、不敵な笑みを浮かべてこちらを伺う姿に、苛立ちを感じるが、
「何者だ、てめぇ?」
怒りに任せて襲い掛かることはせずに、警戒心を強めて男に問い掛ける。距離を詰めることさえ躊躇ってしまう男の不気味さに心が粟立つのを感じる。
「そう警戒せずとも……しがない旅の者ですが、お困りの様子を見かねてつい声を掛けただけですよぉ」
「ハッ、そりゃどうも……だが生憎、てめぇに付き合ってる暇はねぇんだ」
男の胡散臭さに吐き捨てるよう言葉を放つ。
――ただの旅人がこんな路地裏に来るかよ……
関わると碌でもないことになりそうな予感があったので、早々にこの場から離れようとするが、
「それは残念……貴方の力になれるかと思ったのですがねぇ」
足早に路地裏を進むが、男がしつこく追い掛けてくる。
「例えば、あの女騎士やギルドの英雄達にひと泡吹かせたり、などなどぉ」
男の発言に歩みを止める。
――見ていたのか……?
それはそれで良い気分はしなかったが、男の台詞につい耳を傾けてしまった。
振り返ったら、男が満面の笑みを浮かべてこちらの様子を伺っていた。
「興味が湧きましたかなぁ?」
「…………話してみろ」
そう告げた時の男の顔は、笑みをであったはずなのに、底知れない恐ろしさを感じた。
「ではでは、商談と参りましょうかぁ」
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