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第6章『行動方針の相談者達』

 さぁ、これからどうしようか?

 向かうべき場所を見定めて、進む足並みを揃えるために、

『話し合おうか』

 呆け、そして頭を抱え出したバニラを見て、もう少し考えて喋れよと頭が痛くなる感覚に襲われる。


 だが、彼女のうっかりのお陰で、想定以上の情報を手に入れることが出来た。

 その情報を元にギルドは西領諸国の緊張緩和に乗り出すことが出来るようになるだろう。

 そして、自分とすのぴの個人的な立場からすれば、


「これで、恩返しの方向性が見えてきたな」


 すのぴに視線を向けると、彼が力強く頷いてみせたので、こちらも笑みで返す。


「恩返し……?」


 一人、話が理解出来ていない様子のバニラがオウム返ししているので、はっきりと伝えてやることにする。


「俺達はかぷこーんに命を救われた」

「それは、騎士として――」

「当然の責務を果たしただけかもしれねぇ。だが、受けた恩を返さずにいられる程、恥知らずになったつもりはねぇよ」


 静かに、しかし明確に告げることでこちらが如何に真剣に考えたことであるかを伝える。

 それでも、バニラは困惑するばかりで、


「で、でしたら、こうしてマジカルソフトをここまで届けてくれただけでも十分――」

「なんかじゃないです」


 バニラの言葉を遮るように、すのぴが口を開いた。


「後ろ向きなことは考えたくないですけど――きっと、かぷこーんさんは今頃、僕の代わりに……」


 そこで言葉を濁し、俯いたすのぴの心中はどのようなものだろうか。

 言葉にすることでそれが現実になるかもしれない恐怖、あるいはそれを告げることで目の前の女性を悲しませないようにするための配慮なのかは分からない。

 だが、彼が想像していることは十中八九、事実と相違ないだろう。

 それはこの場にいる全員が理解していることだと思う。

 だが、すのぴがそうしたようにこちらも明言は避けて、話を進める。


「そうと決まった訳じゃねぇから、違うなら違うで約束通りギルド総本部で合流して、西領の問題――それと厄災って奴をどうにかするために首を突っ込ませてもらうだけだ」


 そしてもし、すのぴが口にしようとして濁したことが事実なら、あの清廉な騎士を助けるために力を尽くす。


 こちらの想いが届いたのか、バニラは深々と頭を下げて、


「ーーありがとう、ございます」


 謝辞を伝え、起こしたその表情に涙の色が見えたが、すぐにそれを拭い去る。


「ですがーー本当に良いんですのね?」


 こちらの返答は分かりきっていただろうが、念のためにの確認を投げ掛けてきたので、改めて頷いてみせる。

 隣のすのぴもが何度も首を縦に振っているのを見て、ようやくバニラもこちらの意思を認めてくれたようである。


「まぁ、良いも悪いも知っちまった以上はギルドの依頼請負人として動かざるを得ないしな」

「うぐっ……そうでした、わね」


 ギルドの規約に記された報告義務があり、そこでは民間人の命や権利が脅かされる状況を知り得た場合はその情報を速やかにギルドに報告・共有することが定められている。

 もしこれに反する行いが認められたならば、依頼請負人としての資格失効だけでなく、下手をすれば実刑に処されることもある。

 厳しい罰則のように感じることもあるが、それ故に依頼請負人達の質を保っているので、組織を運営していく上で必要なことなのだろう。


 ーー半端な気持ちで依頼請負人になられても困るからなぁ……


 過去には前金だけ受け取ってトンズラする悪質な者達も少なくなかったとのことだ。

 そのような輩の流入を防ぐために規約の制定・依頼請負人の管理体制の強化が執り行われたわけである。


「……ともかく、こっちがお前さん達に協力することは認めてもらえたわけだな」


 だから、マジカルソフトを引き渡す上で聞いておきたいもう一つの疑問を言葉にする。


「ーーお前さん達、誰に狙われている?」



「狙われて、いる……?」


 とらの発言を横で聞いていたが、その意味を理解するのに時間を要してしまった。


 話の流れ的にかぷこーんやバニラが何者かに追われていたということなのだろうが、


 ――いったい、誰に……


 記憶を失っている自分がいくら考えた所で答えなど出るはずもないので、その答えを求めるようにバニラへと視線を送ると、


「流石に分かりますわよね……」


 と、溜め息混じりにとらの質問が的を射ていたことを肯定していた。


「状況を考えれば、そりゃあな」

「状況……」


 そこで自分の中で何かが引っ掛かるのを感じた。

 その理由を見付けるために、ここに来るまでに得た情報を整理してみる。


 ――決して、多いとは言えない情報量だけど……


 とらやかぷこーん、そして今日出会ったばかりのバニラから知らされた情報を組合せると、朧気にだが見えてくるものがあった。


「マジカルソフトを手に入れたのに、すぐに帰国しないから……?」

「そうだな。緊張状態が高まっている状況で、わざわざ東領にあるギルド総本部で合流しようとしたのが腑に落ちねぇ……ギルドに救援を依頼するにしても、北領にある支部に知らせれば事足りるだろう」

 

