ep.19-2 私を信じてくれたから
6人が夜通し飲み明かした次の日。
宿屋の前には荷物を背負っている大将、すずね、ルトが立っていた。
3人を見送るためなのかアクア、ヨル、ラドは荷物を持たずに対面に立っていた。
大将は一歩前に出て、居残り組の3人に向かって話しかける。
「わざわざ見送りに来てくれてありがとう」
「私があんたの店まで押しかけた上に無理を言って助けてもらったんだ。これぐらいしてもバチは当たらないでしょ」
「実際に助けたのはアクアだけどな」
「いや……間違いなくあんただよ」
「?」
ヨルはこれまでに見たことのない無い笑顔でにこりとした。
それを見た大将は頭の上にハテナマークが浮かんでいるようだ。
ヨルはゆっくりと大将の方に歩みを進め、大将の目の前に立った。
大将と同じ背の高さであるヨルは大将と目線がバッチリと合う。
「あんたがあの時に……私を信じてくれたから、私とラドはここにいてるのさ」
「……あの時っていつのことだ?」
「私があんたの店に押し掛けた時」
「俺って、何かしたっけ?」
「っ!はぁ……」
ヨルは大将の言葉に下を向いて首を振りながら大きくため息をつく。
その2人の様子をすずねやルトは黙りつつもにやにやしながら、アクアやラドは大将と同じような意味の分からないという顔で聞いている。
ヨルは少し顔を赤らめつつ、大将から少し目線をそらして明後日の方向を見ながら話す。
「あんたが、『子供たちを守るためだ』って言って助けるに一票くれたじゃないか」
「あの時か、そうりゃそうだろ。実際に子供たちも居たわけだし」
「っっっっっ!!!!」
何かが納得いかないのか、頭をかきむしるヨル。
ただ、その手はぴたりと止まり、何かをあきらめたような顔で大将の方を再び見る。
「まぁいいや、あんたらしいから。とりあえず、この後の旅にご加護を」
「あぁ、ありがとう」
「このお礼は……またいつかさせてくれ」
「あぁ、楽しみにしているからな」
そう言うと、大将は右手を差し出した。
ヨルはその手をほんの少しのあいだ見つめてから、同じく右手を差し出して握り返した。
ただ、ヨルはその握った手をぐっと自身の方に引き寄せ、大将は態勢が崩れる。
握手するだけだと思っていただろう大将は意味も分からずヨルの方に態勢を崩しながら一歩、二歩と近づく。
ちょうど大将の右頬がヨルの顔の近くになるように引き寄せられる。
チュッ
ヨルはその顔にキスをした。
そして右手を離し、ポカンとしている大将やびっくりしすぎて固まっているすずね、ルト、ラドから全力で逃げるように宿の方に走って行った。
その様子を唯一苦笑しながら見ていたアクアが口を開く。
「あんな可愛いやつだったとはね……さて大将、エルフの森まで何もないとは思いますが、気を付けて行ってらっしゃいませ」
「……!あぁ、行ってくる!」
その言葉に我に返った大将はキスをされた右頬をさすりながらも元気に返事をした。
そしてルトを先頭に宿屋の近くに止めていた馬車に乗り込み、人間界と魔界の間の町『サンドラ』から出て行った。
大将たちは半日程度馬車に揺られ、とある道の真ん中で降りた。
その後もルトを先頭に歩き続け、どこを見ても木しか見えないような樹海の前に立つ。
「ここからは迷うと大変だから、俺のあとにしっかりついてきてくれ」
ルトはそう言うとその森に入り、3人は約半日程度歩き続けた。
流石に歩き疲れたのか、大将とすずねの顔には疲労の色が見える。
「ると……もうしんどいかも」
「俺もだ。あとどれぐらいなんだ?」
「もうそこだ。入り口が見えてるぞ」
「えっ?」
大将とすずねの言葉にルトはニヤリとして答える。
だが、二人にとっては代わり映えもしない森の中であるようにしか見えないらしい。
その様子を見たルトは笑いながら話しかける。
「ガハハ!エルフ達は基本的に隠れて住んでいるからわからんようになっておる、こっちだ」
ルトはすたすたと歩き、一本の巨木の下で止まった。
木はあまりに大きく、上を見れば葉っぱがどこについているかもわからない上、
森でなければ壁と見間違うような大きな幹だった。
そしてその木から自然な形でどこからか一本だけツタが垂れ下がっていた。