 何者かに狙われているから自国に戻れずにいるといったところか、ととらがバニラに確認すると、


「おおよそは、その通りですわ」


 そして、補足するようにバニラが現在の状況を詳しく説明してくれた。


 かぷこーんやバニラは元々ソルベ法国が懇意にしている各国への親書を届けるための使節団として、出立したとのことだった。

 その時には既に追っ手――先の話に出てきた《聖域》と呼ばれる場所を中心で目撃されるようになった怪しげな連中に尾行されていたらしい。


 どうにか追跡者の目を掻い潜って、本隊と別行動をとり、かぷこーんが深淵領域に向かうのを見届けた後は、単身この街へと潜伏することになったということだ。


「使節団が囮になってくれているお陰で、今の所こちらに追っ手が差し向けられる心配はいらなさそうですわ」

「囮が成立してるってのは、どうして分かる?」


 とらの疑問は最もだった。

 こちらに追っ手が来ていないという確証があるとは思えないが、


「本隊の近くを哨戒している斥候隊から、追っ手に妙な動きはないとの連絡がありましたの」

「連絡っつても、いつの話だ?」

「今現在ですわ」

「ど、どういうこと?」


 言われた意味が分からず、慌てて聞き返す。

 すると、バニラが妙に誇らしげに胸を反らし、


「感覚共有魔法、それか伝心魔法か」

「…………そう、ですわ」


 セリフを盗られたせいか、バニラが不満そうに赤らめた頬を膨らませている。


「その魔法で、遠く離れた場所でも意思疎通出来るってことですか?」


 問い掛けに、バニラから頷きが返ってくる。

 だとするならば、先程の彼女の発言にも納得出来た。 


「そういうことなら……その親書も怪しまれて狙われてるってことか?」


 とらの問いにバニラが首を横に振る。


「親書自体は至って普通の内容と聞き及んでおりますので、それはないかと……単純に、不審な動きをしないか目を光らせているのかと思いますわ」

「……そいつらの目的や規模なんかは分かっているのか?」


 バニラが目を伏せ、悔しそうに肩を落とす。


「残念ながら、不明ですわ……《聖域》や各国でも問題視されているようですが、依然として実態が掴めていないようですわ」

「下手すりゃ《聖域》をはじめ、幾つかの国はそいつらの手に墜ちてる可能性もあるってことか」

「……嫌な想像ですわね」


 西領で実態を掴ませず暗躍していることを考えれば、その可能性も十分ありえるとのことだが、その得体の知れなさに薄ら寒さを感じて、思わず身震いしてしまう。


「ともかく、これで今後の方向性が見えてきたな」


 とらが纏めるように、こちらとバニラへと確認しながら話を進めていく。


 第一に、マジカルソフトをソルベ法国へと移送すること。

 これは使節団を追っている連中とは別に、西領中に潜んでいるであろう目を警戒し、最短ルートではなく、一旦東領へと向かう形である。

 ギルド総本部でかぷこーんと合流する約束をしたこともあるので、それを無視する訳にもいかない。


 ――例えそれが果たせなかったとしても……


 良くない考えが浮かんできそうになるのを必死に抑え付ける。

 頭を振り、とらの話に意識を集中させる。


 次に、西領諸国の状況や怪しげな連中について、ギルドに報告を入れることについては、


「この街には支部がねぇからな……後で最寄りの支部と総本部へ書面を送っておく」


 と、とらがバニラに提言していたが、概ね問題なしのようだった。

 ギルドが動き出すことで、西領の緊張状態、そして不穏な連中がどのような動きを見せるかが読めないため、行動を起こす際には細心の注意を払って欲しいとバニラがとらへと言い含めていた。


 ともあれ、ギルドに情報が伝われば、西領諸国の問題に介入する動きを起こせるとのことだった。

 不安要素はあるが、それにより戦争を未然に防ぐか、あるいは早期終結に向けての調停が行われる算段になるだろうと、とらが説明してくれた。


 なら、残るは――


「厄災、か……」


 それがどういったものかが分かっていないので、事前の対策は難しいだろう。

 だからと言って、ただ指を咥えて待ち構えている訳にはいかないだろう。

 こちらもギルドに報告を入れることになり、必要に応じて各国の首領達にも注意を呼び掛けていくことになるだろう、とのことだった。


「凄い話になってきたね……」


 スケールの大きさにピンと来なかったが、それが途轍もないことだというのは直感で何となく理解出来た。


「ま、やれることを一つずつやっていくだけだな」


 狼狽が顔に出てしまっていたであろうこちらとは対照的に、とらは悠然とした態度で何事でもないかのように言ってのけた。

 そして、


「とらさん、すのぴさん――どうか、よろしくお願いいたしますわ」


 そう言って、深々と頭を下げているバニラを見て、とらと顔を見合わせる。

 すると、とらがこちらの思いも乗せるかのようにバニラに返事を伝えてくれる。


「あぁ、よろしく頼むぜ」

 お読みくださりありがとうございます! 


 向かうべき指標が定まったすのぴ達の事を少しでも気に入っていただけたり、続きが気になるなぁと感じていただけましたら、ブックマークやリアクション、下のポイント★1からでも良いので、反応をいただけると作者のやる気に繋がりますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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